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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第4章 記憶の抗争
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sub.黄昏の来訪者 part1(2)

 

「……はっ⁉︎」


 気がつくとオレは地面に放り出されていた。冷たい、土の感触が肌を刺すように身体に伝わってきたことで目が覚めた。

 数分前の記憶が完全に飛んでいる。なんとか気を落ち着かせて、パニックにならないように努めた。ここで取り乱しても余計に体力を使うだけだ、それは避けなければならない。

 ……気を失っている間に地面を転がったのだろうか、服のあちこちに土の汚れと千切れた草が付いていた。


「くっそ、ついてねぇ……」


 苛立ちながら服をバシバシと叩いて汚れを落とす。それを終えてから、ようやく立ち上がった。

 周りを見渡すとすっかり日が暮れた後で、薄暗くなっている。周りの景色もぼんやり見える程度で、視界が悪い。それに加えて、何故だか少々暑い。年中、冷涼なシャドーラルで暑いと感じることなんて滅多に無いんだが……。


 仕方なく法衣の上にいつも羽織っている白の厚手のマントを外し、見渡しがよさそうな場所を目指す。今はとにかく、状況を知りたかった。とりあえず高い場所を探して周りを確認する。


「なっ……」


 そこには見慣れたシャドーラルの景色……ではなく、山もない、海に囲まれている国だった。

 南には城があり、それを囲うようにして街が広がっている。街の灯りは周囲の暗さも相まって余計明るく見えた。しかし風景こそ似ていたが、明らかにシャドーラルとは全く別の景色だ。その証拠に、今の季節じゃ国全体を覆っているはずの雪が一切見えないだから。


「何なんだよ……」


 何が起こったのかさっぱりわからない。

 どうして、こんなことになっているのかも。どうして、オレはこの場所にいるのかも。


 ────だがこれだけはわかる。

 とんでもない災難に巻き込まれたってことだけは。


「なんだってんだよッ……‼︎」


 苛立ち、地面を殴りつける。その音も虚しく、風に掻き消された……。





 ……チッ、いつまでも呆然としていても仕方ない。

 まずどうしてこうなったのかが突き止めないといけない。未だに混乱している頭を深呼吸することで落ち着かせ、オレはまずはあの鏡を探した。


 鏡自体はそれほど遠いところには無く、すぐに探し当てられた。……鏡の光は消え去り、覗き込んだオレの顔を写しているだけ。見た目だけじゃ、ただの鏡だ。とてもさっき光輝いてオレにこんなめに合わせたように思えない。

 だが、原因はこの鏡であるのは間違いない。これを使ってなんとか戻らねえと……。

 そう思ってオレは早速鏡に手を突っ込んでみるが、金属の感触を感じるだけでなんにも起こらない。冷たく、滑らかな銀色の壁がオレの指先を弾く。鏡に映った自分が、オレ自身を拒むかのように押し返しているようだった。


「くそっ、やっぱ光ってないと駄目なのか……?」


 何か条件があるのか……考え込んでみるが、何も思いつかない。

 ……この世界じゃ有名な鏡なことは確かだが、はっきり言ってそれだけだ。なんのためにあるのか、どうして大切なのか教えられることは無かった。


 ────何故、吸い込まれたのか。

 ────何故、突然輝きだしたのか。

 ────何故、オレだけこんなめに遭うのか。


 疑問は尽きることなく、留まることを知らない。一度考え出したら氾濫したようにドロドロと押し寄せてくる。

 他にも裏側から試してみたり、軽く叩いてみたり、鎌だけでも入れないかやってみたり。思いつく限りのことを試してみたが……全て無駄に終わった。鏡の中に入れることは二度となかった。

 ……視界の端に星が映りこんできたことでハッとし、慌てて手持ちの時計を確認してみたらかなり時間が経過していた。もう少しやっていたい気もするものの、手段も思いつかない中やっても無駄と判断し、渋々ここで切り上げた。


「はあ、帰る場所すらないとはな……」


 仕方なく、今日は野宿する覚悟を決めた。

 乾燥している場所を確保して、拾って来た枯木を適当に組んで、魔法で火をつける。即席のものだが、ちゃんと焚き火として機能してくれた。

 暖かな炎が揺らめいている、その光景を見るだけで安心感があった。パチパチと音を立てる暖かな炎は、日が沈んだことで冷えたオレの身体を程よく温め、暗くなった周りを明るく照らしてくれる。

 こんな暗がりじゃ、ろくな木の実も見つからなかった。とりあえず水は飲まなきゃくたばってしまうために、泉から水を少し飲んで誤魔化した。


 そして……寝床とはいうと。下に摘んできた若葉を隙間なく敷いてその上に寝そべり、さっき外したマントをタオルケット代わりにしてその中にくるまるという、まあ野宿にしてはマシなベッドになった。いつも防寒用として羽織っているマントをこんな用途で使うことになるとは……できればこの一度きりにしたいところだ。

 寝そべると、自然と夜空が視界に写り込んでくる。日が沈み、すっかり濃紺に染まったそれには既に星があちこちに輝いている。キラキラといつも通りオレの苦労なんざ知らない星々が呑気に輝く空だけ見ていれば、いつもと変わらないというのに。


「オレ……戻れるよな……?」


 今日何回目かわからない、ため息を吐きながらオレは目を瞑った……。

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