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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第4章 記憶の抗争
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sub.黄昏の来訪者 part2(1)

本編2話の視点を変えたものです。

 

 ────朝日が顔を照らしたことで目が覚める。

 周りを確認すると昨日見た景色が今ははっきりとわかった。雑草がまばらに生えている地面、周りに連なっている木々、そして少々の小さな花。暗がりで見えていなかったものが全て見えるようになっていた。

 オレは地面の上で昨日自分がした通り、若葉の上でマントにくるまって寝ていた。もしかしたら夢じゃないかって期待したが、やはりそう甘くはなかった。寝起きでぼーっとしていた頭がだんだん冴えてきて、現実に引き戻される。


「……そろそろ起きるか」


 ため息をついて仕方なく身体を起こす。その途端、


 ……ぐうぅぅ〜。


「……」


 ……無様にも間抜けな腹の音が鳴った。

 考えてみれば、昨日の昼から何も食べていなかったな……。この見知らぬ場所に放り出されてからまともなものを口にしていなかったし、夜にも水を飲んだだけだった。


 近くに何か食べ物になりそうなものが無いものか。そう思ってキョロキョロしていると、数メートル先に森があるのが見えた。視界いっぱいに広がって全貌を捉えきれず、ここからでもかなりの大きさなのがよくわかる。

 食べ物があるかもわからんが、モノは試しだ。とりあえず行ってみるか……。


 そうして森の中に入ってみると、そこは木々が伸ばした枝と葉が陽の光を遮り、うっそうとはしていたが、木漏れ日があちこちから差し込んでいて意外と明るい場所だった。

 外観からなんとなく察してはいたが、やはりそこそこに広い森だ。迷って出れなくなるなんてことにならないように注意しておかなければ。


「……ん、こいつは?」


 ふと視線を反らした時に茂みの中の低木に赤い実がなっていることに気づく。近くで見てみると、それは木苺だった。


 とりあえず食べられそうな物だ。不幸中の幸いだな。

 早いとこ目的を果たすため、早速オレはしゃがみこんで木苺を摘んで食べだした。途端に、甘酸っぱい味が口に広がる。一粒が小さいからたらふくとはいかないが、空腹はしのげそうだ。とりあえず空腹でぶっ倒れるなんてことは避けられてホッとする。

 ……しばらく木苺を食べ進めていた時、近くでガサッと何かが動く音が聞こえてきた。

 

「……っ⁉︎ 誰だよ‼︎」


 昨日と今日のことで気が立っていたオレはつい言葉を荒げてしまった。


「きゃっ⁉︎」


 返ってきた声は女の声だった。高さからして同い年くらいのだろう。

 だが、昨日から色々あったせいでオレは警戒心が無駄にふくれ上がっていた。同い年くらいの女子、余程なことがない限り危険なんてない筈なのに、茂みの向こうにいる影がやけに恐ろしく感じてしまう。


「えっと、誰なの?」


「うるさい! とっとと失せろっ!」


「は、はひっ!」


 オレが怒鳴りつけると、そいつは情け無い声をあげて、やがてバタバタと走り去るような足音が聞こえてきた。どうやらこの場から逃げ出したらしい。

 ……ん? ちょっと待て。そいつにここが何処かぐらいは聞ける筈だ!

 そう思ってオレは慌てて立ち上がる。……が、


「って、もういねえし……」


 さっきまで茂みの向こうにいた筈の人影はもう見えなかった。既に去った後のようだ。

 逃げ足の速い奴だ。オレもすぐに立ち上がったから、少しくらい後ろ姿が見えてもいいというのに。


 だが、そんなことはどうでもいい。我ながら馬鹿なことをしたものだ。折角のチャンスを無駄にしてしまった。

 追いかけようにも、何処に行ったのか見当もつかないのに闇雲に探したって仕方ない。それに木苺も全て食べ終わったし、そろそろ出ることにした。


「……ったく、どうなってんだか」


 ……そう思って歩きだしたはいいが、一向に出られる気配がしない。草木も同じようなものばかりで、通ってきたところをずっとぐるぐるしている感じだ。


 なんとなくだが、わかった気がした。ここには妙な術がかかっていることが。

 実は森に入った時も違和感がした。何もいないはずなのに、誰かに見られているような感覚がいつまで経っても無くならず……おそらく、その術のせいだろう。空を飛んだとしても脱出は無理だろう。森全体施されている程の魔法だ、飛ぼうとした時に邪魔される可能性が高い。


 オレのこの予想が正しければ、さっきの女がどうやって森を歩いて行ったのかが気になるが、今考えても仕方ない。普通ならお手上げだろうが……オレには方法がある。


「舐めんなよ。色々あったおかげで大抵のことじゃ驚かないからな」


 オレは懐からある魔法具を取り出した。

 探し物をするときに使う、短いステッキ。本来ならその通りに使うものだが、正しい道筋を探すのにも使えるんだ。バイトで山の奥に入ることもあるため、道に迷わないよう仕込んであったものだった。

 早速試してみようと、オレはそのステッキを地面に立てる。手を離すと、バランスを保てなくなったステッキはすぐにぱたりと倒れた。

 ……そうして倒れたステッキの先は、オレから見て右の道を指し示した。


「……こっち、か」


 ステッキを拾い上げ、歩きだす。それから道が分岐している場所に辿り着く度に再び足を止めて、ステッキを立てるという作業を繰り返していき、オレは示された通りに歩き続けていった。

 そうしていく内に木々の間から差し込んでくる木漏れ日が強くなってくる。外にだんだん近づいている証拠だ、オレはステッキが示す道を信じて歩き続けた。


 ……何回かその動作を繰り返して、やがてなんとか森から脱出できた。木々が遮っていたそよ風がオレの頰を優しく撫でる。ホッとする瞬間だ。

 ふう。ようやく出られたな。木苺にはありつけたが、この森にはもう入らないようにしねえと。


「さて……これからどうするか」


 オレはそこからの景色を眺めてみる。昨日に泉近くで見た街並みがよりはっきりと一望できた。一応、オレの手元にはここに来る前にバイトで貰った金はあるが、何処だかわからない場所で通用するかが気掛かりだ。だが、昨日のような食べ物もない、寝床もない状況を繰り返すなんてことはなるべく避けたい。一応行ってみるか。


 オレは背から羽を広げ、飛び立つ。スピードを速めると風がオレの頰を掠めて心地が良かった。緊張で日照っていた身体を、風が冷ましてくれるようだ。ここに来てからようやく、リラックス出来た感じがした。

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