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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第3章 夢幻の邂逅
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第23話 交錯する世界(2)

 

「……それで、ルーザさんはその方と喧嘩をしてしまっていると?」


「喧嘩っていうか……馬が合わないみたいな感じで衝突しててな」


 ライヤの話を聞いた後、オレはオスクとのことを聞いてもらっていた。

 仲直り……というか、どうにかしてオスクとの関係を良好なものにするために。自分でも解決策が見えないことだ、そういうやつは他から聞くのがいいだろう。


「そうですね……。多分、その方とルーザさんは似た者同士だからかもしれません」


「……似てるか? 性格がそもそも違うのに」


「えと、そういうところじゃなくて、共通点があるからだと思うんです。ほら、闇の魔法を使うとか、物事に対して責任感があるところ」


「そう、かもな」


 魔法はともかくだが、オレは任されたことは最後までやり遂げるようにしているし、オスクも大精霊としての役目はしっかり果たしている。そこだけで言えば共通点というのは否定出来ない。


「ですから、絶対に仲良く出来ない訳じゃないと思います。何かきっかけがあれば仲良くなれる機会が来ますよ」


「きっかけ、ね……」


「大丈夫です、ルーザさんなら出来ます!」


 なんて、初対面であるオレに、さっきまで警戒していた相手に鼓舞してくるライヤ。紅い瞳を輝かせ、真剣な表情。見覚えのあるような雰囲気で。それはまるでルージュのようで……オレは思わず笑みが溢れる。


「フッ……」


「え、どうかしました?」


「あ、いや、お前に似たやつがいてな。今の言葉も、言い方がそいつにそっくりだ」


「へえ。私、その方にも会ってみたいです!」


「……ま、会える時が来るかもしれないからな」


 ここは夢を通じて来た世界だ。絶対にルージュも来られる確証は無いが……。そのうちルージュがこちらに来て、ライヤとも顔を合わせられる気もした。

 ライヤに話したことで、少しはオスクとの仲の悪さも改善するような気がした。自身はないが、あとは自分次第だろう。


「あっ! 『悪夢』が出て来ました!」


「……!」


 ライヤの視線の先を見るとその言葉通り、あの影のような黒い物体がゆらゆらして存在していた。頼りなくふわふわしている感じで、風でも吹けばすぐに飛んでしまいそうだ。

 さっきも見たが、やはり実体があるのか無いのかはっきりしない奴だ。


「あれに触れれば戻れそうか?」


「試したことはありませんが、おそらく出られると思います。モノは試しです、やってみましょう」


 オレは頷き、その悪夢に近づいた。

 悪夢もオレに気づいたようで、ゆらゆらしながら頼りなく寄ってくる。この世界に現実のものが迷い込んだら追い出すのが確かなら、きっと戻れるはずだ。

 そうなると、ライヤはまたここで一人取り残されることとなる。いつ来るかも分からない存在を、孤独なままで待ち続けることとなる。誰と会話することもなく、静かなまま、ジッとしているしかないなんて。そんなの、あまりにも酷なことだ。

 その気持ちが表情にも出ていたのだろう、ライヤはオレに「大丈夫です」と告げてきた。


「私のことは気にしないでください。私はここであの人を待ち続けますから」


「だが……」


「いいんです。こうして少しの間だけでも話せたこと、嬉しかったですから……」


 ライヤはそう言うが、表情が明らかに寂しそうだ。

 何かオレに言えること……励ませるような言葉が無いだろうか。オレは悪夢に触れる前、ふと考え込む。ライヤがオレにしてくれたように、心の支えとなるような、鼓舞できるような言葉をなんとかしてかけてやりたい。


「なら……さ」


「え?」


「せめて願ってみる。もう一度、ここに来たい、ってな。天が聞き届けてくれるかどうかも分からんが……何もしないよりはいい。絶対またここに来てやる、お前を孤独にさせないためにさ」


「はっ……はい、はい……! 私、待ってますね……!」


「ああ」


 心の底から嬉しそうに微笑むライヤ。オレがまたここに来られる保証はないが、それでも多少は救いになれたようだ。ならばオレも、これがぬか喜びにならないよう絶対来てやると、そう意思を持ち続けてやる。

 今度こそライヤに別れを告げて、オレは目の前の『悪夢』に向き直る。そして手を伸ばし、その黒いモヤに指先が触れた瞬間、オレの視界は真っ暗になった────





 ……ジリリリリッ‼︎

 枕元から、目覚まし用のベルがけたたましく鳴っている。流石にやかましい。

 オレは身体を起こし、部屋に置いてある置き時計を確認する。


 ……いつも起きる時間をとっくに過ぎている。思っていた通り、寝坊した。

 つか、誰も起こしに来ないのか? 今日は休日だが、遅くなっているのなら、確認くらいしてくるだろう。

 だがまあ、自分が悪いんだ。文句言ってないでさっさと着替えよう。

 夢の世界の疑問はあったが、他のやつらに迷惑をかけないよう急いで支度を済ませる。身支度を整え、急いで他が集まっているはずのリビングへと向かう。


「悪い。遅くなった」


「あ、おはようルーザ。丁度起こしにいこうと思っていたんだ」


 ルージュは朝食の用意をしながらそう挨拶してきた。

 どうやら思っていたよりかは遅くはなかったらしい。オレはホッとしながらルージュに軽く挨拶を返すと、席に着いた。


「ほら、オスク」


「……ッ」


「ん?」


 なにやらオスクがやたらそわそわしながらオレに視線を向けていた。何か言いたそうな態度に、オレも思わず首を傾げる。


「なんだよ。何か用か?」


「いや、その……正直こんなの柄じゃないけど、お前が僕にやってくれていたこと聞いた。その……」


「は? おい、誰に聞いて……」


「私が教えたの。ルーザがオスクに色々気を遣っていたこと。隠さなくてもいいでしょ?」


 ルージュがそう言ってきた。

 オレだって別に隠すつもりは無かったのだが、言わなくてもいいと思っていたんだ。教えたところで何か変わるわけでもないと考えていたのに。


「……ありがと。気を遣ってくれてさ」


「……」


 あのオスクが素直に礼を言った。

 ルージュに促されたんだろうが、言ったことは自分の意思だ。本気で言っているんだろう。

 あいつが歩み寄ろうとしているなら、オレもそうするべきだ。


「オレも……お前の苦労はわかった。だからあの服、適当に処分しておけ。シュヴェルに返すんでもいいし」


「……は⁉︎ もういるなってことかよ!」


「バカヤロ。執事"は"クビだってことだ。家から出ろとは言ってない」


「ルーザ、それって……」


「まだ聞きたいことだってあるしな。家にいるなら好きにしろ」


「……!」


 こんな言い方しか出来ないが、オレの性格を知っているなら本心はわかっているだろう。

 あいつは自分で言ったことを後から裏切ることはしない。オレはそう信じたから、そう言ったんだ。


「じゃ、仲直りってわけ。ま、仲良くする努力はしてやるよ。……ルーザ」


「……くっ」


 オレの名前を初めてオスクは言ったが、顔をしかめて言い慣れないような表情をしている。

 そんな顔をしているオスクがおかしく思って、オレは軽く吹き出した。


「何笑ってんのさ。気持ち悪い」


「うるせえ。仲良くするってのはそういうことも入ってんだ」


「……あっそ。ま、なんでもいいけどさ」


「ふふっ。ほら、朝食にしよう!」


 ルージュはそう言いつつも、心底から嬉しそうに笑った。ドラクとフリードもそんなオレらを見て笑みを浮かべている。


「全く、いつも騒がしい者達だ」


 そう、呆れたようにこぼすシルヴァートも何処か安心したように微笑んでいた。これでようやく、オレらは本当の意味で仲間となれた……そんな気がした。


「それで、ルーザ。今日いつもより起きるのが少し遅めだったけど、何かあったの?」


 食事の最中に、オレが寝坊した理由が気にかかったらしいルージュがそう尋ねてきた。夜にあった出来事……言うべきだろうか?

 しかし、このままだんまりを貫くのも無理があるだろうし、隠す理由も見当たらない。ならさっさと白状してしまおうと、オレは昨夜あったことを正直に話した。自分でも訳が分からないことを説明するのは骨が折れたが……どうやら上手く伝えられたようで、ルージュの目がたちまち驚きで見開かれる。


「『夢の世界』……⁉︎ 本当にあったんだ……」


「ああ。正直驚いたがな。本にも存在くらいは載ってただろ?」


「うん……けど、ルーザが実際に行ったなんてちょっと信じられなくて」


「オレだって訳わかんねえよ。とりあえず夢の世界について載ってる本を読み返したい。あれ、まだ城から借りっぱなしだったよな?」


「う、うん。食べ終わったらすぐ取ってくる!」


「ああ、頼んだ」


 ルージュのその言葉に頷く。いきなりのことではあったが、何か少しでも知識を仕入れておいて損はない筈だ。ライヤのことも気になるし……オレとルージュは夢の世界について詳しく調べてみることを約束した。


 ────そんな時、オスクは急に席を立った。


「む。オスク、何処へ行く?」


「別にいいっしょ、シルヴァート。ちょっと外の空気吸いたいだけ」


 オスクはそれだけ言うと、リビングからさっさと出て行ってしまった。

 オレらは疑問には思ったが、特に気に留めずにルージュと話を再開した。


 ……リビングから出たオスクは、外に出て遠くを見つめていた。


「『夢の世界』、ね……」


 そう呟くオスクの表情はどこか懐かしい思い出を思い出しているような遠い目をしている。


「やっと一歩踏み出したところか」


 ────オスクの何か意味ありげな呟きは、誰の耳にも届かなかった。

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