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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第3章 夢幻の邂逅
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第25話 仲立ちは異界に(1)

 

 その後、馬車に戻った私とルーザは中断していたシャドーラル城へと再び出発した。

 ルーザは渡した薬が効いてきたようで、さっきよりも顔色が良くなっていた。姉さんとオスクはとりあえずはルーザの体質に気づいていないみたいでほっと一安心。


 馬車はやがてシャドーラル城に着き、ゴトンと音を響かせながら動きを止めた。


「皆様、ご到着しました。お待たせして申し訳ございません」


「いえ、お気になさらず。ありがとうございます」


 深々と頭を下げる御者妖精に姉さんはお礼を言うと、城門で待ってくれていた王城兵に案内されて私達は謁見の間まで通された。


 王城だけあり、シャドーラル城も大理石と思われる石で造られた柱が立ち並び、いかにも高級そうな絨毯が床一面に敷かれている。ミラーアイランドのものも結構豪華だけど、ここも引けをとらない。

 そして一番奥にある玉座には立派なヒゲを蓄え、煌びやかな法衣をまとった優しげな表情の男妖精が座っていた。確認するまでもなく、この妖精がシャドーラル国王だろう。


「おお……遠路はるばる、よく来てくださいましたな。クリスタ女王陛下」


「ええ、こちらこそお招き感謝致します。お目にかかれて光栄です、エリック国王」


 姉さんはドレスのスカートを持ち上げて挨拶する。

 あっ……挨拶するの、すっかり忘れてた。それを見てそのことを思い出した私とルーザも、慌てて姉さんの真似をした。


「おや、そのお2人は双子ですかな?」


「え! いや、えっと……」


 挨拶したことでエリック王も姉さんの後ろに控えていた私とルーザの存在に気付いたらしく、そう尋ねてきた。

 ……この質問は正直答えにくい。私とルーザは双子じゃないし。どうして似ているのか、その理由はお互い自分でも知りたいくらいだから。


「その……正確には双子じゃないんです。私は光の世界で、こちらのルヴェルザというんですが……ルヴェルザは影の世界にいましたから」


「ほう! 不思議なこともあるものですな……。おっと、お名前を聞いておりませんでしたな?」


「ああ、すみません。ルジェリアというんです。私の妹です」


 うっかり私の自己紹介をしそびれてしまったけど、タイミング良く姉さんがエリック王に伝えてくれた。

 途端に、エリック王の目が驚きで丸くなる。


「妹……だとすると、もしや?」


「ええ。我が国の第二王女です」


「そうでしたか! ロウェン、次の見合い相手にどうだ?」


 エリック王が横を向いて、その隣にいた妖精に尋ねる。

 白を基調として、金で装飾された正装を纏っている淡い緑色の妖精────多分、この国の王子だ。その妖精がそれを聞いた途端、恥ずかしそうに顔を赤らめてエリック王に怒声を上げる。


「父上! 今回はそのような目的でお招きしたわけでもないのに、その上初対面の方にそんなことをおっしゃるなんて、いくらなんでも無礼でしょう⁉︎」


「なんだ、なんだ。儂はお前のことを思ってじゃな……。そろそろ孫の顔を見ないと、安心できん」


「その台詞は何十回と伺いましたよ……」


 ロウェンと呼ばれた妖精は、やれやれと肩をすくめながら私達に向かって一礼し、私達も挨拶を返す。見た感じ、背丈もあまり変わらないようで、歳も同じくらいに見える。


「父上が失礼なことを言って申し訳ありません。シャドーラル王国第一王子のロウェンと申します」


「はい、よろしくお願いします。ロウェン王子」


「ロウェンで構いません。距離を縮めるためならば、そのような行儀も不要でしょうから」


 ロウェン王子はニコッと笑って手を差し伸べてきた。私は迷わずその手を受け取って握手を交わす。王子らしい、人の良さそうな笑顔。そんなロウェン王子の優しげな態度に、自然と緊張もほぐれる。

 ロウェン王子は敬称はいらないと言ってくれたけど、流石に呼び捨ては失礼だろう。ここは……


「じゃあ……ロウェンさんで」


「ふふ、わかりました。では僕もルジェリアさんで。そちらはルヴェルザさん……でしたか?」


「ああ、そうだ」


「ル、ルーザ、敬語……」


「大丈夫ですよ、話しやすい言葉で。無理に畏ると話しにくいでしょうし」


 敬語が苦手なルーザにもロウェンさんは気遣ってくれた。

 色々気配りしてくれる、優しい妖精でほっと息をつく。すぐに仲良くなることも難しくなさそうだ。


「エリック王、親睦を深めるのも目的ですが、もう一つの本題のことも」


「ああ、そうでしたな」


 姉さんが話を切り出し、本題である『滅び』のことについて私達が今知っている情報をエリック王にできるだけ説明することになった。

 姉さんはその場に居合わせなかったから、私とルーザ、オスクとでその時の状況とこれからやることを伝えた。ルーザも同行することになったのは影の世界出身だからだと思っていたけれど、説明する人数も多い方がいいという理由だったらしい。

 でも私達もわからないことが多い事情の説明は、予想以上に難しいものだった。氷河山での被害と、大精霊のことについて全て話終わるのには、3人がかりでも15分はかかってしまった。


「ふうむ……霧のことはわかっていましたが、そんな理由だったとは。『滅び』とやらは恐ろしいですな」


「ええ、しかも実態がわかっていないのです。エリック王も、古代の伝承などご存知ないでしょうか?」


「そうですな……王家に代々伝わる、古い魔導具がありました。古代のものと何かしら関係があるかもしれず。すぐに持って来させましょう」


 エリック王は王城兵に命じて、その魔導具を取ってくるように言った。


 古代の魔導具……一体どんなものなんだろう。そう思いながら私達は期待半分、緊張半分でその魔導具がここへ運ばれてくるのを待った。

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