第103話 ベルセルク
悠那との模擬戦を終えた織田達は、デリスが居を構える所とは逆側の壁際に移動する。そこでは刀子が待っていた。
「よ、お疲れさん。どうだったよ?」
「……刀子さんが見たままだと思うよ? 魔法使いだなんて肩書きだけ。前衛職の織田よりも力強くて、隠密の僕よりも手癖が達者で、その上で本業の魔法も真丹君を寄せ付けない。彼女の性格上、手を抜くなんて事はされなかったと思うけど、まだまだ隠し玉もありそうだ。正直、僕達じゃ手に負えないね」
渕はどうすれば勝てるのかと考察するのも馬鹿らしいと首を振りながらも、刀子に戦闘で感じた事を全て話した。手に負えないという一点においては、この刀子も同類だろうと考えていたからだ。(一方的な)ライバルにして、現クラス最強の女子と元クラス最強の女子。そんな彼女らによる勝負の行方が気にならないと言えば、それは嘘なのだ。
「桂城って、勝負になるとああなるんだな。知らなかったわ……」
「え、今更か? 意気揚々と向かったから、てっきり承知の上で啖呵切ってんのかと思ってたぜ。普段の悠那はこう、どこか良い子ちゃんなところがあんだけどよ、試合の空気に当てられると纏う雰囲気が変わるんだ。この時の悠那はマジ半端なくてさ、それまで常勝無敗だった俺でも怖いって感じたんだよ。それでいて、毎回毎回俺の予想斜め上を越えていくんだ。そうかぁ、あん時から何も変わってなかったんだなぁ、悠那ぁ……!」
「「「………」」」
刀子の語りは徐々に熱が入り出し、拳に加わる力も強くなっている。ああ、こっちはこっちで何かの病気なんだなと、3人は諦めたかのように刀子の話に耳を傾けるのであった。
「織田、本当にこの世界で勇者を目指すなら、桂城さんや刀子さんを倒す覚悟を決める事だね。彼女達、強さの為なら魔王になる事も厭わない気がするからさ」
「そ、それでも俺は上を目指す。夢は叶える為にあるんだからさ!」
「織田君、顔面蒼白だよ…… 無理しない方が良いよ……」
勇者が見る夢にしては随分と下賤なものだけど。渕は心の中でそう呟いて、向こう側でシートを敷くデリスの陣営に戻った悠那をチラリと見る。悠那は千奈津からタオルと水筒を受け取って、親しみやすい笑顔で何かを話していた。試合内容について話しているのだろうか? やや離れて座るデリスからも、言葉を投げ掛けられているようだった。
「―――ああ、そうだ。俺だけが先に悠那の手の内を見ちゃ、次に戦う時にハンデになっちまうな。よぉし!」
ズンズンと刀子の足が進み出した。
「と、刀子さん? どこに?」
「ちょっと悠那とデリスの旦那の所にな。俺の力を見せてくる」
「……はぁ!?」
唐突にそんな事を言い出した刀子。渕の制止も何のその、刀子の進行を止められる者はそこにはいなかった。
「たのもー!」
「あ、刀子ちゃん」
道場破りのノリでデリス達の下へと立ち入る刀子に、悠那達も気が付く。悠那は嬉しそうに、千奈津は複雑な様子で、デリスはキョトンとしていて反応は様々だった。
「どうした? 模擬戦を始める催促か?」
「違う違う、悠那の疲れが取れないうちにやったって満足できねぇし。万全の状態でやってもらわないと俺が困る。だから悠那、今は休めっ!」
「分かった!」
どうも2人の波長は合っていないようで合うらしい。悠那は体中に気を巡らせ、血液の流れを円滑にする呼吸法を――― やれるかどうかは別であるが、瞑想するように正座してまぶたを閉じた。悠那なりのベストな休憩方法のようである。
「で、一体どうしたのよ? わざわざ体を休めるよう進言しに来たの?」
「それもあるんだけどよ、悠那の戦い方を見ておいて、俺だけ手の内を隠すのはフェアじゃねぇだろ? だから、俺の固有スキルを教えに来た」
「……は?」
千奈津も渕と同様の返し文句である。そんなにおかしいものかと、当の刀子はクックックと笑っていた。そして、そんな笑い方をするのはデリスも同じな訳で。
「クックック! ハル、お前の友達は愉快な奴ばかりだな。本当に飽きさせてくれない」
「ちょ、デリスさんまで……」
「良いじゃないか、千奈津。ただでさえハルは連戦になるんだ。対戦相手がこう言ってくれるんなら、是非とも見せてもらおうじゃないか。勇者の固有スキルってのも興味がある」
以前悠那が戦った佐藤の固有スキル『烈怒帝流』は使い手がアレで宝の持ち腐れだっただけで、その能力自体は非常に強力なものであった。それだけの固有スキルが実力に応じた使い手に備われば、それは良い実戦相手となる。
これまでに確認した情報では、刀子のステータスは勇者達の中でも随一で、トップを走るだけの技量、日々の努力、向上心を兼ね揃えていた。おまけに、悠那に対して強烈なライバル心を燃やしている。だからデリスは期待しているのだ。日本にいた頃と同じく、この世界でも悠那の成長を追い掛けられる好敵手と、刀子がなる事に。
「力を説明するのに必要なものはあるか? 何なら、俺がその相手になるが?」
「んー…… いや、大木とか大岩とか、如何にも硬そう奴の方が良いかな」
「硬そうな、か。それなら、さっき手に入れた最適な岩がある。ちょっと待ってろ」
デリスは自分のカバンを取り出し、その中を探って何かを探し出した。
「お、このサイズが良さそうだな」
人のいない場所に向かって、ポイッとそれを投げつける。直後に、ズンと地を鳴らす音がした。
「おおー、でけぇ!」
音を鳴らした正体はこのダンジョンのボス、石巨人の体の一部だった。運良く損傷がなく、バラしたパーツの中でも一際大きなサイズのものだ。刀子は石巨人の存在をそもそも知らないので、直径3メートルほどの大岩にしか見えていないだろうが。
「この岩は見た目以上に耐久性に優れていてね。ハルでも一撃では破壊できない代物なんだ。それでも大丈夫か?」
「ああ、問題ない。さ、始めようか」
デリスが意地悪そうに言った言葉を全く意に介さず、刀子はそのままズンズンと大岩の前に進み出した。困るどころか、むしろ面白い玩具を手に入れた子供のように喜んでいる。
「じゃ、説明すっぞ? 俺の固有スキル『ベルセルク』は、敵の耐久を無視して攻撃する事ができるんだ。こんな風に、なっ!」
振り返ると同時に、刀子は大岩の上段に向かって回し蹴りを放った。悠那のそれと比べても遜色ない速度の猛撃は、大岩を一撃で蹴散らして上半分を粉砕。更に刀子は下部分を残した岩に乗り上がって、瓦割りの要領で拳を岩に打ち付ける。
「―――ふぅ、どうだっ!」
岩は真っ二つに割れていた。刀子が話した内容の通り、刀子の繰り出した拳や蹴りは、触れた相手の耐久ステータスを貫通してダメージを与えるようだ。テレーゼのような防御一辺倒の天敵である。逆に火力特化の増し増しタイプなので、ネルとは気が合いそうだ。
「………」
「ハル、気になるんなら目を開けて良いんだぞ?」
「えっ、良いんですかっ!? 刀子ちゃん、もう1回やって、もう1回!」
そわそわしながら休憩に専念していた悠那の為に、刀子はもう1つ分の岩を破壊する事となった。




