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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第1章 光の旋律
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第3話 捜索(2)


 ルーザが帰るべき場所らしき情報を得た私達はさらに詳しい情報を知るべく、本を再び引っ張り出してはしまい、取り出し、という作業を繰り返す。時々私達がガタゴトと騒がしいことを気にして書庫を見にくる司書妖精に事情を説明しながら、目的の本をとにかく探しだしていく。

 さっきまでのただ闇雲に探していた時より遥かに手際がいい。私の腕の中にもすぐに数冊の本が蓄えられた。


「どうだ、そっちは?」


「おう。大分集まったぜ」


「一回持ち寄って集めてみよう」


 大分資料が溜まったところで、書庫にあった恐らく作業用のミニテーブルの上に本を並べてみる。

 綺麗に並べられた、10冊程度の本。どれも革表紙、黄ばんだページという、みるからに古びている本ばかり。それも当然か、ここに出ている本が書かれたのは200年から300年はザラ、中には500年前のものだってあった。


「どれもすげぇな、これ」


 イアは本気で感心した、というように本を手にとって眺めている。ただし内容は古文書ということもあって、さっぱり理解できなかったらしい。中を覗いても、読むことは早々に諦めて閉じてしまった。


「読むのだけでも難航しそうだな。……それ以前に気になるところが一つあるが」


「うん。……どう見てもおかしいよ、この本の年代」


 本自体の年代に不審な点はない。気になるのはこの場にないところに、だ。

 さっきの通り、200年から500年くらいの資料はある。それなのに、100年前くらいの資料が全然見当たらない。これ程の年代物がある中で、比較的最近に記された資料がごっそり抜け落ちている。


 昔の本だけが残っていて、最近の本だけがここに無いなんて。明らかにわざとのように思える。


「なあ、意図的だと思うか?」


「……多分ね。それにおかしいのはもう一つある」


 資料は確かにあるのに、この光の世界とか影の世界とか今じゃ全く聞かない。それが知られてはまずいから、その存在を公にされると不都合があるから。……そんな気がしてならない。

 はっきりした理由はわからないけど、原因はきっと小さなものではない筈。この本だって閉架書庫に置いてあったし、まるで表に出るのが都合が悪いから隠していたみたいだ。


「えっと……オレには難しいことはさっぱりだけどよ、これがわざとだったとして何かわかるのか?」


「それは読んでみなくちゃ掴めないと思うけど。まだ詳しく調べられてないし」


「とりあえず、一つ読んでみるか」


 ルーザの言葉に私とイアも頷く。とりあえず読んでみなければ何も始まらない。

 調べ物のためとはいえ、使おうとしているのは大切に保管されている基調な資料だ。乱暴に扱って本を傷つけるなんてことがないように、慎重にページをめくっていく。本にはさっき見つけた光の世界と影の世界以外の情報も記載されていた。


「えっと、『異世界に行く方法は様々なパターンがあり、中には夢の中でしか行くことができない世界も存在する』、か……」


「少なくとも夢ではないな。現実にいるから」


 ルーザの言葉に私も頷く。今は現実にいる以上、その可能性はゼロだ。

 それにしてもこの文章が正しければ、世界は私達が思った以上に存在するということになる。……よくわからないな、この本にある光の世界と影の世界のどちらかというのが可能性としては高いけれど。

 本にもある条件が揃えば行けると書いてあるけど、その他にはない。ルーザの場合の、ダイヤモンドミラーから通ってきたというのはどこにも書いてなかった。


「なんか怪しいぜ。ルーザは確実にそこを通ってきたんだろ? そもそも方法とか何処にも書いてないじゃんか」


「やっぱり、重要な情報がないね。絶対、何かを隠している……」


 けど、困った。今私達が求めているのはその隠されている情報の可能性が高い。でも肝心の情報源はこの通り抜けてしまっている……。

 学生である私達には無理な話だと馬鹿にされているようで悔しい。それでもいくらムキになっても、抜けている情報を掴む手立てはないし……一体どうしたらいいのだろう。


「やっぱ図書館だけじゃ無理なんじゃねえか?」


「くそ、これっきりだってのかよ。あともう少しで掴めそうだってのに……!」


 ルーザは悔しそうに拳を握りしめる。聞こえるはずもないのに、その迫力に拳がメリメリと音を立てている気がした。

 ルーザだって帰りたい。私達だってなんとかしたい。でも肝心の本はこの状態。でも古い本があって、尚且つ隠蔽いんぺいされないような場所なんてどこにあるのか……


「あっ⁉︎」


 ────あった。一箇所だけ、私なら隠し事もしない今の状況では理想的と言っていい場所が。

 とはいえ、すんなり入れるものじゃないし、私も事情があって抵抗はあるけど……状況が状況だ、ワガママなんて言ってられない。


「ん、どこか思いついたのか?」


「一応。この国では一番情報があるところ」


「じゃ、そこでいいな。そろそろ帰ろうぜ、結構いい時間だし」


 イアの言う通り、長い間調べ物に没頭していたせいか、もう時計の針が夕方の5時を指している。窓から差し込む光も鮮やかなオレンジ色を帯びていて、夕焼けを予感させた。

 私達は散らかした資料を元の場所に戻し、イアと別れてそれぞれの帰り道を歩いていく。



 明日に行く場所に少しでも情報があれば……そんな期待を込めながら。

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