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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第4章 記憶の抗争
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第32話 慈しみなる水乙女(3)

 

 ……そして、ロバーツさんの案内で島の中央へとたどり着いた。

 そこには大きな湖があちこちに広がり、とても澄んだ水が湧き出しているところだった。涼しい風が木々を吹き抜けながら佇む景色と、その湧き出た水の輝きはまるで宝石のよう。

 みんな、外側からの状態では信じられないくらいの光景に驚きを隠せない。


「す、凄いね……」


「これが大精霊の力なのか……。初めて目の当たりにすると圧倒されるな」


 ドラクとロウェンさんも大精霊の力の前にため息をつくばかりだ。

 この辺りに大精霊がいるのは間違いないだろうけど、見渡してみた限り、この近くには見当たらない。どこにいるんだろう。


「こりゃいつものとこにいるな。お前らついてこい」


 どこを探そうか。私達が迷っていたところにロバーツさんが前に出てくれたため、素直に従うことに。

 湖を近くで見ると湖はそこそこ深いのに、底まで透き通っているのが分かる。その綺麗な水の中で色とりどりの魚達が泳ぎ回る様子は、見ていてとても癒される。用事が済んだらしばらく見入っていたいと思ってしまうくらいに。

 他のみんなも泳ぐ魚を目で追ったりと景色に見とれているようだった。船旅疲れを癒すためにも、大精霊に会えたらしばらくここでゆっくりしようかな。


「おう、ここだ。おーい、大精霊サマよー!」


 そんなことを考えている内に、目的地に到着したようだ。そこにあった大精霊がいるらしい小さな洞穴の前で、ロバーツさんはここぞとばかりに大きな声で叫ぶ。


「……! その声は、ロバーツさんですか?」


 やがて、その声に返事するかのように洞穴の中から甲高い声が返ってくる。しばらくして、そこから精霊の女の人が飛び出してきた。


 水を思わせる水色の髪で、長い後ろ髪を2つの三つ編みにして前に垂らした特徴的な髪型をしている。そして服装は青を基調とした肩が剥き出しの精霊らしいドレス。

 さっきまでのロバーツさんとのやり取りからも間違いなく、この女性が水の大精霊なんだろう。


「やっぱりロバーツさん! あれ、この方々は……?」


 水の大精霊は面識がない私達に対して戸惑ったような視線を向ける。だけど、オスクの姿を目にした途端、それはたちまち驚きの色へと塗り替えられた。


「オ、オスクさん⁉︎ ど、どうしてここに……いえ、お元気なのはいいんですけどっ、でも」


「別にいいっしょ。それともなに? 見せられないようなものでもあるわけ?」


「そ、そんなものありません! いらっしゃるなら連絡していただければ良かったのに、と思っただけで……わ、私、これでもすっごく心配してたんですから!」


「はいはい。ま、近況報告してなかったのは悪かったと思ってるよ。それどころじゃなかったってだけ」


 どうやらオスクはこの水の大精霊に何も言っていなかったらしい。事前連絡も無しに押しかけてしまっていたなんて、それじゃあ驚かれるのも当然だ。

 オスクがいてくれたおかげで、私達への警戒心を解いてくれたのだろう。大精霊だと思われる女性は、その場で礼儀よくぺこりと頭を下げて自己紹介する。


「ええと、ニニアンと申します。ご存知かもしれませんが、一応水の大精霊……です」


「相変わらず自身無さげだな。立派な役目持ってんだ、そういうのは胸張っていうモンだぜ」


「だ、だってぇ……」


 ロバーツさんが言っても、そのニニアンと名乗った大精霊は恥ずかしそうに縮こまる。その言葉通り、ニニアンさんの態度はどこか遠慮がちだ。

 とりあえず私達もニニアンさんと交流を深めるためにそれぞれ自己紹介をしていく。みんなが次々と名乗っていき、やがて残りは私とルーザだけとなる。


「えっと……私がルジェリアです。ルージュって呼ばれてますけど」


「ルヴェルザだ。ルーザが呼び名だけどな」


「えっ……?」


 ニニアンさんは何故だか私とルーザの名前を聞くと言葉を失った。海を思わせる深い蒼色の瞳が、私達2人を行ったり来たり。


「えと、どうかしました?」


「あ、いえ。なんでもないんです、すみません。そんなはず……ないですから」


 さっきとはまた違う、ニニアンさんのよそよそしい態度。私もルーザも訳がわからず、揃って首を傾げる。

 もしかして、オスクが隠している私とルーザの事情について、ニニアンさんは何か知っているのだろうか。でも、ニニアンさんはそれについてすぐ否定してしまった辺り、今はまだ話してくれそうにない。オスクも以前その時ではないと言っていたし……気になることは確かだけど、今は元々の目的に集中しよう。


「で、本題に入るけど。お前の力も貸して欲しくてここに来たってわけでさ」


「は、はい。もしかして、災いについて……ですか?」


「察しのいいことで。まあ、今まで散々危惧していたことだし、当然か」


 オスクはここに来てニニアンさんに会いに来た目的、『滅び』のことについて簡単に説明した。ニニアンさんも『滅び』のことは以前から聞いていたようで、その単語を聞くと真剣な表情になった。


「もう、被害が出てしまったんですね……。それもシルヴァートさんですら手を焼いてしまうなんて。それで私のエレメントを」


「『滅び』ねえ……。俺も薄々感じてたな」


「えっ、ロバーツさんも?」


「ああ、海は正直だからな。ここ最近、海藻が異常に増えて船に絡まったり、魚が何故だか大量に死んで水面に浮かんでたりとかちょくちょくよ」


「そ、それは……」


 ロバーツさんが話してくれた『滅び』の前兆と思われる現象に、私達も唖然とする。海藻はともかく、魚についてはなかなかショッキングな光景だっただろう。死骸を大量に見せられるなんて、海賊といえどもいい気分がする訳ないだろうし。

 あの例の結晶自体は無くても、間接的な影響はもうあちこちで出ているのかもしれない。


「私も、もちろん協力させていただきます! お役に立てるなら、なんでもします!」


「あっそ、じゃあ話が早い。目的については説明するより、見せた方がいいか。ルージュ、例のもの」


「あっ、うん!」


 オスクのいう例のものとは、ゴッドセプターのことだろう。確かにそれを見せれば大精霊であるニニアンさんも私達が何のためにここまで来たのか分かる筈。そう思って私はすぐさまカバンを弄り、あの長い純白の杖を取り出す。

 そこまでは良かったのだけど……身長以上ある長さのある杖を構えることはやっぱり無理で、足元はふらふら。一人で構えて体勢を維持するのはどう考えても無理だ。

 やっぱりこれ、妖精が使うものじゃない。長すぎるし……。


「だ、大丈夫、ルージュ?」


「な、なんとか……」


 心配した他のみんなに支えてもらい、バランスを保つことがようやく出来た。


「あ! ゴッドセプター、見つかったんですか?」


「なんだ、盗まれたの知ってたのか?」


「は、はい。一応……。探しても無かったのでどうしようかと思ってました。流石はオスクさんです!」


「ハハッ! 僕にかかればチョロいもんだ!」


「たまたま面会にいたからだろ、全く……」


 自分の手柄のようにしているオスクにルーザはぼそっと突っ込んだ。でもまあ、オスクがいなきゃ、シャドーラル城でゴッドセプターのことが分からなかったから、それもあながち間違いじゃないかも?


「ゴッドセプターということは……あの、みなさんの目的って」


「ああ、エレメントだよ。それをコイツに繋げて、封印を解除する。話には聞いてたっしょ?」


「は、はい。役目を授かった時に知識も。それを果たす時がとうとう来たんですね……」


「それで、渡してもらってもいいか?」


「もちろんです。そうするのが最善だと分かっています。ですが……」


「ですが?」


 ルーザへの返事を、意味ありげな切り方をするニニアンさん。それまでゴッドセプターに向けていた視線を、ふと私達の方へと移す。


「私としてはすぐにお渡ししたいんですけど……エレメントの特性上、そうもいかなくて。あ、あの、おこがましいと思われるかもですけど、大精霊としてみなさんに問いたいことがあります」


「は、はい」


「ああ……エレメントが大精霊の手から離れるには、相応の信用がなくちゃ無理って話だったな」


「そうです。すみません……私自身でもそれはどうにもできなくて」


「いえ、私達もそれはオスクとシルヴァートさんから聞かされてましたし、覚悟の上ですから」


 以前、シルヴァートさんから大精霊について聞かされた時、エレメントの説明も受けていた。エレメントは大精霊の力の象徴であり、その地位と示すものでもあるということを。だからこそ、エレメントを託してもらうにはそれに足る繋がりを得なくては不可能だということも理解していた。

 ニニアンさん本人としてはすぐにでも渡してもいいとのことだけど、そうは問屋が卸さないということだ。でも、それはここに来ている時点で覚悟していたこと。だったらニニアンさんにそれを示せばいいだけだもの。


 私達が承諾したことで、ニニアンさんは早速エレメントを託すための条件を提示した。

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