第24話 発覚(2)
その翌日。約束していた通り、姉さんとルーザ、オスクと一緒にシャドーラルの国王に会うために四人で影の世界へと向かった。
国王に謁見するから私達ももちろん正装。城にいた頃だってドレスなんて全然着ていなかったから、ちっとも着慣れていなくて正直窮屈だ。ルーザも一応ドレスを着ているけど性に合わないらしく、あんまり嬉しくなさそうだ。
オスクとはいうと、いつもの法衣が正装らしく、あまり変わり映えがしない。この時ばかりは着慣れている服を着ていけるオスクが少し羨ましい。
「まあ、影の世界も素敵ですね〜。面会が終わったら周りを覗いてみようかしら」
「姉さん、ほどほどにしてよ……。お金出すの私なんだから」
「それで出てきたのはいいが、どうやって城に行くんだ?」
「ああ、言い忘れてました。国王様があれを手配してくださったのです」
そう言って姉さんは目の前を指差す。
そこには立派な装飾が施された、二頭の馬が引く馬車だった。王様が手配してくれたものだ、その馬車で行くことは明白だった。
「うわ……豪華だな」
「ええ。素敵でしょう?」
「……いや、あれ目立つだろ。飛んで行った方がいい気がするんだが……」
ルーザはいかにも気が進まなそうな表情だ。
と、いうよりものすごく嫌がっている。馬車がそんなに嫌なのかな?
「せっかく国王様が手配してくださったのですよ、乗らないわけにはいきません」
「ええ……。あ、オレちょっと用事が……」
「なーにうだうだ言ってんのさ。早く乗るぞ」
「お、おいっ⁉︎」
ルーザはオスクに腕を引かれ、強引に馬車に乗せられてしまった。
ルーザがあそこまで抵抗することに気になったけれど、私も遅れるわけにはいかない。私も二人の後を追う感じで乗り込み、その後に姉さんが乗ったところで馬車は走りだした。
ゆっくりと馬が歩きだして、その中で私達は揺られながら到着を待つ。それはいいけど、王都の真ん中を走っている上に、この目立つ装飾だ。外からの多くの視線を感じて私は居心地が悪く思えた。
ルーザもずっと外を眺めているし……ルーザも私と同じ気持ちなのかな。
「馬車というのもいいですね。帰ったら私のもとでも作りましょうか」
姉さんはそんな私達そっちのけにご機嫌だ。
さらっと言っているけど、馬車一つ作るのにもかなりの費用がかかるのに。姉さんのワガママで、妖精達が一生懸命働いて出してくれた税金を出すわけにはいかない。
「ペガサスで充分でしょ。必要ないものにお金をかけちゃ駄目」
「え〜……」
「僕もいらないと思うけどね。ノロノロしてじれったい。これなら自力で飛んでいくさ」
「もう、大精霊様まで夢がないですね……」
みんなでそんな他愛のない話を楽しくしているなか、何故かルーザは外をずっと眺めて顔をしかめている。せっかくオスクとも仲直りしたのに、ずっと不機嫌そう。
「ルーザ、大丈夫? 何か気になることがあるの?」
「……別に、なんでもない」
「そ、そう」
なんでもないなら、どうして不機嫌そうなのか気になるけど……あまり追求するのも悪いのは確か。今はそっとしておくことにした。
────ゴトン。
……と、順調にそれまで進んでいたけど、急に馬車が停まってしまった。様子を確認すると、どうやら見物している妖精が周りにごった返しているせいで、馬が進めなくなっているようだ。
「も、申し訳ございません。この中を突っ切る訳にもいかず……」
御者台にいる手綱を引いていた妖精がすまなさそうに言ってきた。
「ほら、姉さん。やっぱり目立っちゃってるじゃないの」
「あらら……。仕方ありませんね、落ち着くまで待っていましょう」
このまま突っ込んで、妖精達をひいてしまうわけにもいかない。御者妖精に気にしないでくださいと言っておいて、その場が落ち着くのを待つことに。
そんな時、ルーザが急に馬車の扉を開けた。
「ん、ルーザ?」
「……外の空気吸ってくるだけだ。すぐ戻る」
ルーザはそう言って、私達の返事も待たずに出て行ってしまった。
すぐ戻るとは言っていたけど……さっきまでの様子もあるし、なんだか心配だ。私は姉さんとオスクにことわってルーザを追いかけることに。
ルーザが行った方向には小さな森が広がっている。服装もあって少し歩きにくくはあるけど、急いで後を追う。
そう遠くには行ってないだろうし、この辺りだと思うんだけど……。
「ゲホッ……!」
「……⁉︎」
え、今のって?
何やら咳をしたような声。さらに正確にいえば、何かを吐き出したように酷く荒んだ息遣い。
とにかく、気になることは確か。私はその声らしきものを頼りにその方角を目指していくと、ルーザが木に手をつっぱり、身体をかがめていた。
「うぇっ……、くそ……」
「ルーザ?」
「……っ⁉︎」
私が声をかけるとルーザはものすごい勢いで振り返った。いつもの冷静さがまるでない。
「お、お前、いたのか……⁉︎」
「ごめん、驚かすつもりはなかったんだけど。……もしかして、酔った?」
「……っ、言うなっ‼︎」
ルーザは顔を真っ赤にして私から視線を背ける。
そんなに知られるのが嫌だったようで、ルーザは私に顔を向けてくれないどころか、木陰に隠れてしまった。
「ちっ、違うの! 私はルーザが心配になっただけで悪気は無くて! 誰にだって弱点はあるし、何もおかしいことじゃないでしょ?」
「……ああ、そうだよ。酔ったさ。オレはどうしてか酷く酔いやすいんだ。ブランコ程度でも10秒で落ちる」
「そ、それはまた……随分重症なんだね」
ルーザから返ってきた言葉にどう反応すればいいか分からず、呆然としてしまう。体質なんだろうけど、程度がものすごく悪い。
ルーザはこれまでもみんなに弱みを見せたりしなかったし、知られるのも嫌だったのだろう。これだけ弱ってしまうのならば尚更。
ルーザによれば、前に城でペガサスに乗るときに一瞬何処かへ行っていたり、早く降りたいと促していたのも『酔い』が原因だったかららしい。
確かに、城で隠れて薬を飲んでいたならその時の説明がつくし、ドラゴンに乗るときも水と一緒に何かを飲んでいた。あれも、酔い止めの薬だったんだろう。今まで不機嫌そうにしていたのもやっと理由が分かった。
悪気はなかったとはいえ、ルーザの気分を悪くしてしまった。なら、私が知ってしまった分フォローしてあげないと。
「じゃあ、これ使って。王家で使っている気分が悪くなった時の薬。少し苦いけど、効き目は確かだよ」
「ん……そうか。悪いな」
やっと木陰から出てきたルーザは私から薬を受け取るとその場で飲んだ。
すぐにとはいかないけど、これで少しは良くなるはず。それに、薬を飲んでもう大丈夫だと自分に言い聞かせるだけでも違ってくるだろうから。
「知っちゃった分、薬も今後も用意しておくから、何かあったら気軽に相談して。唯一の理解者ってことで、力になってあげたいから」
「ありがとな……。言葉に甘える」
大分時間が経っていたからルーザが落ち着いた後、急ぎめで馬車に戻った。
この短い時間で、ルーザの意外な弱点が発覚してしまった。本人には悪いけど……なんでもそつなくこなせるルーザ弱点があるとあうことがわかって、ちょっと親近感が湧いたな、なんて私はこっそり苦笑した。




