第33話 迫り来る脅威(1)
私達、ロバーツさんも含めた一行はニニアンさんに導かれ、私達が島に上陸した反対方向へと目指しているところだ。
反対側も通ってきたところと同じく、池が枯れて魔物達が襲いかかってくる。魔物を倒しながら、大精霊二人が感じた気配を辿る。
やがて一つの大きな池があったであろう跡地に到着した。
……そしてそこにはあった。忘れるはずもない、景色と馴染むことのない真っ黒な結晶が。
「くそっ、嫌な方向に予想が的中したな」
オスクは不快そうに表情を歪めた。以前にあの結晶の脅威を見た私達も結晶を睨みつける。
不快になるのはもう一つ理由がある。こんな、まるで私達を狙ったかのようなタイミング。『滅び』にとって脅威であろう私達を始末しようとしているかのようだ……。
「これが例の結晶か。なんというか、淀んでいるね……」
「あれがそうなんですね……。話には聞いていましたが」
結晶を初めて見た、ロウェンさんとニニアンさん、ロバーツさんも本能でその危険性を感じ取っていた。
「あれが『滅び』ねェ。なんかヤバいってのはわかるぜ」
「近づいたらあの『ガーディアン』が出るんでしょうか?」
「さあね。とにかく気をつけろ。今回は堅物の時みたく、ストッパーがあるわけじゃないからな」
確かに、オスクがいうように抑え込むものが何もないとなるといきなり不意をつかれることもあり得る。みんな、それを聞いて慎重に武器を構えた。
そしてオスクが一歩踏み出した途端……結晶を覆っていた力が一気に溢れ出す。
「ぐっ……!」
酷く淀んだ空気が私達の周囲を覆い尽くし、晴れているというのに視界すら陽の光が遮られるように思えてくる。氷河山の時にも体験したことではあったけれど、何回受けても慣れる気がしないし、慣れたくもない。
やがてその力は辺り一面を覆い尽くすと、池の跡地に液状のような闇がドロドロと溜まっていく。
「な、なにこれ?」
「見りゃわかるだろ。まんま毒だ」
「ど、毒⁉︎」
オスクの言葉に全員池を驚いて見る。
池はかなりの大きさだ。池には触れなくなってしまうということは、戦える場所が限られてしまう。足場が狭いとなると、かなり厳しい戦いになりそうだ。
その池を通じて毒を吸ってしまったのだろうか、周りの木々がみるみるうちに枯れていき……周りはほんの一瞬で毒に侵された木で溢れた死の森になった。さっきまでの活力があった森の面影すら感じさせない程に。
ひ、酷い……。これが『滅び』なの……?
「酷えことをするな。こんなことしてる奴はどこにいるんだ?」
「毒沼を見てみろよ。何かいる……!」
ルーザの言葉通り、毒沼がなにやらボコボコと音を立てている。次の瞬間、何かが飛び出してきた!
「……っ‼︎」
毒沼から出てきたのは、サメの頭とワニの身体をくっつけたようなバケモノ。全身は真っ黒で目だけが不気味な赤で爛々と光っている。全身から淀んだ力が滲み出ていて、その眼光からは生気はまるで感じない。
こいつが氷河山の時も対峙したガーディアンで間違いないだろう。姿形こそ異なるけど、あの禍々しい雰囲気はまるで同じだから。
「出たな……!」
「私の場所を汚すなんて許しません! もう怒っちゃいました!」
穏やかな性格のニニアンさんだけど、『滅び』の所業に目を怒りで吊り上げながら水を纏った槍を構えて臨戦態勢を取る。ガーディアンも私達が抵抗することを理解したようで、ギラつかせて襲いかかる気満々だ。
人数はいるけど、氷河山の時も大精霊二人でかかっても苦戦したガーディアン。充分気をつけなければ……。
「『ディザスター』!」
「『カオス・アポカリプス』!」
攻撃的なルーザとオスクが早速ガーディアンに魔法を仕掛ける。
オスクの魔法でガーディアンの視界を奪った後、ルーザが鋭い攻撃を食らわせている、いい連携攻撃だ。
だけどガーディアンもやられっぱなしじゃない。毒沼に尻尾を突っ込んで大きく振り回す。そのせいで毒が私達に飛び散ってきた!
「うわっ⁉︎」
こんなの、避けられないよ!
予想外の行動に私達は戸惑った。足場が悪いことも伴って飛び散った毒を浴びてしまった。
目とか口とかに入りはしなかったけど、毒が触れた場所がヒリヒリする。これはそのままにしていたらマズいかも。
「おいおい大精霊サマよ、なんとかならねえか?」
「え、えーと……あ、そうです! 『ヒールレイン』!」
ニニアンさんが上に向かって手をかざす。すると、雲もないのに、弱い雨が降り出してきた。
雫が私達を優しく濡らしていき、身体の汚れを清めていく。そのニニアンさんの雨のおかげで浴びてしまった毒も洗い流せることが出来た。
「癒しの効果がある雨です。これで毒も綺麗さっぱりですよ!」
「ありがとうございます、ニニアンさん!」
「よっしゃ! 反撃だぜ!」
みんな、仕返しとばかりにガーディアンに次々と魔法を浴びせる。これでガーディアンの体力もかなり削れたはずだ。
だけど優勢とまではいっていない。ガーディアンが暴れまわるせいで、あちこちにある小さな池の跡にまで毒が溜まっていってしまっている。私達の足場は奪われていくばかりだ。
「や、やりにくいね……!」
「なんとか出来ないのかよ⁉︎ これじゃ、沼にドボンだってあり得るぜ!」
うっ。それは勘弁したい……!
でもイアの言う通りだ。しかもこの状況じゃバランスを崩さないようにと足元ばかりに気を取られて、ガーディアンに付け入られる隙も増えてしまう。
なんとか深手を負わせることが出来ればガーディアンの力が弱まらないかな……。迷っていても仕方ない、私は急いで詠唱を始める。
「『リュミエーラ』‼︎」
光弾を放ってガーディアンに当てる。なんとか命中した。
光弾をもろにくらったガーディアンは仰け反る。踏ん張ってはいたものの、衝撃に耐えきれずにその身体は吹っ飛んだ。
「やった……!」
攻撃を当てらてたことで喜んだのも束の間。なんと次の瞬間、ガーディアンは沼に潜ってしまった!
しかもさらに悪いことに、池は繋がっているらしくて沼のあちこちからガーディアンが泳いでいる音が聞こえる。
そんな! これじゃどこから出てくるのかわからない……⁉︎
みんなも同じことを考えたようで、目に見えて戸惑う。
「くそっ、どこだ⁉︎」
「こ、これじゃあやられるのを待つようなものですよ……!」
みんな、どこから襲いかかってくるかわからないことに動揺している。明らかに劣勢だ。
だけど、本当にどうしたらいいのかわからない。こうしている間にも、ガーディアンは隙を狙っているに違いない。
その予感が悪い方に的中して、ガーディアンはキョロキョロしている私達の意表を突いて、好き勝手に暴れてくる。背後、足元……視界の死角である場所をガーディアンは確実に狙って、自分の牙と毒を喰らわしてくる。
毒はニニアンさんが浄化してくれているけど、こちらの体力はじわじわ奪われていくばかりだ。このままじゃこちらが力尽きるのも時間の問題だ。
ど、どうしたらいいの……‼︎
なにか弱点さえあれば。だけどそれがわからない。私達は打開策もないまま、その場でオロオロするばかりで────




