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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第16章 追い求めた果てに─ Spirit Collapse ─
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第222話 揺らぐ切先(3)

 

 激昂したオーナーが新たに取り出した結晶を高々と掲げ、再び大量のガーディアンが辺りを埋め尽くした。さっきまでと全く変わらないこの状況。オーナーがあとどれだけ結晶のカケラを所持しているかわからないけど、先にオーナーをなんとかしないといつまで経っても鎮圧できないままだ。

 敵を効率よく倒しつつ、オーナーの拘束を試みる。そのためにはこうして一箇所に固まったままでいるのは駄目だろう。そう思ったのは私だけじゃないようで、私達が突っ込んでくるガーディアン達を撃ち落としている最中、一人の兵士がレクトさんに指示を仰ぐために駆け寄ってくる。


「レクト様。我々はどういたしましょう」


「まだ建物内にいる観客達の安全確保と建物の外に怪物が出るのを防ぐべきだろう。大門と入退場口、階段入り口と観客席に繋がる通路。これらの箇所を重点的に防衛せよ。大方拘束したが、まだヤツの手先が建物内に残っている可能性もある。背後からの奇襲にも警戒を怠るな」


「はっ!」


「剣は前線で怪物の対処、槍はその後方で前線部隊の援護をしろ。残る者は魔法で各方向射程内の怪物の迎撃に当たり、前線のサポートをしつつ背後の注意を払うこと。それぞれの担当箇所は各自の判断に委ねる。総員、配置につけ!」


 レクトさんの的確な指示に従い、兵士達は素早く散っていく。兵士達は一瞬の内に自分がどこを防衛するのかすぐに決めてしまったようで、均等な人数に分かれてからそれぞれが担当となった位置へと真っ直ぐ向かい、武器を構えていつでも迎え撃てるよう体勢を整えた。


「本来ならば皇帝である君が出すべき指示だ。よく覚えておくように」


「う、うん」


 こんな状況下でも、アレウスの教育係としての仕事を忘れないレクトさん。アレウスはレクトさんの言葉に戸惑いながらもうなずいた。

 こういう指示を出すのは近衛騎士長であるオンラードさんがやるべきことなんじゃないかと思うんだけど……いや、元々爆音なのに指示を出すためにあれ以上声を張り上げられちゃたまらないから、レクトさんがオンラードさんの代わりにその役を引き受けたんだろうな。


「ただの魔物相手ならば我らが片付けるべきで、ましてやお客様である皆様の手を煩わせるわけにはいかないのだけどね。得体の知れない敵である以上、そうも言ってられまい」


「ああ。オレらなら対抗策も事前に用意してあるからな。前線は任せてくれ」


「おうよ! 敵わんさかいるけど、こっちも人数かなり多いんだし、なんとかなるよな!」


「何度か対峙してきてはいるとはいえ、こっちも全貌は把握できてないんでね。取り憑きもするけど、その条件もさっぱりだ。とりあえず気は強く持つよう言っときなよ。少しでも挙動がおかしくなったらぶん殴ってでも正気に戻せ」


「ふむ、それは厄介だ。ならば私はいつでも頭をかち割れるよう構えておかねばな」


「え、えっと……気絶させちゃうまではしなくていいと思うんですが」


「甘いな、ルジェリア王女。兵士はその身体こそが資本、それくらいやらねばならないということだ。最も、その程度で気絶しようものなら鍛錬不足に他ならない。意識を天に飛ばした暁にはすぐさま地に引きずり下ろして、後日に本物の地獄を味わわせてやらねばなぁ?」


 ククク、と含み笑いを漏らすレクトさん。レクトさんのことだから、そんな状態になろうものならその厳しすぎるお仕置きを本当に実行する気なんだろうな……。

 でも、流石は帝国を護る兵士というべきか。レクトさんの言葉に一切の動揺を見せず、引き締まった表情で身構えている。そんな失態を犯すなんて言語道断だと言わんばかりの態度だ。

 ……帝国のためにそのくらいの覚悟はあって当然、ということが兵士達から伝わってくる。それだけ自分達の立場に誇りを持っているのだろう。


「俺はその対抗策は持ち合わせていないからね。申し訳ないけど、大人しく後ろに下がらせてもらおうかな」


「あ、そっか。レオンに頼んでフユキの分の結晶石も用意しておけばよかったわね」


「まあ仕方ないさ。でも職業柄、逃げ足は早いと自負してるんで。いざとなったら尻尾巻いて命大事にしますよ」


「……おっと。諸君、お喋りはここまでのようだ。来るぞ!」


 不意にヘリオスさんが注意を促してきて、私達はハッとしてそれぞれ武器を構える。親切心どころか感情の一欠片すらない『滅び』がいつまでも悠長に待ってくれるわけがなかった。大量のガーディアン達は痺れを切らしたかのように、一斉にして襲いかかってくる。

 敵の密度こそ恐るべきものだけど、しっかり狙いをつけさえすれば然程脅威に値しない。


「『ディザスター』!」


「『グロームレイ』!」


「『ムーンライト』!」


 まずはルーザが衝撃派を、ドラクが電流を、カーミラさんがレーザーを放って迎撃する。他の私達も懐に入られる前にそれぞれ武器と魔法を駆使してガーディアン達を撃ち落としていく。

 ……でも、やっぱり敵の数が凄まじい。今の攻撃でかなりの数を倒したというのに、密集しているガーディアンが減っているように全く感じない。倒しても倒してもすぐに次が湧き出て向かってくる。

 それでもここでへこたれるわけにはいかない。ここで退けば被害が大きくなる。そう思っているのは、小さな皇帝も同じことで。


「やあっ!」


 守られてばかりじゃいられないと、アレウスは鞘から引き抜いた両手剣を力いっぱい振り下ろして自分に迫ってきていたガーディアンを切り伏せた。日頃の訓練の賜物なのだろう、剣と力を繋げられてなくてもその攻撃は迷いがない真っ直ぐなものだった。


「やりますね、アレウス君!」


「う、うん! オンラード達から、やり方はいっぱい教わってたから」


「やったな! 初動でちゃんと当てられたんだから反省文もこれで無しだろ」


「おや。たかが一発成功した程度で私が認めたとお思いかな?」


「あ、やっぱダメなんスね……」


 フリードと一緒にアレウスの攻撃が当たったことに喜ぶイアだったけれど、レクトさんからこれくらいは当然だとバッサリ切り捨てられてがっくりと肩を落とす。

 でもまあ、アレウスも下を向いてばかりいるわけではないとわかったのは良かった。ここにいる誰よりも小さくとも、アレウスは紛れもなく立派な戦士に違いなかった。……問題は、どうやってこの状況を打破するかだ。


「こうチマチマ一体ずつ片付けてたら日が暮れるじゃん。これ以上無駄に時間費やすの嫌なんだけど」


 一向に好転しない状況に、オスクもいい加減嫌気がさしてきたようだ。さっきからずっと戦っていたこともあるのだろう、もううんざりと言わんばかりにげんなりとした表情を浮かべて、私に何とかしろと目で訴えてきている。


「殲滅する手立てはあるだろ。さっきやったヘリオスとの連携はどうなんだよ?」


「こいつ雑なんだよ。力にばっか意識向けるせいで、こいつが放った光線こっちが追いかけなきゃならないんだ。精神的に負担かけまくられて、あんなの連携もクソもあるかっての」


「む、そうか? 俺としてはなかなか悪くないと思ったのだが」


「二度とやるか」


 ルーザの提案に、オスクは心底嫌そうに顔をしかめて拒絶する。

 ヘリオスさんとは息ぴったりに見えたのだけど、性格が正反対な相手と合わせるのはオスクにとってはかなり気疲れするものだったようだ。まだやる気満々なヘリオスさんだったけど、乗ってやる気はないからとプイッと顔を背けた。

 なんとなく感じていたけれど、ヘリオスさんは力任せな攻撃が得意で、細かい調整をするといった器用さが求められることは苦手のようだ。なら、ヘリオスさんにはいっそ思いっきり燃やし尽くしてもらう方がいいか……。


「オンラードさんとレクトさんはどんな魔法が使えますか?」


「自分は大地の魔法だ‼︎ 如何なる時も揺るがぬ屈強なる大地こそ、近衛騎士長たる証!」


「その辺りは今どうでもいいし、関係ないだろう。一括りに大地といっても、この猪野郎が使うのは土そのものに限定される。そして私は風と雷だ。お役に立てるかな、ルジェリア王女」


「は、はい! 充分です」


 オンラードさんの大声に耳を塞ぎつつ、レクトさんにうなずいて見せる。

 大地の精霊は閉鎖的な性格が多いだけに、豪快なオンラードさんがそうだったのは意外だった。でも、自分の役目にどこまでも一途なのはそれらしいかも。


 とにかく、ガーディアン達を一掃しないと。この広い空間と、敵の数だ。いつものように攻撃を一点に絞っては全体に行き渡らないし、全てのガーディアンを巻き込めない。でも戦力はいつもよりずっと多い。やれることだって、それだけ広がっている。

 強い魔法を使わなくても、この場にいるガーディアンを全て倒す方法……たった今思いついたばかりのそれを、私はすぐさま実行に移す。

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