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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第3章 夢幻の邂逅
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第24話 発覚(1)

 

 私……ルージュは朝食を済ませた後すぐに約束通り夢の世界について載っている本を持ってきて、ルーザと一緒にそれを読み進めていた。

 流石は王室に収めてある資料だ。色々隠されていた図書館とは違って、『夢の世界』についても細かく記載されていた。


「ええと、『夢の世界とは名の通り、世界。妖精や精霊達の夢で成り立つ世界。生き物らしい生き物は存在せず、世界の管理者的な役割を持つ影だけが世界に唯一生息している。夢の量で世界の中身が変わるため、はっきりとした世界観は無い』……か」


「……大体オレが見てきた感じと同じだ。だが、挿絵とは全然違うな。実際は酷く殺風景だった」


 私が読み上げた項目に、ルーザも頷きながら聞き入っていた。

 本には夢の世界の挿絵が入っているけれど、そこに描かれている風景は花々が咲き乱れて、透き通った湖があるというもの。まさに『夢』らしく、平和の理想的な図だ。ルーザの話からだと、これらのものが一切無かったようだけれど……思い当たる原因が一つある。


「ルーザ、それって……」


「ああ、『滅び』の影響かもしれない。判断材料が少ないし、オレもまだそれがどんなものかよくわからないから、そうとはまだ言い切れないけどな。それに、一部じゃまだ挿絵にあるような風景が残っていたし」


 ルーザのその言葉が本当だとすれば、他の世界にすらもう『滅び』の兆しが来ているなんて。私達が思っていたより、その侵攻が早かった。

『滅び』の実態がまだわからないことだらけだから、対抗する手立てがはっきりとはしていない。今の状態じゃ、どうすることも出来なさそうだ。


「ん? その本、あとどれぐらい異世界のことが載っているんだ?」


「えっと……夢の他には、記憶、時間、絶望、狭間と……」


「……どんだけあるんだよ」


 私が目次に書いてある名前を読み上げると、ルーザは唖然としたように漏らした。確かに、これだけでもたくさんある。この世界にはあとどれぐらい平行世界があるんだろう?

 考え込んでいると、私達に近づいてくる足音が一つ。本から顔を上げてみると、足音の主はオスクだった。


「あれ、オスク。どうかしたの」


「どうしたもこうしたもあるから来たんじゃん。外に見知らぬ妖精が一人来てんの」


 オスクのその言葉に、私達2人は揃って首を傾げる。

 オスクはさっきまで庭で日向ぼっこしていたから、オスクのいう相手が来たのも庭の筈。庭に来るのも当然迷いの森を抜ける必要がかるから、ここにためらわずに入ってくるのなんてイアとエメラくらい。でも、2人ならオスクだって顔は知っている。じゃあ、他というなら一体誰なんだろう。


 何にせよ、気になることには変わらない。私とルーザはオスクに連れられるまま、庭へと急いでみる。

 そこにはオスクの言う通り、妖精が一人立っていた。いつものドレスを脱ぎ、目立たないために涼しげなワンピースを着た背の高い白い妖精────屋敷に尋ねて来たのは姉さんだった。


「ああ、ルージュ。お邪魔しますね」


「どうしたの? ここまで来るなんて珍しいね」


 姉さんが来る時は必ず一言連絡があった。今日はなにもなしに急に来たから、少し不安になった。もしかしたら、何かあったんじゃないか……と。


「いえ、そう深刻なことじゃありません。ルージュ、朗報ですよ。シャドーラル王国の国王様が私達を招いてくださったのです」


「えっ。いつの間にそこまで話を進めていたの?」


「ふふん。私だってやる時はやるんです」


 なんていって、姉さんは得意げだ。

 だけど良かった。それはこの光の世界と影の世界が歩み寄ろうとしている証拠。そのことを通じて、さらに二つの世界の距離が縮まるかもしれない。


「明日に出発する予定なので準備を整えておいてください。もちろん、大精霊様も連れて」


「ふーん、僕も行っていいんだ? なかなかいい心がけじゃん」


「明日は『滅び』についても相談したいので。大精霊様のご意見もこの機会に伺いたいのです」


 成る程。確かに、『滅び』については私達も一度対峙したとはいえ、説明出来るかは定かじゃない。オスクなら私達より『滅び』について断然詳しい、姉さんが頼んだのも納得だ。

 オスクもそれについて理解したようで、姉さんの話に頷くとまた日向ぼっこを始めた。姉さんもまだ城の執務があるから、そこまでゆっくりはしてられない。出してあげたお茶を一杯飲み干すと、すぐに城に戻っていった。


 また忙しくなりそうだけど、やっとこれで二つの世界が交流を取り戻せるとなると嬉しくなる。夢の世界のことはまだ謎だらけだったけど、今出来ることにも限界がある。

 今日のところは一旦切り上げ、前から約束していたフリード達に光の世界を案内してあげることにした。もちろん、シルヴァートさんも一緒に。


 屋敷を出た私達は早速ミラーアイランドの王都に向かう。そこでルーザと行った時と同じように、色々な店を覗いたり、王城へと案内したりと様々な場所を見て回って。最後に、せっかくの機会だからと海を見せてあげた。

 みんな、あまり見る機会がなかった海に喜んでくれていた。オスクとシルヴァートさんも、この時ばかりは少し羽目を外して楽しんでいるようだ。


「楽しかったよ。ルージュさん、ありがとう」


「僕は波打ち際にいただけなのですが……貝殻が綺麗で浜辺でも楽しめました」


「ま、悪くない時間だったな」


「お前は素直に礼も言えんのか、オスク」


 みんなお礼を言ってくれて(一人は除く)、喜んでくれたようで私も嬉しかった。

 その後は仕事を残しているシルヴァートさんが影の世界に帰ることになったから、その見送りをした後に私達も屋敷に戻った。

 一人減ったけど今夜も大人数で過ごせる。私は自然と笑みがこぼれた。

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