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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第4章 記憶の抗争
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sub.黄昏の来訪者 part1(1)

『幻精鏡界録』pv1000突破記念に書いたサブストーリーです。part1は本編一話辺りの時間軸です。


 ……噂を聞いただけだった。

 そんな不確かな情報なんて、まともに聞くことすら無駄だと思っていたのに。

 とある日だ。普段となんら変わらない日常で、その話を自分が通っている学校で聞いた。


「鏡の泉周辺で、見慣れない魔物が発見されたとのことです。現在、調査中らしいのでくれぐれも近づかないように」


 帰る前のホームルーム中。学校での担任が教壇の上からそう言った。たまに聞く注意みたいなもので、周りも声をひそめながらまだ喋ったりなどして気にしていない様子だ。

 周りがそんななか、魔物を相手にすることが多い自分は珍しく気になっていた。


「見慣れない魔物、ね……」


 オレ……ルヴェルザは誰にも聞こえない程小さな声で呟いた。

 普通の噂であればくだらないと思って聞き流していたが、魔物の問題なら話は別だった。オレはとある事情で周りより魔物と関わることが多い。オレには親も親戚もいないために、魔物退治のバイトをしているからだ。


 確か二日前にバイトの時には特に担任がいうような妙な魔物は見かけなかったが……。だとすると、昨日か一昨日に目撃されたのか。

 まあ気にはなるが……、今日の夕方もバイトが入っている。確かめるよりはそっちが優先だ。

 ホームルームが終わって周りが各々のペースで帰っていく。オレも自分の荷物をさっさとまとめてバイトの場所へと向かった。




 そうしてオレは今、雇い主に指定された場所で魔物に向かってひたすら鎌を振るっていた。

 大振りな武器でも狙いをしっかりつけ、確実に仕留めていく。斬撃を浴びた魔物は次々に消滅して、数が減っていき……そうしているうちに、群を全滅させることが出来た。


「お疲れ様。いつも見事だねぇ」


「このくらい、なんてことない。相手にしたやつは雑魚だからな」


「頼もしいね。じゃあ次の場所だ。鏡の泉の丘に行ってくれるかい?」


「……!」


 鏡の泉の丘……そこは担任が言っていた、妙な魔物が発見されたという場所だ。しかも聞いたばかりの今日に、ピンポイントで指定されるとは。

 普通なら別に気にすることはなかったが、あの話を聞いた後だったから少々驚いた。


「おや、何か気になることがあるのかい?」


「あ、いや……別に」


 雇い主の態度は至って普通。この様子だと、雇い主は知らないようだ。

 まあ見慣れない魔物ってだけで、変に厄介だという話は聞いていない。だから大丈夫だとは思うが……。

 何にしても警戒しておくに越したことはない。鎌をすぐに振れるように構えておきながら、鏡の泉の丘へと登っていく。


 ……そこには、確かに魔物の群れが一つあった。

 その魔物は丸い身体をして、頭に大きな葉がついている。確か、リーフナーとかいう魔物だ。だがリーフナーは通常、温暖な場所に住んでいるはずだ。こんな年中冷涼な所に()()いる訳がない。

 成る程、こいつが見慣れないやつって訳か。見慣れないといっても苦戦する相手じゃない。

 オレに気づいて殴りかかってくるリーフナーに鎌を振るう。


「おらっ!」


 思った通り、さほど強くない。一振りで三体くらい倒した。

 仲間が倒されたことでリーフナーは明らかに同様する。


「さっきの威勢はどうした? ほら、かかってこいよ」


 鎌を上に軽く振って挑発する。

 リーフナーは物の見事に挑発に食いついた。怒って再び攻撃を仕掛けてくる。

 リーフナーが攻撃に入るタイミングをよく見ながら当たらないようにオレはそれらをかわして、リーフナーの隙ができた瞬間を狙って、魔法を撃ち込む。


「『ディザスター』‼︎」


 鎌から衝撃波を放ち、一気に倒す。

 しばらくしてリーフナーが全ていなくなった。噂が気にはなったが、なんとかなったことにオレはホッと息をつく。

 そのことを雇い主に知らせて今日の分の手当てを貰う。袋に入れられた硬貨の重みが手に伝わり、達成感を静かに噛み締めた。


 これで今日のバイトも終いだ。これで後は帰るだけ、なんだが……。


「……」


 さっきのリーフナーが何処から湧いたかが今になって気になり、道を引き返した。


 オレは胸に引っかかりを覚えるまま鏡の泉の丘を登り、泉の前に来てしまった。

 泉の中央にはいつも通り、やたら豪華な装飾が施された鏡が据えられている。聖なる鏡と呼ばれる、ダイヤモンドミラーだ。金の額にはめ込まれた大きな鏡は夕日の光を反射し、オレンジ色の空を写している。

 はあ……。なんで来たんだろうな。

 我ながらそう思った。だがせっかく来たんだ、何かすることはある筈だ。あんな小さな魔物が国を越えてここまで来るのは考えにくい。だとすれば、可能性が高いのはこの鏡だが。


 ……しばらく鏡の中を覗き込んだり、周辺を見て回ったが原因らしい原因は掴めなかった。いつも通り、風が吹く度に表面に波紋が描かれる水の上に、その鏡は据えられているだけの光景だ。

 ああ、くそ。無駄足だったか……?

 その後も特に気になることは無く、諦めて帰ろうとした。


 ────が、突如として鏡がパアッと光輝きだし、辺りを明るく照らした!


「……ッ⁉︎」


 驚いて振り返ると、鏡は白く眩い光に包まれて、辺りを昼間のように明るく照らしている光景が視界一杯に突き刺してきた。

 ……オレは振り向きはしたが、どうすればいいかわからず立ち尽くす。

 何なんだよ……。まさか、こいつが本当に原因なのか?


 よくわからないが、近づいてはいけないような気がした。触れてはならない、これ以上は見てはいけない────そんな危険を本能的に感じ取り、思わず後ずさる。

 すると鏡はそのことを感じてか知らないが、光が強まり視界いっぱいを白く染めた。それと同時に後ろから風が吹き始め、オレは吸い込まれる感覚に囚われた。


「じょ、冗談だろ⁉︎」


 不意をつかれたことで反応が完全に遅れた。逃げ出そうとするが風がますます強くなる。……一瞬、踏み出して地面から足が離れた瞬間、完全に身体を持っていかれた。


「うわああぁぁーーーっっ⁉︎」


 浮いたことで抵抗することも出来ず、風にされるがままに鏡に吸い込まれた……。

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