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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第16章 追い求めた果てに─ Spirit Collapse ─
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第220話 闇に揺らめく炎(2)

 

 決勝戦開始直前となり、観客達が自分の席へと戻ってきた頃。演出なのか、アリーナ内の灯りが消えて薄暗くなる。その中で、フィールドだけがライトに照らされて、まるでそこが輝いているように見せられていた。

 この戦場を制した者が栄光を手にできる────そう示唆するかのように。


『皆様、大変長らくお待たせ致しました。今大会最強の戦士を決定する、決勝戦……いよいよ開幕です!』


 時間になってすぐ、実況担当がすぐさまそう知らせてきた。アリーナの中が薄暗くなったことで緊張感が増したのか、観客達も現在は口を閉じているようで周囲から聞こえていたざわめきが一旦収まった。それでもやはり興奮は抑えきれないようで、うずうずしているのがこの暗がりでもはっきりとわかった。


『それではまず、頂点をかける戦いの挑戦権を得た栄えある2人の戦士をご紹介しましょう。一人目は初出場以来、その玉座に近づく者全てを退けてきた絶対王者、無敵のヘリオス‼︎』


 実況担当の紹介を受けて、フィールド上へと姿を現したヘリオスさん。その瞬間、待ってましたとばかりに声援があちこちから上がってくる。ヘリオスさんはそんな観客達に手を振りながら、フィールドの中央まで歩いていった。


『そして今回王者に挑むのは、今大会全試合で一度も攻撃を受けることなく勝ち上がった初出場の期待の新星……いやトリックスター! オスク選手だーーー!』


 ヘリオスさんが入場してすぐに実況担当はオスクの紹介へと移った。ヘリオスさんの向かい側の入り口からオスクもフィールドへと入ってきたけれど、その顔は相変わらず渋いままだ。


「ったく、小っ恥ずかしい肩書き付けてくれちゃって。誰が考えたのさ」


「ははは! 俺はなかなか似合っていると思うぞ。型に囚われず、相手や戦場を掻き乱すその様。まさにその言葉通りだと感じるのだがなぁ」


「僕には皮肉にしか聞こえないんだけど」


 そんな不機嫌さ丸出しな様子を見兼ねてか、ヘリオスさんがすかさず前向きな言葉をかけるものの、オスクは気に入らないとふいっと顔を背けてしまった。ヘリオスさんとは違って観客達から送られている自分への声援にも応えるつもりもないようで、うるさそうに顔をしかめながら耳に指を突っ込んでいる。

 趣味思考といい、態度といい……こうして相対していると、2人の性格が正反対だということがよくわかるな。


 現在、フィールドにはこの試合の勝敗予想の結果も投影されているのだけど、割合は見事に五分五分といったところ。正確な数値では若干ヘリオスさんに賭けている人数が多いけれど、それでもほんの僅かな差だ。これまでの戦いの結果を受けて、オスクならば無敵とまで言われているヘリオスさんを下せるかもしれない……そう期待している観客も増えたことが、その結果からはっきりと表れていた。

 両選手の紹介が終わったところで、2人は位置についていつでも始められるよう準備を整えていく。勝敗予想の結果も閉じられて、もう間も無く最後の試合へと突入するということを感じ取ったためか2人への声援も徐々に止んでいき、アリーナ内はシンと静まり返った。


「……あれ?」


「ん、どうした」


 何となくアリーナを見渡してみたら、違和感が一つ。思わず声を漏らすと、隣にいたルーザがそれにすぐ気付いた。


「えっと、オーナーがいないみたいなの。休憩中に席外したのはわかってたけど、試合前なのにまだ戻ってきてないらしくて」


「言われてみれば……。今までヘリオスが出てる試合も、不貞腐れながもしっかり見てはいたってのに」


 そう。あの玉座のような椅子は、試合開始直前だというのにまだ空っぽだった。今までの試合もイライラしながらではあったけど、ずっと席に着いてはいたにもかかわらず。そりゃあ最終戦に残ったのはヘリオスさんとオスクで、もうオーナーと契約している戦士は全て倒されてしまった後だから、どちらが勝ってもオーナーが損をする結果になってしまうのは決定事項になってしまっているのだけれど。

 そんな試合を見たくないからなのか、もしくは何か別の理由があってのことなのか……。


「この大会が始まる前もかなり怒っていましたし……このまま黙ったままでいるとは思えませんね。何か仕掛けてくる予感しかないんですが……」


「そうは言ってもね。現状では、こちらが先に動こうとしても全て言い掛かりになってしまう。物的証拠があるならまだしも、それが一切無い今、俺達にできることは限られるだろうね」


「うーん、うーん……じゃあ、レクト達にもうこの中に入ってもらっておいた方がいいかなぁ?」


「いや、やめておいた方がいい。店員も含めて、オーナーの部下達がどこにいるかもわからないからな。レクトはともかく、オンラードは色々目立ちすぎるだろ。一人にでも見つかったら皇帝が取り締まりに乗り出してることをヤツに知られて、まんまと逃げおおせられる」


「中はあたし達で目を光らせておくしかないわね。いざって時にはすぐ動けるよう構えてもおくから、申し訳なく思っちゃうかもしれないけど、アレウス君は2人の試合を見ることにだけ集中していればいいからね。大精霊様同士の戦いが目の前で見られる機会なんてそうそう無いんだもの」


「う〜……うん、わかった。みなさん、ありがとう」


 自分だけ何もしないで観戦を楽しむことに対して表情を歪めていたアレウスだったけれど、カーミラさんが先手を打ってくれたおかげでそれが少しばかり和らいだ。

 オーナーがアリーナに戻ってこない理由はわからないけど、何も起こっていない内から色々不安がっていても仕方がない。それに、私達がここに来ているのはそもそもヘリオスさんに認めてもらって、エレメントを託してもらう目的があってこそ。ヘリオスさんが提示した条件の中に勝つことまでは含まれていないにしても、オスクだってやられるつもりは一切ないだろう。

 観戦に回っている私達はせめて、オスクが納得のいく結果を掴み取れるよう応援するだけだ……!


『伝説の覇者か、戦場の魔術師か。王者の席はただ一つ、栄光は一体どちらの手に! それでは決勝戦、試合……開始です‼︎』


 高々と開幕を宣言された瞬間、アリーナの照明が一斉に点灯し、2人は同時に武器を抜く。そしてそのまま、力強く地を蹴ったかと思えば。


「────はあっ!」


「そらっ!」


 お互いに目にも留まらぬ速さで間合いを詰め、丁度中央でぶつかり合う。それだけで2人の周囲に衝撃波が発生し、地面と空気をビリビリと震わせた。


「この瞬間を、どれだけ心待ちにしたことか……!」


「言っとくけど、二度目はない。精々楽しんでおくこったな!」


「ははは! ならばますますこの戦いに覚悟を持って挑まねばならんな。それは願ってもないことだ!」


「ハッ。そのウザい笑みがどれだけ持つか見ものだな。後で吠え面かくな、よっ!」


 斧と大剣、2つの刃がギリギリと悲鳴を上げながらせめぎ合う。しばらく鍔迫り合いをしていた2人だったけれど、オスクが唐突に大剣を持つ手に込めていた力を緩め、若干身体の軸がブレたところヘ大剣を大きく振るってヘリオスさんを突き放した。

 けれどヘリオスさんは動揺するどころか、より一層楽しそうに笑みを深めていた。ヘリオスさんの全身に炎のような光が蓄えられていき、その身体に収まりきらないものが火の粉が振り撒かれるようにしてパチパチと弾けて散っていく。オスクもまた魔力を(たぎ)らせたようで、纏う空気が、下に落ちる影が、それによって微かに揺らいだ気がした。


 私達にもどちらが勝つか全く予想がつかないこの戦い。大精霊同士が、これまで見せてこなかった本気を出して挑む真剣勝負。一体どうなるのか……私達もアレウスも、固唾を呑んで行く末を見守った。

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