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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第4章 記憶の抗争
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第29話 開かれる旅路(1)

 

 数日後。私、ルージュはなんとかルーザ達にもらった薬が効いて体調が回復していた。

 新種の毒キノコの胞子をかなり吸い込んだせいで、治るのにも時間がかかったけれど……。みんなもすごく気遣ってくれたことで治すことが出来た。


 ようやく学校にも復帰。元の生活に戻るかと思っていたけれど……そうはいかなかった。

 でも、それは何かトラブルが起きたというような悪い話ではない。私が風邪を引いて寝込んでいた間に、姉さんが大精霊に会うために色々手配していてくれたんだ。


「えっ、船を?」


 治ってからすぐに姉さんにもそのことを伝えるため、城にみんなで出向いた時にその話を耳にすることになったのだけど。

 姉さんが言うには、水の大精霊がいるシールト公国に今まで手紙でやり取りをしていて、入国の許可を得られたとのこと。そして、現地に赴くために船の用意までしてくれたのだそうで。


「ええ。公王様に手紙を出したんです。3日後にと約束をしたので、あなた達にはその日までに準備を済ませておいてほしいのです」


「こういうことだと仕事が早いな……」


「ふふん。私をあまり舐めてもらっては困ります」


 腰に手を当て、姉さんは得意げな笑みを浮かべる。

 昔から誰にでも物腰柔らかな姉さんは他人との交渉が得意げなところがあり、外交関連であればすぐに話をつけてくれる。有り難いことには変わりないし、私の風邪の原因が実は姉さんだということは黙っておこう……。


「ですが、問題もありまして……。水の大精霊様がいるというのは、正確にはシールト公国ではなく、近隣にある小島らしいのです」


「えっと……それがどうかしたの?」


「はい。それならその小島に直接向かえばいいですよね。それが無理ならば、シールト公国で休憩を取ってからその小島に行くのも一つの手だと思いますが」


 さっきと打って変わり、姉さんは不安げな表情。だけど、その不安がどこから起因しているのかさっぱりで私達は首を傾げる。

 近隣にあるのならそこまで遠くない筈。フリードの言う通り、直接その小島に向かってしまうか、もしくはシールト公国からその小島に向かう船を見つけて行けばいいんじゃ。そう思ったのだけど、姉さんは首を振った。


「今、その小島はシールト公国が乾季なので水不足なんだそうです。その小島にいる魔物達が飢えて凶暴化するので、小島に行くことに規制がかかってしまうんです」


「え、ええ⁉︎」


「それじゃあ、シールト公国には行けても肝心の大精霊には会えないじゃねえか!」


 後ろで話を聞いていた、エメラとイアが叫ぶ。

 意外なところで足止めをくらってしまった。いくら王族とはいえ、姉さんだって他国の規制を解除する程の権力は持たない。島に行けなくては大精霊に会うことが出来ないし……このままじゃ、シールト公国に着いても立ち往生するだけだ。

 私達がどうしよう、とあたふたしていると姉さんが一つの提案を持ちかける。


「ですが、方法はあります。シールト公国に停泊している、海賊を頼るんです」


「か、海賊って……」


 シールト公国は、海賊が船を停泊することでもある意味有名だった。それで海賊同士の争いが絶えなくて、昔は治安が酷かったらしいけれど。

 もちろん、知っていることは知っている。前にそんなことを本で読んだ試しがあるから。


「ふーん。そいつらなら規制がかかってても堂々と入るだろうけど、そもそもどうやってその船に乗るまでに持っていくのさ。そんな欲深な連中、何かしら要求してくるのが当然だと見えるけどね」


 確かに……オスクの言う通りだ。きっとそう簡単には乗せてくれないだろう。姉さんは国を離れる訳にはいかないから、海賊との交渉は必然的に自分達だけでやるしかなくなる。だけど、私達はまだ子供だからまともに話を聞いてくれるかどうか。オスクもいるけど、そもそも素直に船に乗せてくれるかどうか怪しい。

 みんなでうーん……と考えこんでいると、ドラクが突如としてあっ、と思いついたように声をあげる。


「あのドラゴンがいた廃坑のルビーはどうだい? 宝石ならかなりの価値があるよ」


「おっ、その手があったな!」


 イアがナイスアイデアと言わんばかりに表情を輝かせる。

 確かにいい考えだ。保証はないけれど、確率としては上がる筈。


 それに、実はあの廃坑はエメラのお小遣い稼ぎのために探検した後、流石にほったらかしはまずいと思って姉さんに廃坑のことを報告しておいたんだ。姉さんも貴重なルビーを盗賊などに悪用されるのは避けたいと判断してくれて、手続きを済ませて正式に王族の所有物にしてくれた。

 そんなわけで、鍵を開けるのには管理者である私が行かなくてはならないから、私がルビーの調達に向かうのは決定だ。でも、流石に私一人で海賊が満足するほどのルビーを発掘するのは無理があるからもう一人、出来れば男手がほしいところだけど……。


「男手かぁ。じゃあ、イア行けば?」


「は、なんでオレが? いや、別にいいけどさ」


 エメラにいきなり指名され、イアは戸惑った。

 イアは行くのは構わないらしいけど、どうしてイアなんだろう。確かに男の子だし、力はあるけど普段から鎌を振り回しているルーザでも問題ない筈なのに。

 二人で不思議がっていると、何故だかエメラはにやにやしながら話し出す。……明らかに怪しい。


「だってイア、それなりに力あるし。それに行きたくないの? ルージュと二人っきりで発掘デートなんて!」


「……な、な、なに言ってやがんだ⁉︎ 大体なんだよ、発掘デートって‼︎」


 エメラの言葉にイアは慌てふためく。

 なんだか相当焦っているようだけど……私にはさっぱり理由がわからない。いつもイアとはいるし、別に珍しくもなんともないのになんで慌てているのか。


「イア君、もしかしてルージュさんのことがす……」


「わーーーーーッ‼︎ みなまで言うなよ、ドラク!」


「ご、ごめん」


「なんだよ、うるさいな。どうしたわけ?」


 オスクも訳がわからないというようにイアの騒ぎように呆れている。

 みんながなにやら盛り上がっているようだけど、私にはさっぱりだ。オスク以外のみんな揃ってイアに頑張れなんて言ったり、私に何か促すように笑ってみせたりと。

 ……やっぱり全然わからない。


「とにかく、どうするのイア。行く? 行かない?」


「い、……行く」


「じゃあ決まりね!」


 イアがどうして慌てていたのか、結局わからず仕舞いだったけれど話合いの結果、私とイアが廃坑でルビーの発掘、オスクがシルヴァートさんに水の大精霊に会える手段が出来たことの報告、他のみんなは各々の準備ということになった。


「ロウェンにも報告しないとな。この間の話じゃ、付いてくることになったんだろ?」


「うん。そっちはお願いするね、ルーザ」


「ああ。どうせシュヴェルにも伝えなきゃならないからな」


 ルーザは一旦、影の世界に戻るようだ。みんなもみんなで準備をしなくちゃならないから、一気に忙しくなる。全員がそれぞれのやるべきことに向けて行動を起こし、城の中が足音や話し声に包まれた。

 私も自分の役目がある。とりあえず私とイアは廃坑に行く用意をして、ルビーの調達へと急いだ。

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