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第169話 クールダウンは大切

 ヨーゼフとの超平和的な話し合いを終えた俺は、全身鎧のボディーガードと共にハルを迎えに、表彰式と閉会式をやっているであろう会場へと向かった。


「旦那ぁ、いつまでこんな格好をすればいいんだ~? この中、暑くて蒸れちまってよ~」

「学院を出るまでだよ。刀子が無茶をしなけりゃ、顔を出しても問題なかったんだけどな」

「そ、それは悪かったって…… 俺だって、反省はするんだぞ?」

「俺は気にしてないんだが、リリィが責任感じてるみたいだからな。ま、もう少し辛抱してくれ」

「うぇーい」


 刀子入り鎧との雑談はそれなりに弾み、会場までの道のりで暇になるような事がなかった。さて、前情報だと例年の成績優秀者には、閉会式後に勧誘やらの人が群がるらしいからな。不在になっている千奈津は、医務室辺りからネルが何とかして回収するだろうけど、その分準優勝のハルに人が集まるだろう。そこから引っこ抜いてくるのが面倒になるな。


「ん? デリスの旦那、あれって悠那じゃねぇか?」

「え?」


 鎧君が指差すは、会場を設置している校庭とはあらぬ方向。建物の裏側に当たる、人気のない場所だ。だがしかし、なぜかそんな所にハルはいて、何かを探すように草むらをガサゴソと引っかき回している。俺と鎧君は首を傾げながら顔を見合わせて、ハルの方へと近づいて行った。


「うーん、ないなぁ……」

「おーい、ハルー!」

「え? あっ、師匠! それに、刀子ちゃんも!」


 俺達に気付いたハル直ぐ様に立ち上がって、駆け足で近づいて来た。まずは決勝戦での健闘を褒めてやる。ハルの頭を撫でてやっていたら、鎧君が頻りにこちらをチラ見してきた。うん、見なかった事にする。それよりも、今のうちにハルを回復させておいて、と――― よし、オーケー。


「えへへー」

「準優勝は結構な事なんだが…… お前、閉会式はどうしたんだ? もう終わったのか?」

「あ、はい。5分くらい前に終わりました。押し寄せる人の波が回避しつつ、ここに走ってきた訳です! はい! さっきから探しているんですけど、まだ見つからないんですよ……」

「探してる? 何をだ?」

「やだなぁ、師匠。決まってるじゃないですか~。私が思いっ切り投げた、ドッガン杖をです!」

「………」


 あー、はいはい。決勝戦の時に投擲したやつか。そうか、まだ言ってなかったっけ。


「方向的にはこっちだったと思うんですけど、影も形も見当たらなくって……」

「ハル、ドッガン杖の事なら心配ないぞ」

「えっ?」

「人のいる場所にでも落ちたら危なかったからな。会場外に出た瞬間に、俺が魔法で回収しておいたんだ」


 小型の黒玉を呼び出して、そこに手を突っ込み弄る。指先にそれらしき感触。ドッガン杖の柄を掴み、ズズズっと引き出す。


「ええと…… ほら」


 保管しておいたドッガン杖をハルに手渡してやる。ドッガン杖は炎魔剣プルートと何度か打ち合ったせいか、所々に傷が付いていた。こりゃディアーナに戻ったら、ガンさんに修理をお願いしないとならないか。


「よ、良かったー! ドッガン杖が帰ってきた! 師匠、ありがとうございます! ご迷惑をお掛けしました!」


 ハルが深々と、それも何度も頭を下げてくる。


「いや、それでハルが会場を抜け出して来れた訳だし、結果的には良かったよ。だからもう頭を上げろ。ポニーテールがぶんぶん騒がしいから」

「了解です!」


 ピタリ。聞き分けの良い娘である。


「よし! それじゃお前ら、テレーゼ嬢の屋敷で働いているゴブ男を回収して、急いでディアーナに帰るぞ」

「えっ、もうですか?」

「もうなんです。挨拶やら何やらをしたいだろうが、今頃ウィーレルやテレーゼは関係各位の方々に囲まれているだろうからな。当然、今日の主役になったハルや千奈津の事も探してる。見つかったら面倒この上ないから、さっさとお暇しちゃうぞ」

「旦那、千奈津の奴はどうすんだ? 確か、担架で運ばれて行ったよな?」

「千奈津はネルが何とかするさ。というか、俺達はそのネルから逃げねばならない」

「「はい?」」


 俺は2人に説明する。俺とネルは閉会式が終わり次第、ディアーナに帰る事を事前に決めていて、それぞれが弟子を確保する事にしていたのだと。俺がハルを、ネルが千奈津を、といった感じだな。


「旦那、私とリリィ師匠は?」

「そこはまあ、その時の流れで……」

「………」

「いや、冗談だから。ちゃんと俺が連れて行く予定だったから!」


 けど、リリィはまあ、自力で何とかしてくれるだろう、うん。気を取り直して、説明を再開。


「で、だ。ただ帰るだけじゃ詰まらないからな。ちょっとしたゲームをしながら帰ろうと思う」

「えっと、それがさっき師匠が言ってた、ネルさんから逃げる事に繋がるんですか?」

「ふふん! 感じる、感じるぜ、旦那! 俺の野生の勘が、嫌な予感しかしないって言ってるぜ!」

「あ、何となく私も感じます。今、試練の時! って感じで!」


 自分で野生とか言っちゃうのもどうかと思うが、流石野生と言うべきか、その勘は大よそ間違ってはいない。


「ゲームはまあ言ってしまえば『鬼ごっこ』だ。鬼がネルで、逃げるの俺達。ゴブ男は俺が運ぶ。オーライ?」

「「おー、らい?」」

「……バックします?」

「背走でって事か? やべぇな、思っていた以上に過酷だぞ、これは……!」


 ……こいつら、一応高校生なんだよな?


「背走じゃなくて、普通に走っていいから。難しいルールは何もない、普通の鬼ごっこだよ。スタートはここ、ゴールはディアーナの外門だ。ディアーナまでのルートはどこを通っても自由、好きに走っていいぞ。で、今から大体1時間後に千奈津を抱えたネルが学院を出発する。道中隠れるのも自由だが、あいつの気配察知スキルのレベルからして、あまりお勧めはできないな」

「はい、質問ですっ!」

「何だ?」

「もしネルさんに捕まったら、どうなります?」

「……察してくれ」

「「何をっ!?」」

「まあまあ、要は捕まらなければいいんだ。あいつだって全力の全力で追い掛ける訳じゃないし、前に走破した半分のタイムで走れば十分間に合うって」

「だ、旦那、地味にかなり無茶な事言ってるぜ?」

「そうか?」


 俺としては無茶でも何でもないと思っているんだけどな。前に走った時よりも2人とも大分成長しているし、力を出し切ればいけるだろ。俺だってゴブ男を背負って走るんだ。


「他に質問はないなー?」

「あの、私はドッガン杖を持って?」

「俺なんか全身鎧姿なんすけど……」

「よーし、スタートするぞ! はいドーン! 俺は先にテレーゼの屋敷に向かうから、後は各々帰るように! 工夫して帰って来いよー!」

「え、あ、師匠ーーー!?」

「旦那、ちょ、速いっ!?」


 こうして長い長い1日の締めとなる、楽しい楽しいクールダウンが始まった。ネルがいの一番に狙いそうなのが俺なだけに、さっさと安全を確保したい。帰ったら帰ったで、引っ越しや式の準備で忙しくなるな。ああ、大八魔の会合も近いんだっけ? ハルが来てからというもの、本当に退屈しない毎日である。

四章終了!

明日から登場人物紹介、スキル紹介、ステータス紹介を一度挟みます。

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[気になる点] 刀子は走破してないと思う
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