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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第16章 追い求めた果てに─ Spirit Collapse ─
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第227話 訪れし運命─ Spirit Collapse(2)

 

 アレウスが戦線から退いたことで、当然聖剣の力を頼ることも不可能となった。

 自分達の力だけでガーディアンを打ち倒すのはいいんだが、あのヘドロのような身体の性質上、普通の攻撃では通りにくい。表面を凍りつかせれば物理でもダメージを与えられるのはさっき判明したが……


「このっ、またかよ!」


 それまでアレウスの指輪の効果によって怯んでいたガーディアンだったがやがて体勢を立て直し、再び身体を思い切り飛び上がらせてオレらを押し潰そうとしてくる。

 攻撃方法自体は単調で見切ることは容易いのだが、攻撃によって生じる衝撃波が厄介極まりない。近づけば吹っ飛ばされるのはもちろんのこと、ガーディアンが巨体なために範囲も馬鹿にならない。

 その上、着地した瞬間を狙うにしても大量の土煙がもうもうと舞い上がって視界が悪くなるために、その瞬間を狙って凍らせるのも困難な現状。その間にガーディアンは次の攻撃に入ってしまうために、なかなかこちらが攻撃するチャンスが生まれない。


「くっそー、アイツ好き放題しやがって! ずっとこれじゃオレ達の方が先にやられちまうぞ⁉︎」


「んなことわかってんだよ! けど、近づきようもないんじゃどうしようも……!」


「足止めするにしても、あんなに暴れられては魔法も効果を発揮する前に吹き飛ばされてしまいます。なんとか、怯ませられればいいんですが……」


 他の奴らも、迂闊(うかつ)に手が出せないこの状況に焦りを募らせるばかりだった。ただでさえ、ずっと戦いっぱなしで疲労が溜まっているというのに。こんな防戦一方の状態が続けば、近い内にオレらのスタミナが尽きてガーディアンに押し潰されることになる。

 オスクに鎖で縛ってもらうのは……駄目だ、あれは狙いをしっかり定めないと上手く拘束できないと前に聞いていた。何か他に手は……!


「『(ルイン)』!」


 ……そうあれこれ考えている最中、飛び上がっていたガーディアンに凄まじい圧力が襲いかかり、ズドン! と派手な音を立てて打ち落とされる。こんな荒技をやってのける存在は……確かめるまでもなく、アイツ以外にいないだろう。


「邪魔だ、目障りだ、不愉快だ……いい加減、消え失せろ……‼︎」


 地面に叩きつけられ、動けないガーディアンに向かってアイツはさっきと同じように何度も何度も瘴気の刃を飛ばす。

 それはもう、一心不乱に。ただひたすら、何が何でも敵を叩き潰すことだけしか頭にないとばかりの、力任せで一切の容赦がないもので。その表情も、より一層憎悪の色が強く出ていた。


 さっきまでは、ああじゃなかった。あそこまでじゃなかった。出てきた直後も怒りを剥き出しにしていたが、あんな雑な戦い方まではしていなかった。

 やり方こそほぼ同じではあるのだが、狙いが粗すぎる。デカい的だというのに、当たっているのは八割方程度……残り二割は、標的を見失って地面へと着弾する。ガーディアンを確実に倒したいのなら、無駄な力を消費するべきではないというのに。

 アイツと言葉を交わしたのは、オレだけだ。オレが、アイツにかけた言葉がきっかけなのだとしたら。一体、何がアイツの気に障った……?


「なにボサっとしてんだよ! チャンスには変わらないんだ、さっさと叩くぞ!」


「……っ。あ、ああ!」


 そんなアイツのただならぬ様子にオレも、他のやつらも呆然と見入っているばかりだったが、オスクの言葉によってハッと我に返った。

 確かに、攻撃するにはまたとない機会。アイツがさっきよりもさらに荒れている理由が気にはならないと言えば嘘になるが……今はそれどころじゃないのも確かだ。ガーディアンの防御が崩れている内に、早くダメージを稼いで追い詰めなければ。

 アイツが力任せに暴れている状況で、ガーディアンに接近するのはオレらも巻き込まれる可能性があって危険だ。だから魔法で攻めていくしかない。さっきの、魔法での攻撃で効果があったのは……


「フリード、エメラ、頼んだぞ!」


「わかりました!」


「うん、まっかせて!」


「オンラード、お前もだ。我が帝国の近衛騎士長が、皆様に任せきりにするわけではないだろう?」


「無論、承知しているとも! 自分の持てる限りの力を尽くさねばなるまい‼︎」


 指示を出したことで、指名された3人が前に出る。3人はそれぞれ武器を構え、詠唱を開始した。

 ……と、その前に、後ろで先に動いた影が一つ。


「念には念を、ってやつだ。『銀晶ノ風』!」


 アイツの攻撃の間隔が空く瞬間を見計らって、フユキが強く足を踏み込んだ。それによって生み出された冷気が地面を伝い、ガーディアンの足元を氷で覆ってその動きを封じ込めた。


「またあんなにあちこち飛び回られちゃ堪んないからね。そう長くは持たないだろうけど、これでしばらくは動けない筈だ」


「ああ、助かった!」


 流石は情報屋なんてやってる切れ者と言ったところか。フユキの素早い判断のおかげで、ガーディアンの動きにも余裕が無くなってきていた。

 この絶好のチャンスを、見逃すわけにはいかない。3人とも、それまで集めていた魔力をここで一気に解放する。


「『フロース・マーテル』!


 まずはエメラが花吹雪を生み出し、ガーディアンに纏わり付かせる。足元を氷に縛り付けられたガーディアンは回避することも叶わず、花吹雪に全身を舐められてガーディアンは鈍い悲鳴のような声を上げる。


「よし、自分も続こう‼︎」


 すかさずそこへオンラードが地面に槍を力いっぱい突き立て、ガーディアンの足元に土の塊を生成し、その衝撃でガーディアンを吹き飛ばす。

 今の拍子で足元を覆っていた氷も砕け散ったが、まだこれで終わりじゃない。


「『ダイヤモンド・グレイス』!」


「『絶氷針』!」


 そこへ追い打ちをかけるようにして、フリードとフユキが巨大な氷塊をガーディアンに向かって飛ばしていく。雨のように浴びせられる2人の攻撃に、ガーディアンはのたうち回った。

 次々と容赦のない攻撃をモロに食らったことで、流石のガーディアンも体力の限界が近づいてきたのだろう。ヘドロの身体もさらにぐずぐずになって今にも溶け出しそうな様子で、見るからに満身創痍といった状態になっていた。

 本来の役目を投げ捨ててまで生き残ることにしがみついていた化け物に、ここで引導を渡してやる。そうして、残っていたオレらでトドメを刺そうとした……その時。


「……っ! マズいっ」


 生き意地汚いガーディアンは、この期に及んでまで抵抗することをやめようとしなかった。このままただでやられるものかとばかりに、ガバリと開けた裂け目から邪悪な波動を放ってくる。

 そしてその標的にされたのは、前に出ていた3人で。


「うそっ、まだあれだけ動けるの⁉︎」


「ダメです、今からじゃ避けきれ────!」


 予想外の動きに、3人とも理解が追いつかずに避けることも魔法で相殺することもできそうになかった。そのまま、波動が目前に迫り────



「────『(エタンドル)』‼︎」


 ……が、その波動は3人を飲み込む前に打ち消された。それも、横槍を入れる筈がない存在の手によって。


「……な」


「今の、って……」


 その事実を理解しきれず、オレもオスクも息を呑む。今のは間違いなくアイツの、絶命の力によるものだ。だが、アイツは今の今までガーディアンをいたぶることしか眼中になかったというのに。


「わたし達を……助けて、くれたの?」


 まさかアイツに救われるとは思っていなかったのは、他の仲間も同様だった。その中でも助けられたエメラは戸惑いつつ、しかし瞳にほんの僅かな希望の色を灯しながらそう尋ねた。

 だが当の本人はといえばそれを気にする余裕もなく、エメラ以上に困惑しながら力を放ったであろう右手を見つめるだけだった。


「……なぜ、どうして。違う、『私』にとって、アレはなんでもない……意味など、持たない。なのに」


 エメラには目もくれず、疑問を露わにするばかり。押し留めることもできないようで、どんどん思考の渦へと呑まれていく。


「アレを、守った? 庇った? 違う、『私』にそのつもりなど、無かった。アレが、消えたところで、どうも……しない。それなのに。この感情は、意思は、『私』じゃない。『私』のものじゃない。違う、違う、違う違う違うちがうちがうちがうちがうちがう……!」


「お、おい、なんかやばいって。あれ……そうだ、ルージュが転校してきたばっかの時と同じだ。なんか受け入れられないからって、全部否定しにかかって……それで」


 ……錯乱したように否定の言葉を繰り返すアイツの様子を、イアは過去にも見たことがあったらしい。オレらはその時のことを知らないが……それを抜きにしても、アイツの状態は異様としか言い様がなかった。

 頭を抱え、掻きむしり、振り乱し……足元が覚束ないまま、ふらふらと後ずさるその行動は、今にも倒れ込んでしまいそうなものでしかなくて。アイツは仲間じゃないにしても、これ以上そんな痛ましい様子を見ていられなくて、オレは考えるより先にアイツに駆け寄っていた。


「おい、しっかりしろ! 何があったかは知らないが、とにかく落ち着け! でないとお前自身が傷つくぞ!」


「ぅ……る、さ……!」


「意地張ってる場合かよ! とりあえず、お前は後ろに下がって、」


「────黙れッ‼︎」


 その腕を引こうとした瞬間、それは強く振るわれ拒絶される。縮まっていた距離も、その心境を表すかのように無情にも突き放されてしまい。


「あれは、私の獲物だ……私が、仕留める……。でなければ、この心が晴れるものか……!」


「……っ、だが!」


「────外殻をいくらいたぶったところで」


 ふと、オレとアイツの間に口を挟んできた影が一つ。荒ぶって、自分が置かれている状況を把握しようともしないアイツに、影……オスクは呆れたようにハッ、と鼻で笑う。


「元々アレは獣の形を保ちきれずにぐずぐずに溶けて弱り切ってたんだ。力をちょっと増強したくらいじゃ大して持たない筈なのに、今もまだ消えずにいるのはあの中にいるヤツが悪さしてるって、ここまで来て気付かないのかよ」


「……」


「あの性悪め、さっき飲み込んだ成金髭面デブを自分の心臓代わりにでもしてんだろうよ。いくら魔法バカスカ撃ち込んでも溶け切らないのがその証拠。そいつと繋がっている以上、バケモノは消えないってこった」


「……私を、利用する気か」


「別に僕はどっちでもいいけど? こっちは繋がりを絶つなんてのは不可能。でも『絶つ』ことに集中してる間、お前は力を破壊には回せない。だけど、心臓部をどうにかしなきゃどの道バケモノは消し飛ばせない。さあ、どうする?」


「……っ」


 オスクの試すような言葉に、アイツはくしゃっと顔を歪める。

 選択を迫っておいて、答えは結局一つだけなのが不愉快なのだろう。だが、ガーディアンを倒し切るにはいよいよそうするしかないことはアイツも思い知ったようで、苛立ちに任せるままに腕を振り上げる。


「『(ブレイク)』!」


 虚空に指を滑らせて線を描き、それを掻き切るようにして鷲掴み。途端に、ブチッと何か千切れるような音がしたかと思うと、ガーディアンは弾かれたようにヘドロの身体を跳ね上げ、ぐぐもったうめき声を上げる。


「今だ、ここで仕留めるぞ!」


「あ、ああ!」


 ここを逃せば、きっともうチャンスは訪れない。これで終わらせると、全員でありったけの魔力を掻き集めていく。


「『カタクリズム』!」


「『ホロウエッジ』!」


「『バーンインフェルノ』!」


「『フロラシオン』!」


「『アブソリュート・ダスト』!」


「『トールハンマー』!」


「『トゥインクルゲイザー』!」


「『絶氷針・槍型』!」


「『メテオリティス』!」


「『リーウス・パリエース』!」


 オレらとフユキ、3人の大精霊と、そこへさらにレクトとオンラードも加わって、持てる限りの力をガーディアンへぶつけていった。

 手加減なしの、全身全霊を以ってしてでの連続攻撃。それはガーディアンの身体を成していたヘドロを跡形もなく消し飛ばしていき、そして────

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