第31話 海嘯の占領者(1)
私達は、交渉をしていた海賊の船長と対峙する。
船長は私達を見下ろして、一人ずつ顔を確認しているようだ。
「……歳も大したことない奴ばっかじゃねえか。そんな奴らが海賊船に乗せてくれたぁ、相当だな」
「でも僕達は行かなきゃいけない場所があるんです! なんとか乗せていただけませんか⁉︎」
プレッシャーに押されながらも引くわけにはいかないと、ロウェンさんはここぞとばかりに声を張り上げて訴えてくれた。
それによって私達も生半可な覚悟で頼みに来たわけではないことが伝わったのだろう、船長はそれを聞くと口角を吊り上げてニィッと笑う。
「フッ、聞けば聞くほどおもしれえな。だがヤワな奴は海賊船に乗る資格なんざねえ。つまりだ、俺の付きを倒してみせろ!」
そう船長が声を上げると、船から海賊のクルーと思われる妖精達がぞろぞろと出てくる。ざっと数えてみると、出てきたのは10人程度。全員、剣を構えたりなどしてやる気満々なのは明白だった。
「てめぇら、子供相手だからって手加減無しだ! 存分に相手してやれ!」
さっき船長が発した言葉で大体予想はついたけれど、船に乗りたいというならこのクルー達を倒して見せろ、ということらしい。勝てば私達の要求を呑んでくれるようだけど、負ければそれまで。ここで引き返すしかないということだ。
でもそれが一番いい方法だ。下手なことをしなくても、実力を示せれば先に進めるのだから。
「ふん、上等じゃねえか……!」
「うん。やるっきゃないよね!」
みんな、それぞれだけどやる気はこっちだって負けていない。
海賊を相手にすることなんて、不安はあるけれどみんながいるからきっと大丈夫だ。『滅び』が迫っている今、弱音なんて吐いてられない。
「やれやれ。荒くれ者とはいえ所詮は妖精。相手すんのも面倒なんだけど、文句も言ってられないか」
「はん、下手に手ぇ抜いてくたばんじゃねえぞ、オスク」
「誰にもの言ってんのさ。逆に舐め腐ってるアイツらを叩きのめして絶望を与えてやるまでっしょ」
私達もそれぞれ武器を構え、いつでも戦える体勢を整える。
それは船長から提示された条件をのむと言ったも同然だ。途端に、海賊達は争うようにして私達の方へと向かってくる。
「オラオラオラッ!」
奇声を発しながら海賊は剣を振り回してくる。
なんというか、気迫がすごい。流石海賊といったところか。
「危ねっ⁉︎ いきなり手加減なしかよ……」
「余所見してんじゃねえぞ、ガキ共!」
海賊は斬りかかっても間髪入れずに攻撃を仕掛けてくる。子供だからといって手を抜く気配は微塵も感じられない。本当に容赦なしだ。
10人の海賊達に対して、こちらは8人。人数でも負けている上に、子供と大人の男……それも身体も鍛えられているせいか、全員体格ががっしりとしていて身長も高い。正面からやり合っても、ルーザやイア、オスクの腕力がある3人以外は力負けしてしまう可能性が高いだろう。
なんとかこちらがやりやすい状況に持ち込めれば……!
「そうだ! あの、ルージュさん。この辺りを凍らせるのはどうでしょう? 皆さん、先日の氷河山のことで氷には多少慣れていると思うんです!」
「そ、そっか! 試してみよう!」
「はい!」
私の頼みにうなずいたフリードは早速魔力を溜めて、地面に思い切り冷気を放つ。冷気は私達の足元を包み込み、あっという間にここ一帯の地面が滑らかな氷に覆われる。即席のスケートリンクの完成だ。
足場が急に変わったことで、海賊達は目に見えて戸惑い始める。
「な、なんだこりゃあ⁉︎」
「うおっ! す、滑る……」
シールト公国が温暖な島国とあって、流石の海賊達も氷には不慣れなようだ。つるつるの足場にバランスを保つことができず、スッテン、バッタンと海賊達は氷に足をとられて転びまくっている。
フリードの狙い通り、状況が好転した。
「よっしゃ、もらった!」
それを見たイアが今がチャンスとばかりに、器用に氷の上をスケートのように滑っていって転んで動けずにいる海賊に向かって斧を振るっていく。
体勢を崩しているために狙いもつけやすい。海賊達はイアの攻撃をもろに食らっていく。
「ぐっ。こいつら……」
「とどめだっ!」
「図になるな、ガキっ!」
とどめを刺そうとしたところでイアの攻撃は弾かれてしまった。ガキンッと金属音を響かせ、今度はイアが体勢を崩す。
それを見て海賊はチャンスと思ったのだろう、仕返しとばかりに手にした剣を振り上げる……が、反応はイアが早かった。
「ちぇっ。……あとは頼むぜ!」
「なに?」
「もらった!」
イアが横に下がると、背後に控えていたロウェンさんがすかさず矢を放つ。
矢は海賊に見事命中。まずは1人撃破出来た。
「よっしゃあ!」
「やったね、イア君!」
イアとロウェンさんはハイタッチして喜び合う。
すごいな。会ったばかりなのにもう2人は連携がとれているみたいだ。私は他人付き合いがお世辞にも得意とはいえないから、2人の打ち解けの早さが羨ましい。
……と、2人に気を取られていたその時、
「背が疎かだなあっ⁉︎」
「……っ!」
……背後から声が聞こえてくる。振り返るといつの間にか私の後ろに海賊がいて、今まさに剣を振り下ろそうとしていた。
だけどこのまま黙ってやられるわけにはいかない。咄嗟に剣を振るって攻撃を相殺した。
「な、なにっ⁉︎」
「女だからって舐めないで。やっ!」
そう言い返しながらつば迫り合いをしていた剣を振り払い、距離をとる。
ああは言ったけど、やっぱり体格も大きい大人の男妖精相手じゃ、正面からは私じゃ不利だ。私も他のみんなと連携をとらないとこの人数を倒していくのは無理だろう。
今はみんな、それぞれ相手している海賊に精一杯。今は耐えてなんとか時間を稼がなくちゃ……!
「『セインレイ』!」
光弾を放って牽制することで、海賊との距離をさら広げる。
海賊も私の思惑通り、光弾に当たらないようにどんどん後ろに下がっていく。そして丁度良く、その近くにはオスクがいた。
「オスクッ!」
援護を求めるべく、私はオスクに向かって叫ぶ。
こちらの意思が伝わるかどうかは賭けだったけれど……オスクはその声に振り向くと、ニヤッと笑って標的を私が相手にしている海賊に向けてくれた。
「ほらほら、下等な妖精。後方も注意してなよ」
「ゲッ⁉︎」
オスクは手にした大剣で海賊を思い切り切り裂く。不意を突かれたこともあり、海賊は体勢を一気に崩した。
「ほら、やってやったぞ。とどめはお前が刺せば?」
「ありがとう、オスク。『リュミエーラ』ッ‼︎」
大きな光の球をぶつけ、海賊は吹っ飛ぶ。私が放った魔法の威力はそこまで強いものではなかったのだけど、オスクの斬撃がかなり深く入っていたようで、その海賊は背を派手に打ち付けてその場にうずくまった。
よし、これで2人目撃破だ。
「よっしゃ、良いペースなんじゃないか⁉︎」
「うんうん! よーし、わたしも頑張らなきゃ。サポートは任せて!」
海賊を順調に倒せたことでみんなの士気が上がる。私達の勢いが増しているのは明白だ。
協力し合って確実に倒していく。一人で相手するのではなく、海賊一人に対して複数人で立ち向かう。
卑怯に見えるかもしれないけど、限られた人数でどう戦うかは自分達次第になる。私達の場合、みんなで協力して、確実に敵を追い詰めていく。
これが私達の戦術だ。このままいければ勝てる……!
「な、なんだぁ、こいつら⁉︎」
「普通のガキの強さじゃねえ!」
私達の優勢になるにつれて、海賊達は焦り始める。
順調に海賊達も倒していき、ついに残り2人となるまでに追い詰めた。
「ハハッ! 無様だな。あれだけ見下しておいた癖に」
「くっそ……精霊が調子に乗りやがって」
「……ふーん、そんなこと言っていいわけ?」
……そんな残った海賊の一言がオスクを刺激してしまった。
あ、これは離れておいた方が良さそうだ……。
表情だけでわかる。精霊が馬鹿にされたことでかなりご立腹だ。みんなもオスクの殺気を本能で感じ取り、黙って安全そうな場所まで下がる。
「な、なんだよ。強がったって無駄だからな!」
「無知なお前らに教えておいてやるよ。大精霊を怒らせたらどうなるかをな……!」
それを証明するかのように、元々強めていた魔力をさらに膨れ上がらせるオスク。後ろに控えている私でさえ圧倒されそうなほどのプレッシャーに、流石の海賊もその強さに怖気付いていた。
「ひいっ‼︎」
「なんだ、なんだ⁉︎」
「大精霊の力、その身で思い知れ! 『ゲーティア』‼︎」
オスクが詠唱を終えた瞬間、とてつもなく強い闇の魔力の塊が海賊達を直撃する。魔力が直撃した瞬間、海賊達が立っていた地面は崩壊し、空間そのものを吹き飛ばす。
当然、海賊達は耐えきれずにその場に倒れ込んだ。海賊が消し飛ばなかった辺り、オスクも手加減していたようだけど……それでもこの威力だ。あまりの破壊力に、私達も戦いに参加していない海賊も言葉を失った。
「ふん。妖精ごときが調子に乗るんじゃない。海賊でも妖精は妖精。僕にかかればこれくらい軽いんだよ」
「す、すげえ……」
「オスクさんは怒らせないほうがいいね……」
仲間であるみんなでさえ、オスクの力に圧倒されている。
流石は大精霊。本気を出したら妖精じゃ敵わないことが力を目の当たりにしたことでよくわかる。オスクが500年もの間、磨いてきた力の差を改めて思い知らされた。
とにかく、海賊は全滅。私達の勝ちが決まった。
「……まったく、大した奴らだ」
その時、いつの間にか海賊の船長が船を降りて私達のもとへ来ていた。
「4、5人倒せば充分と思っていたが、まさか全滅とはな。まったく、子供ってのは可能性があるわな……大精霊サマまでいるとはぬかったが」
「私達の勝ち、でいいですよね?」
「当然だ。お前らの力はこいつらも思い知っただろうよ。約束は約束だ、望み通り乗せてやるさ」
「……!」
それを聞いた途端、ぱあっと顔がほころんだ。
やった……これで目的地に、離島に行ける!
「よ、よかった〜……」
「なんだか力が抜けました……」
みんなも安心感から緊張が解けてその場にへたり込む。
やっぱり現役の海賊との戦闘は魔物を相手にするより厳しかった。全員ヘロヘロだし、ルーザでさえ表情に疲労が見える。
「俺の名は『ロバーツ』だ。呼び方は好きにしていい。疲れはあるだろうが、とりあえず話を聞かなくちゃあな。お前らがどうして俺達を頼ってきたか、話してもらおうか」
「は、はい」
とりあえず海賊船の中に入れてもらえることになって、私達はロバーツさんに言われるままに船の中へ案内してもらった。
乗せてもらえることにはなったけど、まだ理由を説明することが待っている。私達は緊張しつつ、海賊船へと足を踏み入れた。




