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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第3章 夢幻の邂逅
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第28話 暁の残夢・後(2)


 ────キンッ……。


「ん?」


 何かが足に当たった。走り出したことで、蹴飛ばしてしまったらしいが、石の音じゃない。どう思っても金属が当たった音だ。

 不思議に思い、身をかがめてみると……そこには、金の枠にはめられた赤く丸い宝石があった。オレの手のひらくらいの大きさで、装飾品にしては大きなもの。

 なんだ、これ……? 落ちていたものにしても、まさか宝石だとは。明らかに不自然だ。


「なんでしょう、その宝石?」


「さあ……?」


 オレはその宝石を拾い上げる。

 大きさの割にしっかりとした重み。表面は宝石らしく、四角やらひし形やらの様々な形のカットが施されている。オレはその宝石にカンテラを近づけてよく観察してみた。


 表面から内側まで鮮やかな赤い色で、覗き込んでみると透き通っているのがよくわかる。カンテラの光を反射しているにしても、まるで宝石自体が自ら光を放っているように、ぼんやりとオレの手の中を照らしていた。


「綺麗ですね……」


「ああ。だがなんでここに落ちていたんだ? こんなもの、普通夢でもあり得ないだろ」


「でも、放っておくわけにもいきませんよね。単なる落とし物にしては不自然すぎますし」


「……確かにな」


 盗むみたいで後味悪いが、一応オレのポケットにでもしまっておくことにした。夢の世界のものなら、何か手掛かりがあるかもしれないし、持っておいて損はないだろう。

 とりあえずオレらは脱出するために先を急いだ。


「やった……! ルーザさん、空が見えます!」


 しばらく走った後、ようやく空が見えるほどまでの幅がある亀裂のところまで辿り着いた。今まで暗い中を歩いていたせいで暗闇に目が慣れ始めていたオレは思わず目を細める。

 なんとか羽が出せるくらいの広さだ。引っ掛けないように気をつけねえと……。


「お前も飛べるよな?」


「はい。えっと……少し待っていてください」


 ライヤはその場でんん〜っ……と唸って身体に力を入れる。

 するとライヤの背から、光を帯びた白い翼が現れた。


「うわっ⁉︎」


 いきなりのことに、オレは反射的に声が出る。

 こんな翼を持つ精霊なんて初めて見た。翼を広げているライヤの姿は、さながら天使のように見える。


「お前、その翼……」


「あ、えっと……その、こういう種族なんです。あまり気にしないでください」


「そ、そうか」


 ライヤが一体なんの精霊なのかますます気になったが、今はそれどころじゃない。オレらを追い立てるかのように、またメリメリと音が聞こえてきている。


「出るぞ。また巻き込まれるのは御免だからな!」


「はい!」


 オレも羽を広げ、飛び立つ。

 そのまま上空に舞い上がると、さっきまでいた場所が派手な音を立てて土砂に埋もれていく光景が目に飛び込んできた。間一髪で難を逃れたようで、オレとライヤは安堵からほっと胸を撫で下ろす。

 こうして空から見てみると、ざっと直径一キロほどにまで地割れの跡があった。こんなものに巻き込まれていたとは……今更ながら、よく無事で済んだものだと背筋に冷たいものが走るのを感じた。


「少し怖いですね……」


「ああ。これからくる『滅び』はこの比じゃないんだろうな……」


 これから先の不安はある。だが、迷っている暇があるならオレらは進むしかないんだ。時間も経っているし、オレもそろそろ目覚めて現実に戻らなくてはならない。

 高度を下げて『悪夢』を探し当て、その近くで着地した。実態を持つオレの存在を、そいつも感知したらしい。真っ黒いモヤのような塊がゆらゆらと揺れながらオレの足元に近づいてくる。何も知らないまま見ていたら、間違いなく化け物と思うことだろうな。


「ここに来てから時間も経っていますし、ルーザさん……その。もう、帰ってしまわれるんですよね……」


『悪夢』の側までいったことにオレの目的を察したようで、ライヤは泣き笑いのような表情を浮かべている。

 ライヤには悪いと思うが、オレにとってここはあくまで『夢』だ。オレがいるべきなのは現実……光と、影の世界だ。いつまでもここに留まっているわけにはいかない。だが、それでも今回のことでわかったことが一つある。


「お前は独りじゃないんだ。もっと笑えよ、気持ちは表情に伴う」


「……っ」


「きっかけが何なのかはわからないし、今回来れた理由もさっぱりだが、今回はお前の願いもあったからなんじゃないか、ってな。オレも、お前の存在を知ったからこそどこかでそれを望んでいたのかもしれない。だから、また願っていればいい。もう一度、また会いたいってな」


「……はい……はい! そうですね……!」


 オレの言葉に、ライヤはこくこくと何度もうなずきながら笑顔を見せた。一点の曇りもない、心からの笑み。オレもそれにつられてにっと口端を持ち上げた。


「こんな調子じゃ、また来そうだからな。まあ、せめて待っていろよ。……絶対に来てやるから」


「はい……私、待ってます。それしかできませんけど、希望を見失ったりはしませんから……!」


 オレは笑顔を浮かべているライヤに背を向けて『悪夢』に触れる。


 指先が『悪夢』に触れた途端、オレの視界は再び暗闇に閉ざされる。……引き戻される感覚を感じながら、オレの意識は途切れた。

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