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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第3章 夢幻の邂逅
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第28話 暁の残夢・後(1)

 

「────はっ⁉︎」


 頰に冷たいものを感じ、それによって意識が一気に引き上げられたことでオレは目覚めた。

 夢の中で目覚めるというのもおかしな話だが……どうやら地割れに巻き込まれて、それから今まで気絶していたようだ。地面には、さっきの地割れで一緒に落ちて来たと思われる草が大量に積もっていた。

 ……どうやらこれがクッションになってくれたらしい。不幸中の幸いだ。それでも気絶くらいで済むとは、案外底は低かったようだ。


 だが、いくら草が受け止めてくれたとはいえ、地面に身体を叩きつけられたことには変わらないために身体をあちこちが痛む。動けないほどじゃないが……それでも痛みはズキズキと響き、確かなダメージを証明する。


「いっつ……っと。どこだ、ここ……?」


 痛む身体をさすり、オレは落ちて来たはずの穴を確認しようと自分の頭上ををカンテラ魔法で照らしながら見てみると……馬鹿でかい岩が蓋をするように上の穴を塞いでいる。あれに当たることになっていたら……心底ゾッとした。


「とりあえず……おい、ライヤ。起きろ」


 ここから出るためにも、まずは体勢を立て直そうと近くで倒れていたライヤの身体を揺する。

 見たところ、ライヤにも特に目立った外傷もないようだった。ほっとしつつ、そのままゆさゆさと身体を揺らすとまぶたが徐々に開いていく。


「う、うーん……はっ⁉︎ ル、ルーザさん、ここは何処なんです……?」


「さっきの地割れで地下に落ちたらしいんだ。だが、問題は……」


 オレは上を見上げ、ライヤもつられて見る。岩がはまっている光景を見て、ライヤも今の状況を察した。


「……あ、あんなのが当たってたら骨まで粉々でしたね……。あれ、大丈夫なんでしょうか?」


「見た感じすっぽりはまってる。今は落ちてくることはないだろうが、早いとこ脱出しないとまずい」


 なにせここは地割れでできた洞穴だ。また亀裂が大きくなったら、落ちてくることだってあり得る。

 だが、地割れでできたものなら、周りにまだ塞がっていない亀裂があってもおかしくない。そこから飛べば脱出は可能だ。


「ライヤ、周りの亀裂から耳を澄ませてくれ。風の音が聞こえてくるなら、そこが出口に通じるはずだ」

 

「はい、任せてください!」


 ライヤと手分けして亀裂の音を探ってみる。

 天井と同じように岩で塞がってしまっているのか音が聞こえなかったり、通らないくらい狭い亀裂もある。なんとか脱出するため、ひたすら亀裂に耳を当てていった。

 そうして、オレが五つ目の亀裂に耳を当てて見た時。


 ……ヒュー……ヒュー……と、微かではあるが、確かに風が抜ける音が聞こえてくる。

 これだ……!


「ライヤ、あったぞ!」


「ほ、本当ですか!」


 オレはすぐさまそう叫んでライヤに発見したことを伝えた。オレの反対側の亀裂を調べていたライヤも、それを聞きつけてオレの目の前にある亀裂まで駆け寄ってくる。


「……あっ。私にも聞こえました、空気の抜ける音!」


「かなりも幅もあるし、なんとかライヤも倒れそうだな。行くぞ」


 意を決して亀裂に入る。上から土がパラパラと落ちてくることに緊張を覚えながら慎重に歩みを進めていく。ここもさっきまで大きく動いていたはず。早いとこ抜けないと生き埋めになってしまう。

 ……『夢の世界』だってのに、物騒なことばかりだ。夢が聞いて呆れる。これじゃあ、『滅び』について調べるどころじゃない。


「この世界にある緑が徐々に減っていったことはおかしいとは思ってましたけど、こんなに大規模な災害なんて……この世界に留まって長いですけど、私も初めてです」


「一体なんだっていうんだ? こんなの、『滅び』とはまた違う気がするし……」


「うーん……」


 2人で考え込むが、答えは出ない。いきなりのことに理解しろ、と言う方が難しい。この地割れも、『滅び』が関係ないとしたらオレには他に原因も思いつかない。

 だがしばらくして、ライヤが何か思い当たったように小さく「あっ」と声を上げる。


「あの、もしかしたら予知夢とかじゃないかなって思うんです」


「予知夢?」


「はい。この世界は名の通り夢そのものですから、この世界の事象全てがそれに関連したものなんです。ここにいるあの影みたいな生き物にも、『悪夢』なんて呼び名が付いてるくらいですし。単なる心像ではなく、正夢のような危険を察知するものもそれに含まれているって聞きました。それと、トラウマのような忘れられない記憶が蘇って夢として再現されることもあると思うんです。だからこの世界がルーザさんか、もしくは私の記憶を情報として取り込んで、それを私達に見せることで危険を知らせようとしてきたのかな、って」


「……まあ、あり得なくはないな」


 ライヤの話にも一理あるが、伝えるにしてもやることがやることだ。下手したら大怪我どころか、そのまま御陀仏なんてこともあり得たと思うんだが……。

 まあ、『滅び』がこれから侵攻してくるなら、このくらいの危険ってことは理解出来るが。大精霊でも解決が困難な問題なのは今までのことでもわかることなのだから。


「それじゃあ、夢の世界には意思があるのか?」


「うーん……意思というよりも、私達の深層心理がこの世界を形作っていると言った方が正しいかと。でも、この世界に意識を持って迷い込んできた者を送り返す役目を持つ『悪夢』がいるくらいですし……確か、それらを全て制御しているこの世界の支柱となるものがあるって教わったような。随分前に聞いたことなので大分曖昧ですけど……」


「存在してるって可能性があったとしても、今すぐどうこうはできそうにないな。それに、『滅び』のせいだって漠然ばくぜんと捉えていたが、この世界にある自然が減ったりしているのはその制御しているやつに何か異常でもあったせいなんじゃないか? それって結構前から起こってるって話だったよな。誰かの夢だったとしても、そんな長期間で、しかも広範囲で、ってどう考えても普通じゃないだろ?」


「そうですね……」


 色々模索してはいるが、確信は持てない。

 オレはこの世界に来たのは二回目だし、ライヤだって待つために最低限しかこの世界を見ていないはずだ。今、オレら2人でなんとかしようとしても無理だろう。

 ……そんなことを考えてるうちに、上からかすかながらも光が差し込み始めた。予想通り、まだ塞がっていない亀裂があったようだ。オレは歓喜から思わず拳を握る。


「外の光が見えます……! もうすぐ脱出できそうですね!」


「ああ、行くぞ!」


 そう言ってライヤと急ぐために走り出した……その時。

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