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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第1章 光の旋律
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第3話 捜索(1)

 

 それから数日。私達は変わらず、ルーザの帰る方法をひたすら探し回っていた。パラパラと響く紙がめくれる音、数えきれないため息だけが辺りに響く。


「うーん……駄目だ、それらしい情報がない……」


「くそっ、ほとんど読みきってんぞ」


 今日は王立図書館でルーザの元の世界へ帰る方法を本で探しているけど、なかなかめぼしい情報が見つからない。今、私達が使っているテーブルの隅には本の山が出来上がっているけれど、これらは全滅だ。

 異世界の存在は今じゃさっぱり聞かないし、そもそも資料が出回っていないのかもしれない。


「こっちにもねえな……」


 イアにも手伝ってもらっているけど、やっぱり見つからないみたいだ。イアの諦めたような言葉を聞いてか、ルーザは苛立ったように読み終わった本を乱暴に積み上げる。

 中々進展が無いことから、ルーザももどかしく思っているのだろう。ルーザが積み上げた本が立てた、ぼすっという鈍い音が図書館内にやけに大きく響いた。


「もうそれらしい本は全部読み終わったぜ」


「表にあるものじゃ限界か。思い付くところっていえばもう閉架書庫ぐらいだな」


「閉架書庫か……」


 閉架書庫は一般の妖精には普通、見ることが出来ない貴重な本や資料も置いてある。確かに手がかりがある可能性が高い。

 もちろん普通には入れない場所。そこに入るには特別な資格が必要なはず。……だけど、私は一つ、ある『資格』を持っている。あまり見せびらかしたくもないのだけれど、少しでも情報が欲しい今ではそんなことは言ってられない。

 とりあえず、私達は司書がいるカウンターへ向かって交渉してみることに。


「あの、調べ物に必要な本が閉架書庫にあるんですが入れてもらえませんか?」


「申し訳ありませんが一般の方は入れない規則になっておりますので……」


 司書妖精はマニュアルに反っているらしき台詞を表情一つ変えずに告げる。やはりただ興味本位では入らせてくれないというように。

 駄目だと言われることは何処かで予想はしていた。でも、ルーザが元の世界へ帰るためだ、手段は選んでいられない。なんとか入らせてもらおうと私はカバンを弄り、やがて取り出したエンブレムを司書妖精に突き付けた。


「私、王女のルジェリアというものですが、国の公共事業のための資料がそこしかないんです!」


「……お、王女様でありましたか! すみません、今ご案内いたします!」


 エンブレムを目にした途端、司書妖精の顔色がサッと変わる。そうして私が王女と知るや否や、司書妖精は慌てて席を立つとカウンターの中をゴソゴソと探り、閉架書庫のものらしき鍵を取り出す。そしてそのまま、私たちを書庫の扉まで案内してくれた。


「こちらでございます。では私はこれで」


「はい、ありがとうございます」


 私は出来るだけ笑って見せて、頭を下げる。

 司書さんは目の前の扉を鍵で開けると、うやうやしく会釈を返してカウンターに戻っていった。イアは特に驚いた様子はなかったけれど、私の事情を知らないルーザはこの一連の流れをぽかんとした表情で眺めるばかりだった。


「……なあ、その。お前、王女だったのか?」


「まあ、ね。隠すつもりはなかったんだけど、国自体にもあまり公表してなくて……」


「さっきのエンブレムが証明ってことか」

 

「うん。一応って思って持ってきておいたんだ」


 興味深そうにエンブレムに視線を落とすルーザ。

 簡単な証明だけど、王家の印には変わらないからちゃんと効果はある。いつもは屋敷の棚にしまいっぱなしなのだけど、何かに使えるかもしれないと用意しておいたものがこんなところで役に立つとは思わなかった。


「だが、いいのか? 嘘までついてこんなことして」


「いいの。ルーザも早く帰りたいでしょ? これぐらいのことはするよ。職権乱用もいいとこだから、これっきりにするつもりだけど」


「……その、すまねえな」


 ルーザは頭をかきながら申し訳なさそうに謝ってくる。

 私はそんなルーザに「別にいいよ」と笑いかけながら閉ざされていた扉を押し開け、中に入る。その途端、本独特のツンとした匂いが鼻をついた。


 閉架書庫は今は誰も使っていないから、部屋の中は明かりも付いておらず、ほんのり薄暗かった。暗がりの中じゃ足元が危ないし、目的の本も見つけづらい。とりあえず部屋の全貌を確認しようと、イアが部屋の一角にあるスイッチを押した。

 スイッチが入ったことで灯に施された魔法が起動する。ブゥン、と重々しい音を響かせたと思うと、その魔法によって中の蝋燭が灯されていくスコンス達。やがて、明るくなったことにより、部屋の全貌が見えてきた。


「わあ……」


 その光景に目を見張り、思わずため息が漏れる。

 そこには所狭しとばかりに天井に届きそうなくらい、大きな本棚が設置されているのがわかった。そして本棚の中にあるのはどれも革のカバーで覆われた、古くても貴重さが伺えるものばかり。元々読書が趣味の私には、そんな古い本でも宝石のように輝いて写った。


「……っと、いけない」


 今回は調べ物のために来たんだ。興味はあるけど、私の気持ちは後回し。今は目的のために集中だ。

 手がかりになるような本が一冊でもあればいいのだけれど……。


 私達は早速作業に取り掛かる。書棚からそれらしい本をひっぱり出しては中を見るのを繰り返す。


「わわっ、ケホッ!」


 本は長い間しまわれていたせいで、うっすらほこりをかぶっているものがほとんど。取り出す度に舞って何度か咳をした。

 それでもこんなのにへこたれちゃいけない。今度は埃をしっかり払いながら本を読み進めていく。


「うーん……これは違う。これも、駄目」


 やっぱりなかなか見つからない。何回もそんなことを繰り返してため息が漏れ始めたその時、イアが突如として「あっ!」と声を上げる。


「なあ、これとかそうじゃないか?」


 イアがそういって本を見せてきた。その本は古ぼけていて、紙は茶色くなっているうえに、めくる度にパリパリと音を立てている程のまさに骨董品のような本。

 だけどそこには、今まで見てきた本にはまったく載っていなかった記載があった。


「『光の世界』、『影の世界』……?」


 イアが見せてきたページには、その二つの文字が大きく記されていた。その下には『光の世界』と『影の世界』の説明文らしき記述、二つの世界の挿絵が描かれていた。


「『双方の世界は深い繋がりを持ち、互いに影響し合い類似した部分が多くある』……。だいたい辻褄は合うな」


 ルーザはその説明文の冒頭の部分を読み上げた。この内容が正しいのだとすれば、私達がいる世界が光の世界か影の世界のどちらかということかな。

 なんにしても、これはきっと重要な情報だ。なんらかの手がかりを掴める可能性が今は一番高い。手がかりのためにももっと詳しく読み込んでみたい。


「とにかく、調べる目処めどは立ったな。この二つの見出しが出ているものを見つけ出せばいいんじゃないか?」


「そうだね。イアが見ていた辺りをくまなく探してみよっか」


 とりあえず探すべきものは見つかった。それ、とはまだ断定出来ないけれど、筋としては間違っていない筈。私達はとにかく『光の世界』、『影の世界』という項目がある本を片っ端から引っ張り出していくことに。

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