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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第16章 追い求めた果てに─ Spirit Collapse ─
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第221話 蠢く暗雲(1)

 

 ふわりとなびく、オスクの長い後ろ髪。オスクの力が強まった影響か、アリーナの照明は確かに灯されているというのに、この空間がさっきよりも薄暗くなったように思えた。

 一瞬にしてオスクの姿が変わったことに、観客達も何が起こったのかわからずにざわざわとどよめいていた。そしてそれはフユキの肩の上に乗っているアレウスも同様であり。


「え、あれっ? オスクさん、かみの毛長くなってるよ! 切っちゃったって言ってたよね?」


「うん。そのせいで力を半分失っている、っていうのも本当だよ。嘘じゃない」


 聞いていた話と違うと、アレウスもニニアンさんもオスクの姿を見て動揺している。自分から手放したと言っていたのに、それがこうして目の前に顕現しているのだから当然だろう。


「原理について詳しくは知らないが、完全に捨てたわけじゃないらしい。大精霊って立場もあるが、あいつが抱えてる事情だと本当に力が半減しているんじゃ色々危なくてな。いざって時のために保険をかけていたようなんだ。あくまで最終手段だから、追い詰められた時ぐらいしか使おうともしないがな」


「それを今使った……ということは、オスクさんもこの戦いに全力で挑もうとしているということですね」


 高まる緊張から、ニニアンさんもごくりと喉を鳴らした。

 私も、オスクの長髪姿を見たのはシノノメ公国での一度きりだ。しかもその時は『滅び』の元凶らしき存在……ヴォイドへの怒りで暴走していたから、その真価を私は知らない。どれほど力が強まっているのかは正直未知数だ。かつての、力を手放す前と同じくらいなのか、それには及ばないのか……それさえも。

 でもオスクの奥の手であり、余程という状況でもなければ使おうとする素振りも見せないから、きっと大きな可能性になり得る筈だ。


「なんと驚いた。その髪、切ってしまったわけではなかったのか」


「さあ、どうだか。これが真像か虚像か、精々その身をもって試してみろ!」


 オスクがブン、と力強く大剣を振るうと、その足元に落ちる影がそれに呼応するようにぞわりと地面を侵食していく。そして、


「『カオス・アポカリプス』!」


 左手を上に伸ばすと同時にオスクの影がギュンッと一気に伸びる。

 さっき火柱から身を守るためにも見せた、オスクがよく使う闇で標的を閉じ込めて視界を奪ったり、障壁を生み出したりする魔法なのだけど、力を解放したためか今回は規模がまるで段違いだった。オスクの影は四方八方に大きく広がり、そのままフィールド全体を黒く染め上げる。そこからさらに周りを囲うフェンスを、アリーナの壁を、天井を這って際限なくこの空間に浸透していき……闘技場内を一瞬の内に暗闇で閉ざしてしまった。


「うわわっ⁉︎ 一気に真っ暗になっちゃった!」


「灯りは点いてるのに、夜みたいに真っ暗なんて……。なんとも奇妙な光景だよ」


「でも、みなさんの顔だったり、自分の身体ははっきり見えてます。この魔法の効果って、確か視界を奪うためものですよね?」


「その筈だけど、こうして私達が魔法の範囲内にいてもちゃんと見えてるってことは、視界を奪うのが目的じゃないのかも」


 魔法も使い方次第だ。効果をそのまま発揮させるのはもちろん、単体で応用したり、別の魔法と組み合わせて使うなども。オスクのこの魔法も範囲を絞ることで障壁にして防御に用いることもできるくらいだし、今回のように拡大させた場合でもいつもと違う効果があるのかもしれない。

 ……今までの戦いで、オスクは自分や相手の足元に落ちている影を利用して攻撃していた。闇を司る者らしく『ゲート』の術など、暗い場所や影を通じることでしか使えない魔法もあるくらいだ。闘技場内全体を闇で包んだのは、もしかして。


「……この一瞬でこの闘技場を己が闇で包んでしまうとは。俺の火でも晴らせるかどうかわからんな。しかしようやく君の全力を見られるということだろうか」


「言ったじゃん、その身で試してみろってな。そのムカつく面、これから奈落に突き落として絶望に染めてやるから覚悟しとけ……!」


 頭上へ伸ばしていた手で虚空を一撫ですると────辺りを包み込む闇が、音もなくぞわりと(うごめ)く。それから闇は膨張し、やがてカタチを成していった。

 細く、小さな線のようなもの。けれど一つでは終わらず、2つ、3つ……と増殖し、瞬く間にあたり一面を覆い尽くす。一つ一つは然程力を感じないけれど、集まることで確かな存在感を主張し、プレッシャーを掛けてくる。

 闇で包まれたこの空間は、最早オスクの支配下も同然だった。それこそがオスクが闘技場内を闇で満たした狙いだったのだろう。そこら中から殺気が向けられているような感覚……オスクが今、標的と定めているのはヘリオスさんだけの筈なのに、その圧は観客席にいる私でも背筋に冷たいものが走る程で。


「『ワールド・バインド』!」


 闇の線はオスクが手を振るったのを合図に、無数の鎖となって一斉にヘリオスさんを縛り付けるべくビュッと伸びていく。私達にとっては最早見慣れてしまったオスクの拘束魔法だけど、今までの戦いや、一回戦で使った時とは鎖の数も規模もとてつもないものだった。

 オスクの本気を肌で感じ取り、自分も相応の覚悟と力で向かわなければならないと思ったのだろう。とうとうヘリオスさんの顔から楽しげな笑みが消えて、真剣そうなものへと塗り替わる。そして自分に襲い掛かろうとする鎖をキッと鋭く睨みつけ、斧を強く握り締めた。


「いやはや……俺が望んだことだとはいえ、これ程までとは。しかし、俺とて退くわけにはいかん! 『アルマ・フロガ』!」


 最初オスクが攻撃した時と同じく、炎の鎧を纏うヘリオスさん。それで何本かは鎖を防ぐものの、圧倒的な物量に押され始め。これでは不十分だと判断したらしく、ヘリオスさんは鎧を爆ぜさせて自分に向かって来ていた鎖を吹き飛ばすと同時に、斧を振り上げる。


「『イフェスティオ』!」


 再び繰り出された、紅蓮の刃。けれど今回は突進するのではなく、そのまま斧を振るうことでおびただしい数の鎖を相殺していく。でも無尽蔵にあるようにすら思えてくる凄まじい数の鎖を、ヘリオスさんはただ弾き返すだけではキリがないと考えたようで、鎖が向かってくる方向を予測して回避していく。

 なかなかヘリオスさんを捕らえられない状況が続いて、流石のオスクもイライラしているんじゃないかと思いきや……実際は全くの逆だった。ニヤリと笑みを深め、その紅い瞳がギラリと鋭く輝いた。


「『ワールド・エクリプス』!」


 その瞬間、ヘリオスさんが避けた先の地面から急激に深い闇が這い出してくる。それはたちまち大きく広がり、ヘリオスさん足を捕らえたかと思えば、ずぶずぶと足首まで呑み込んでしまった。


「ぬぅ⁉︎」


「鎖に気を取られすぎたなぁ、戦闘狂!」


 鎖を形成していた闇は、一瞬で大剣の刃と転じる。その切先の全てが、まだ闇に足を囚われているヘリオスさんへと向けられていき、


「「ホロウエッジ』!」


 ヘリオスさんを貫くべく、無数の刃が一斉に襲い掛かる。身動きが満足に取れない中での猛攻撃。とうとうヘリオスさんに深手を負わせられることになるかもしれないと思ったけど……ヘリオスさんの深緑の瞳から、燃えるような闘志が消えることはなく。


「なんのっ……まだ終わらん! 『メテオリティス』!」


 ヘリオスさんは炎の力を込めた斧を自分の足元へと叩き付ける。そして、そこから巨大な火柱を生み出した。

 自分の魔力とはいえ、そんなことをすれば自分も煽りを食らうことは必至だった。でもそれはヘリオスさんも覚悟の上だったようで、闇に沈んで自由の効かない足を、動きが制限された身体を、腰のみで支えながら踏ん張ってなんとか体勢を維持していた。

 流石のヘリオスさんですら、歯を食いしばる程の衝撃。でもそこまでして耐え忍んだだけあって、周囲に及ぼす影響もそれ相応のものだった。ヘリオスさんの足を呑み込んでいた闇は火柱によって吹き飛ばされ、ヘリオスさんに向かってきていた闇の刃も衝撃で掻き消されていた。


「あ、あの攻撃を防いじゃうなんて……」


「なんて力だ……。オスクも、デタラメが過ぎるだろ、こんなの」


 これが、大精霊の力……。格の違いをまざまざと見せつけられて、私もルーザも唖然とするばかりだった。

 渾身の一撃だっただけに、防がれてしまった事実にオスクも少し悔しげに表情を歪めていた。そしてヘリオスさんも、これ以上戦いが長引くのは自分がどんどん不利になると思ったのだろう。お互いに相手を鋭い眼差しで見据え、各々の得物を構えて走り出す。


「『イフェスティオ』ォッ‼︎」


「『カオスレクイエム』‼︎」


 炎に包まれた両手斧が、闇を纏った大剣が、それぞれ相手を斬り伏せようと迫る。その2つが、フィールドの中央でぶつかり合う────

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