第27話 暁の残夢・前(1)
オレ、ルーザは夜になってからルージュの様子を見に行った。
薬を飲ませてから大分時間も経過し、外も暗くなり始めている。強めの効能がある薬草だから、少しでも楽になっていればいいんだが。
ルージュの部屋の扉を音を立てないようそっと開け、様子を確認する。
……ルージュはすやすやという感じの穏やかな寝息を立てて眠っていた。息遣いも今朝に比べて落ち着いているし、顔色もまだ少々赤いが少し和らいでいる。薬が効いているようでホッとした。
「……ん。あ、ルーザ?」
「あ、悪い。起こしたか?」
「ううん。丁度目が覚めただけ」
そっと開けたつもりだったが少なからず物音を立ててしまったらしく、ルージュの目を覚まさせてしまった。反射的に謝ったが、オレの言葉に笑顔で首を振って見せながら身体を少し起こした。
そのまま中に入るように促され、オレはベッドの傍にある椅子に腰掛けてルージュと話す体勢にを取る。
「どうだ、具合は?」
「少し良くなってる気がするよ。薬を持ってきてくれてありがとう、ルーザ」
「礼ならフリードに言え。あいつが薬草を知っていたし、調合もしたからな」
「そっか。じゃあ治ったら言わないと」
それにしても……風邪の原因はなんなんだ?
ルージュは昨日まではなんともなさそうだったし、料理するときなども衛生面はかなり気を遣っている。寒さでやられたにしても、症状が少し酷い気がするんだが。
「風邪の原因とか、思い当たること無いのか?」
「え? うーん、そうだね……、手洗いとかうがいもしっかりやっていたつもりだけど……」
ルージュはしばらく考え込んで突如あっ、と小さく声を上げる。
「二日前の姉さんが来た時、珍しいキノコを見つけたってみせてくれたんだっけ……」
ルージュによれば、そのキノコは赤い色の傘があり、見たこともない模様があったらしい。
確かに珍しいキノコだったらしいが……その先に何かあったようで。
「……で、姉さんがそのキノコの胞子のうにうっかり触っちゃって、胞子が飛び散って……。私、それを吸い込んじゃったんだっけ」
「……」
……ルージュと顔を見合わせ、しばらくの沈黙が続く。オレは顔をしかめ、ルージュも話したことで思い当たることに辿り着いたようにため息をついた。
「絶っ対、原因それだろ……」
「う、うん。話したら可能性が確信になった」
話を整理すると、そのクリスタが持って来たキノコの毒胞子をルージュは吸い込んだせいで、今になってその毒が回ってきてしまった、という訳か。
あれだけ過剰なくらい心配していたくせに、クリスタ自身が発端だということを知り、二人で呆れた。
「だったら毒消しの薬も飲んでおいた方がいいな。それだったらまだ家にも少し備蓄があった筈だ」
「うん……。本当に、何から何までごめんね……」
「気にするな。悪いのはそんなもの持って来たクリスタだ。ま、悪気がないのは確かだろうが、余計タチ悪いな……」
ん……? だとすると、不可解な点が一つ。ルージュの話じゃ、クリスタもキノコの胞子をモロに被ったというのに、なんでクリスタはピンピンしているんだ?
反射的にルージュにそれを問うと、ルージュは思い当たることがあるようで苦笑した。
「ああ……姉さん、メンタルだけはすっごく強いの。昔から風邪とか引いても一日でケロって治っちゃうし」
「なんだよ、その役に立つのか立たないのかわからない能力は……」
身体が丈夫だから自分は平気ってことか。……変な話だな、ツッコミどころ満載だし。だが、胞子が原因なら他に移す心配はなさそうだ。
ともかく、薬はシュヴェルに頼むことにして、オレは別のことをするか。時間も丁度、いつも夕食を食べる頃だ。それなら、ルージュが食べるフルーツの用意をした方がいいだろう。
「フルーツを下ごしらえしてくる。どれくらい食べられそうだ?」
「うーん……あまり多くなくていいよ。そうだな……りんご一つくらい、かな」
りんご一つか。かなり少量だ。
顔色は今朝よりマシになっているものの、やっぱりすぐには良くならないようだし、食欲もあまりないらしい。クリスタのやつ……一体どんなキノコを持ってきたんだか。
とにかくシュヴェルに薬の用意を任せて、オレはその間にりんごの準備をする。
「ルヴェルザ様。こちら、指示された薬でございます」
「ありがとな。持っていくのはこっちでやっておくから、他の仕事を頼んだ」
「かしこまりました」
シュヴェルはすぐに薬を見つけ出してくれた。さすが、仕事が早くて助かる。オレはさっさとルージュに持っていってやろうと、受け取った薬と一緒にりんごを乗せた皿を持ち、再びルージュの部屋へと向かった。
りんごを食べたあと薬を飲み、ルージュは早めに眠りにつく。少しでも体調が回復することを願いながら、オレも自分のことを済ませることにした。




