表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
359/588

第345話 正統派非道サーブ

「フハ! ああ、そうそう。試合開始前に、今ゲームで使用するボールについて説明しておきますぞ」


 開始寸前にゼクスが、奇妙な高笑いと共に手を挙げた。ううーむ、この灼熱地獄の中では見ているだけでも暑苦しい、その全身鎧な格好はビーチとは無縁にもほどがある。せめて、もう少し夏らしい見た目にはできなかったんだろうか……


 そんなゼクスの格好云々はさて置き、今回使用するボールはメイドイン・ゼクスの技術の粋を集めた、渾身かつ全身全霊の製品らしい。大八魔が来てもビーチバレーが楽しめるように、という謎のキャッチフレーズを掲げるアレゼルの要望通り、途轍もなく頑丈に作られているようなのだ。触った感触は通常のバレーボールと遜色ないのに、大抵の衝撃には耐えられるよう設計されているとの事。おい、一体何の素材を使いやがった?


「但し、ここで注意点が1つございます。本来ビーチバレーは皆で楽しく遊ぶ為のもの、そこに命のやり取りがあってはならないのです。ですから、あまりに強過ぎる衝撃をこのボールに与えてしまいますと、その瞬間にボールが爆発する仕様になっております」

「待て、何か酷い矛盾が発生していないか?」

「フハハ! フンド殿、唐突に面白い事を言い出しますな! 限度を超えた行いを防ぐ為の、当然の措置でしょう!」

「そうです、当然の措置なのです!」

「う、うむ……?」


 困惑するフンド君を前に、強引な説得を行うゼクスとゼータ。当然の措置なのは兎も角として、まだ大事なところを説明していないだろうに。


「で、その限度ってのはどの程度になっているんだよ? 大八魔も楽しめるビーチバレーを想定してるのは良いけどさ、加減も分からずに爆発されちゃ、やってる方は普通に困るし怖いぞ……」

「尤もな意見やね。でも安心してぇな、それなりの強度はあるさかい。ええっと――― フンドはん、このボールを思いっ切り殴ってくれへん?」

「余がか? ……いや、爆発するであろう!?」

「大丈夫だいじょ~ぶ。アレゼルちゃんを信じてぇな~」


 恐らくはこの世で最も信用できない顔を張り付けながら、アレゼルはボールを持ってフンドへと迫った。渋々、かなり渋々といった様子で、フンド君がボールを受け取る。


「一種の度胸試しといったところか。よかろう、やってやろうではないか! だあぁうあっ!」


 一瞬にして強靭に膨れ上がったフンド君の片腕が、ボールを激しく穿つ。以前ハル達と戦った際に見せた一撃にも劣らない、フンド君の全力攻撃だ。ボールはその形状を歪めながらも、ギギギと破壊される事なく彼方へと飛んで行く――― 前に、ネルが跳躍してそれをキャッチした。


「流石はゼクス様のバレーボール、微塵も爆発していません!」

「フゥーハッハッハッハッハ! フゥーーーハッハッハッハッハッハ!」

「なるほど、あの程度なら問題なく耐えられるって事ね」

「せや、もう2・3段階上の次元だと保障できへんけどな。ま、フンドはんの力でこれやから、ハルちゃん達や非力なあたしは、全力出してもオッケーやで」

「了解です! 私達はいつも通り全力で、ですね!」

「悠那、お前全力以外の選択肢がそもそもねぇだろ」

「まあ、私達にとってはありがたいルールね。必然、師匠達は手加減する形になる訳だし」

「………」

「お前ら、フンド君の気持ちを少しは汲んでやれよ……」


 全力で殴ってボールが破壊されなかった事、吹っ飛ばしたボールをネルに軽々とキャッチされた、2重のショックを受けて立ち尽くしているぞ……


「……いや、心配するな。大八魔内で余が未熟であるのは、既に知れている事。ならば、余もハルナ達を見習うだけだ」

「そうですよ、フンドさん! 一緒のチームな事ですし、私と一緒に高みに登りましょう!」

「昨日の敵は今日の友、か…… よかろう、粉骨砕身の覚悟でやろうではないか!」


 ハルの異常に高い向上心に当てられて、見事な立ち直りを果たすフンド君。まあハルの場合、昨日の友は今日の敵も手早く切り替えられるから、こんな青春に満ちた場面を経た後でも、チームが変わった途端に容赦なく相手を叩きのめせる子なんだけどな。フンド君はその辺の非情さをもう少し身に付けて…… って、フンド君に対してこんな考察をしている場合じゃなかった。さ、試合だ試合だ。


「前に申した通り、ジャッジはセルフでお願いしますぞ。紳士の精神でゲームに臨みましょう! イカサマ、駄目絶対!」

「ボールを介さない攻撃も当然なしやからな~。じゃ、ハルちゃんよろしゅう!」

「はい!」


 火血ビーチバレー、開始……!


「いきますよー!」


 そんな掛け声を発したハルはコートの背後、それもかなり離れた位置にいた。手慣れた感じでボールをトス。前方向に高々と上げられたボールを追い掛けるように、ハルが助走を開始する。やがてボールが落下して、勢いよく跳躍したハルとのタイミングが合致。小さな体が弓なりに反らされ、実際よりも長い長い滞空時間を思わせる。そして、振るわれたハルの腕がボールを打った。ジャンプサーブというやつだ。


「―――っ!」


 放たれたボールは矢となって、一直線に相手コートへ向かって行く。速い、それもコースが絶妙で、側面と奥を示すラインの際どいところを攻めている。躱すだけならば大八魔にとって訳ない速度ではあるが、落下点をこの一瞬で判断するのは至難の業だ。それもネルチームの後衛右側に構えるは、見るからにやる気を失っているリリィヴィア。ハル、マジで勝ちを狙う全力投球である。


「リリィ、そっちに行ったわよ! ライン際を見極めて、ってぇ!?」


 ネルがそう指示を出すも、その言葉は途中で変な叫びに変わってしまった。リリィが全くボールを見ておらず、視線が正面から全く動いていないのだ。


 ―――ズドガァン!


 阻まれる事なく地面に衝突したハルのサーブは、熱砂に触れた瞬間、周囲に超重力空間を発生させた。イメージとしては、接触型の重力爆弾だろうか。着弾箇所が円形に抉れて砂が押し固められ、更にその底の方には毒沼が形成されていた。


「うわ、あのサーブも投擲扱いなのか……」


 今でもすっかり見慣れてしまった非道セット搭載サーブは、きっかりとコートの角ギリギリに収まっている。見事なサービスエースだ。


「やりました!」

「おおっ、先制点だ! すげぇぜ悠那、流石は俺のライバル!」

「わー、綺麗に決まるもんなんやねぇ。コースがえっぐいわ~」

「力任せに打ったところで、ああはならんからな。悔しいが、即興では真似できん業だ」

「速さといいコースといい、文句の付けようがないサーブだったな。ハル、良くやった」

「えへへ~」


 皆に褒められ、ハルも満更でもない様子だ。ただ、リリィが少し不審ではある。ハルの放ったボールを全く見ていなかったのは、単にやる気がなかったからか?


「……いやー、怠惰なだけのリリィならまだしも、パーフェクトリリィがそうなる筈がねぇよなぁ」


 ボールではない、あいつの見ていた視線の先を考えれば、まあ何となくその理由は推測できる。


「フハハ! リリィヴィア殿、ドンマイですぞ! 今のは取るか見送るか、なかなかに困ってしまうサーブでしたからな!」

「そうですね。でも下手に手を出さず、静観で通したのは冷静な判断だったと思います」

「いえ、それよりもリリィ。貴女、ボールを見ていなかったわね? どういうつもり?」

「怖い顔してコートの温度を上げないでよ、ネル。やる気を失った、なんて事はないから安心なさい。ただちょっと、お手本を見させてもらっただけ」

「お手本?」

「私ビーチバレーなんて、そもそも見た事がないもの。知らないものは演技のしようがないでしょ? ま、次のゲームでマスターするけどね」


 ほら、厄介な展開になってきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ