第27話 暁の残夢・前(2)
……オレもベッドに横になってから、数分……いや数時間か? 自分でもわからないくらいに大分時間が経った頃、突然何もしていないのに何かに吸い込まれる感覚に陥った。
この感じ、もしかしたら……。そう思ってオレは身体を思い切って起こし、目を開けてみる。
草と木ががまばらに生えているだけの殺風景な光景が目の前に広がっている。見覚えがない筈がない、以前にも来たことがある『夢の世界』だ。
また来たんだな……。正直、確証も無かったのに。
改めて見るとやっぱり異常だ、この世界。草が伸びているところはともかく、土の地面は剥き出しであちこち岩も飛び出している。『夢』とは程遠い、良いところも悪いところも言い表わしにくい場所だ。
「……! ライヤは……」
この世界で出会った、あの精霊を思い出す。
前に目覚める前、オレはこの世界に来られるようにせめて願うとライヤに言ったんだ。一人でいて寂しそうだったから、せめてそう言ってやったのだ。
前にこの世界から出る時……つまりは目覚める前、ライヤは『待っている』と言っていた。こうして来れたんだ、あいつのところへ行かなければ、約束を破ることになる。
周囲をぐるりと見回してみたが、近くには見当たらなかった。目立つ見た目をしているし、物陰も少ないから視界に捉えきれないとなるとここにはいないのだろう。仕方ない、歩いて探すとするか。
とりあえず立ち上がり、服についた土を払い落として歩き出してみる。まだ戻る訳にもいかないから、途中で辺りをうろついている『悪夢』に見つからないように慎重に進んでいく。
悪意がある訳でもないのに、また吹っ飛ばしたりなんかしたら流石に可哀想だからな……。
しばらく進んでいくと、見覚えのある花畑へと辿り着いた。前回、ライヤと出会ったのもこの場所だった。あいつがいる可能性としてはここが一番高いと思うんだが……。
「ルーザさん……!」
花畑の中でキョロキョロと人影を探していると、向こうの方が先にオレの存在に気付いたようだ。気配を察したのか、自分以外の物音を聞きつけたのか。どちらにせよ、タイミングがよかったようでほっと胸を撫で下ろす。
「本当に、また来てくれたんですね! 私……すごく、すっごく嬉しいです……!」
「オレもまた来れるとは思わなかったがな。お前が嬉しいならそれでいいが」
「はい。こうして話せるだけで心が安らぎます!」
オレの前に来た途端、ライヤはこれ以上ないというくらいに顔を輝かせて喜んでいた。やはり寂しかったのだろう、僅かな間でも孤独から解放されたことに安心したようで目にはうっすら涙が浮かんでいる。
ライヤはある精霊とこの世界で再会することを約束し、ここで待ち続けていると聞いていた。一人でいるってことはまだなんだろうが……。
「気分転換と言っちゃなんだが、付き合ってくれないか?」
「あっ、はい。もちろん大丈夫です。何かしたいことでも?」
「……一つ、確かめたいことがあってな」
……ルージュと話し合って、ここにも『滅び』が影響していると思う気持ちが強くなった。少しでもなにか手がかりを掴むため、『夢の世界』をもう少しこの場で知りたくなったんだ。
ライヤにも一応、オレが知っている最低限のことを伝えておくことにした。巻き込みたくはなかったが、調べるとすれば色々不思議に思ってしまうだろう。歩きながら、今わかっていることをライヤに説明していく。
「『滅び』……ですか。前から聞いていましたが、もう主要世界で被害が出始めているとは……」
「……っ! お前、それ前から知っていたのか?」
「あ、はい。私の他にも、『滅び』のことを危惧した大精霊から伝えられて、一部ではありますが普通の精霊達も知っています。とはいえ、まだはっきりした『滅び』の被害が出ていなかったので、そこまで動いていないと思いますが」
「そうか……」
言われてみれば、それは当たり前だったのかもしれない。
オスクとシルヴァートも前から『滅び』の存在を知っていたようだし、その部下にも伝えられていてもおかしくない。意外とオレらのように、『滅び』に立ち向かっているのは多いのかもしれない。
……まあ、それでも二つの世界は交流を再開したばかり。双方が協力し合うのはまだ先だろう。
「ん?」
しばらく歩いていると、ふと違和感を覚えた。
地面に大きくヒビが入っている。乾燥したからとかちゃちなものじゃない。大地をまるで切り裂いたかのように、大きな亀裂が入っているのだ。
これは……地割れか? かなり規模も大きい。
「み、見るからに危なそうですね。亀裂が広がったら下に落ちてしまうかも……」
「無理にここを通る必要もないしな。引き返すか」
どうせアテもなく歩いているだけなんだ、別の道を探すくらいどうってことない。そう思って方向転換しようとすると、
────ビシッ‼︎
「っ⁉︎」
突如として背後から大きく裂けるような音が響き渡り、オレとライヤは思わず振り返る。
……地面の亀裂が大きくなり、ガラガラと音を立てて崩れていく光景が視界いっぱいに嫌でも入ってきた。
「……っ‼︎ 逃げるぞっ!」
「は、はいっ!」
呆気にとられて固まっていたオレとライヤはハッとして全速力で逃げる。あんなものに呑み込まれたらどうなるかわかったものじゃない……!
なんとか亀裂と距離を取れるよう走り抜ける。飛び立ちさえすれば地割れからは逃れられるはずだ。
「……うわあっ⁉︎」
が、地面が崩れるスピードは尋常じゃなかった。オレの足元があっという間に割れていき、一瞬にして形成された割れ目の中へ身体が飲み込まれていく。
それでも尚、地面はメリメリと音を立てて亀裂がまだ広がっていくばかり。このまま黙って落ちてやるものかとばかりに、オレは腕を伸ばして割れた地面のふちになんとかしがみついた。
くそっ、なんとか地面に戻らねえと……!
「ルーザさんっ‼︎」
這い上がろうとしている最中、一緒に逃げていたはずのライヤがオレが亀裂の中に落ちたことに気付いたらしい。振り向き、走ってきた道を引き返してオレを引き上げようと腕を掴んでくる。自分だって落ちる可能性がある状況にもかかわらず、だ。
「ばっ……何してんだ、早く逃げろ!」
「見捨てるなんてできるわけないじゃないですか! 2人で逃げるんです、絶対に!」
オレの指示を突っぱね、ライヤはオレの腕を思い切り引っ張る。
オレとライヤの身長差はおおよそ2倍くらい。ライヤに腕力が然程なかったとしても、小さい妖精の身体なんてすぐに持ち上げられる。だがどういうわけか、オレの身体は亀裂の中から上に上がるどころか全然動く気配がなく、それどころか少しずつ下がっていくばかり。
まるで見えない何かがオレを暗闇に引き込もうとしているかのような────
「ぐ、ぐ……!」
体力もどんどん削られているのだろう。時間の経過と共に、ライヤの顔が苦痛に歪んでいく。やがて……とうとうライヤの足場も崩れてしまった。
……っ! しまっ────
「うあああっ⁉︎」
「きゃあああーーー⁉︎」
支えをなくし、2人とも空中に体が投げ出される。為す術なく地割れに呑み込まれたオレらは、真っ逆さまに落ちていった……。




