第26話 泡沫の洗礼(2)
オレ……ルーザとオスクはその頃、フリードとドラクを呼んできて、光の世界に戻ってからもエメラとイアも呼び集めてルージュの風邪のことを説明していた。
全員、そのことを聞くと当然ながら心配そうな表情を浮かべる。
「ルージュさんが風邪? それは心配だね……」
「ああ。生憎、家では薬を切らしてて、シャドーラルじゃ薬草自体も売ってなくてな。それで光の世界なら薬草がないか聞きたくてこっちに来たんだが……エメラとイアに強い解熱効果のある薬草がある場所って知ってるか?」
「そんなに酷いのか? ルージュの体調って」
「向こうとこっちとで温度差が激しいせいか、結構タチが悪くてな。起き上がるのもしんどそうだった」
「強めの解熱薬か〜……あ! あそこに薬草があるよ!」
エメラが思い出したことがあったようで、とりあえず話を聞いてみる。
エメラによれば、王都の東郊外に質のいい薬草が生えている森があるらしい。そこなら様々な種類の草があるから、目的のものが生えている可能性が高いんだそうだ。
「だけど、それを守護している大型の魔物がいるんだって。そこに生えている薬草ならすぐ治せるけど、その魔物の相手をしなくちゃならないの」
「お、大型の魔物ですか」
「危険そうだな。けど……」
イアは苦笑いしながらオレとオスクをちらっと見てくる。
危険ではあるのだろうが、面白そうだ。最近は雑魚ばっかりで退屈していたし。
「僕と対等に出来るくらい? それだったら任されてもいいけど」
「ルーザさんとオスクさんには興味の対象ぐらいの認識しかないようだね……」
「あはは……」
オスクも魔物相手ならやる気があるようだ。オスクはたまに抜けているところがあるとはいえ、曲がりなりにも大精霊。なら、その力を使わない手はない。
話し合った結果、オレとオスクとイア、フリードが薬草調達に。残ったエメラとドラクがルージュも食べられそうな果物を買ってくる係とした。
文献に詳しいフリードなら薬草の特徴も知っている。フリードにとって戦闘は苦手分野なのだが、それで薬草調達にまわってもらうことになった。
「じゃあみんな気をつけてねー!」
「くれぐれも無茶はしないように!」
「ああ。そっちも任せたぞ」
エメラとドラクに見送られながらイアの案内のもと、その薬草がある東郊外の森へと向かう。
やがて辿り着いたそこは木々が重なり合い、雑草も生い茂っていて、そこそこうっそうとしている場所だった。ルージュの屋敷の迷いの森ほど規模は小さいようだが、それでも一筋縄ではいかなさそうな雰囲気がひしひしと伝わってくる。
「よっしゃ。ここがエメラに言われた森で間違いねえぜ」
「すごいですね、入り口にも沢山の薬草が生えてますよ」
「んー? ならそれ使えばいいじゃん。使えないことはないっしょ?」
「いえ……見た感じ、ここのものはあまり質が良くないようです。やはり奥ではないと駄目そうですね」
「元々そのつもりなんだ。ルージュの体調が悪化する前に、さっさと用事を済ませるぞ」
当然、オレの言葉に反論する奴はいなかった。オレらは顔を見合わせて頷いた後、いよいよ森の中へと踏み入れた。
そして、森の内部はというと。見た目はかなり暗そうだったが、木漏れ日があちこちから差し込んであるおかげで意外と明るかった。これならば足元を引っ掛ける心配もあまりしなくていいようだし、迷いの森よりかは道も複雑でないためにサクサク進めそうだ。
「それにしても、この森って本当にすごいですね。どこを見ても、必ず薬草が生えています」
「それだけ薬草が生えやすい環境なのかもな。それだったら、逆に期待出来るぜ」
「ああ。ルージュの風邪を治してやるために、薬は必ず持ち帰らなくちゃならない」
今朝の横になっている時のルージュは、顔が赤く、呼吸も荒くて苦しそうだった。あの状態がずっと続けば身体の負担もかなりなものになる。
ルージュだって仲間だ。一人でも欠けたら他の奴らだって安心出来ないだろう。そのためにも薬は絶対に必要だ。
「周囲に僅かだけど、大地の精霊の気配もあるな。ここの薬草が豊かなのはそのせいかもよ」
「大地の精霊が直々に育ててるわけか……」
「魔物が守護するのもなんとなくわかりますね」
それだけ質のいい薬草なんだろう。確かに、この間の廃坑の時みたく、泥棒なんかに手を出される可能性は充分高い。そういった輩に盗られないようにするために魔物が守っているのかもしれない。
……歩みを進めていると、やがて木々が生い茂ってる場所を抜けて、ぽっかりと広場のようなところへとたどり着いた。あの廃坑の空洞くらいの広さはある。
「おいおい……何かを思い出す展開だぜ」
「ああ。こんなうっそうとしてる森の中に、開けた場所なんて、どう考えてもいるってことだろ。……大物が」
その瞬間────バサっ! と大きく木を揺さぶる音がして、大きな影が舞い降りた。
……予想的中。俺らの目の前に、砂埃をもうもうと巻き上げながら降り立つ巨大な白い鳥が一話。見た目から例えれば、不死鳥のような鳥だ。こいつがエメラの言っていた大型の魔物に違いない。
何故、ようなと言ったかというと一般的に思い描かれる不死鳥纏っているような炎ではなく、風と共に揺らめく水だ。そいつが羽ばたく度に羽に宿った水が空中を舞った。
「うへえ、これじゃドラゴンの時と同じだぜ」
「ふーん、狩りがいはありそうだけど?」
「確か、『オーブラン』という魔物だったはず。あの羽の水は厄介と聞きますね」
「水と癒しね。大層な名前で」
オスクが鼻で笑いながら漏らした。
癒しの名を冠する……か。だからこそ、薬草を守っているのかもしれない。オスクが言うにはここの薬草は大地の精霊が育てているようだし、その薬草を守るということは大地の精霊から信頼されているからこそ担う役割だ。
精霊も認める力を持つ魔物、相手にとって不足はない……!
「オレらはどうしても先に行かなくちゃならない。道を開けてもらうぞ!」
オレは鎌を構えて、オーブランに突きつける。
薬草の守護者への、宣戦布告だ。




