第217話 烈烈たる剣乱舞(3)
「くらいやがれぇっ!」
合図された直後、オスクに向かって3人組は一斉に襲い掛かってくる。勢いよく、迫力はあるわかりやすい正面突破。その様子にオスクはやれやれとばかりに首を振ると。
「……あのさあ、なーに素通りしてんのさ」
「はっ?」
一人も攻撃を当てられないまま、その横を通り過ぎたことにオスクは呆れた表情を浮かべていた。
……いや、通り過ぎたわけじゃない。実際は攻撃が当たる直前、オスクは目にも留まらぬ速さで、かつ最小限の動きで回避したんだ。
それはもう、瞬きする程度のほんの僅かな瞬間に。オスクのことをじっと見ていなければわからない程のスピード。最初の立ち位置から移動せずに、身体の向きだけ変わっているその光景は3人組にも、周囲の大半の観客にも、3人組がオスクに対して攻撃が届かないまま素通りしているようにしか見えなかったことだろう。
「あれ、3秒で終わらせるって話じゃなかったっけ。お前らがそう呆けてる間に5秒は経っちゃってるんだけど」
「ちょ、ちょっと狙いがズレただけだっつーの! オラ、もう一回やんぞ!」
「おお!」
一瞬のことで状況が飲み込みきれていないこともあったのだろう。少し戸惑う素振りを見せたものの、3人組はすぐに切り替えて再びオスクに向かっていく。
威勢がいいのは結構だけど、不意打ちや連携する様子も一切ない真正面からの攻撃がオスク相手に当たる筈もなく。それから2回、3回と繰り返してもオスクは攻撃を全部見切ってひらりひらりと避けていった。
最初は偶然で片付けられても、それが何回も何回も続けば3人組も流石に自分達の動きが完全に読まれていると気が付いたらしい。一発だけ当てれば勝てるという条件なのに、なかなか勝敗がつかないことに3人組は目に見えて焦り始める。
「くそっ、なんで当たらねーんだよ⁉︎」
「さぁてね。精々その足りない頭をフル回転させて考えてみたら? せっかく簡単に勝たせてあげる条件でやってるってのに、ノロマなこった」
「うるせぇ! お前、オレ達を馬鹿にしてんだろ! さっきから避けるばっかで何にもしてこねーじゃねーかよ!」
「別にいいじゃん。僕がそうしたいってだけ」
会話している最中も3人組は攻撃の手を、オスクは回避することを止めることはなく、戦いを継続していた。何度も避けられたためかただ正面から突っ込んでも無駄ということは学んだのか、やがて魔法を交えてでの攻撃に切り替える。
でも、それで動揺するオスクではなかった。正面から飛んできたものは大剣を駆使して防御し、左と右で挟み撃ちにしてこようものならバク転で華麗に回避し、背後から追撃しようとしてきても地面に突き立てた大剣を軸に飛び上がって逃れ。まるで曲芸師のような動きで魔法も全てかわした後に、オスクは両腕を気怠そうに広げつつ肩をすくめ、
「……それで?」
「ふざけろっ‼︎」
これでお終いなのかと煽ってみせれば、それが挑発と知らずにまんまと引っ掛かった3人組はさらに激昂した様子で力任せに攻撃を繰り出していく。
感情に任せるままの、単調な攻撃。さっきみたいな派手なことをしなくても、避けるのはそう難しくないものになっていた。観客達も、まだ一度も攻撃していないのにオスクが圧倒的に優勢だという事実にガヤガヤとどよめいていた。
オスク、これを狙ってわざと相手を怒らせるようなことをしたんだな……。怒りに支配されれば目の前の標的に集中するばかりで、それだけ周りが見えなくなる。元々戦略すらまともに立てていなかった相手だ、こうなっては決着がつくのも時間の問題だろう。
オスク自身も、これ以上付き合う気は無いらしい。はあ、と小さくため息をついて見せたかと思えば、ニヤッと怪しい笑みを浮かべて。
「……時間切れ。『ワールド・バインド』!」
ふとそう呟くと、オスクは3人組に向かって手をかざす。すると3人組の周囲から無数の鎖が出現し、その身体を空間ごと縛り付けて動きを完全に封じ込める。そして、
「な、なんだっ────」
「『カオスレクイエム』!」
3人組は状況を理解する前に、闇を纏った刃で斬り伏せられた。声もなく、バタバタと倒れていく対戦相手達。それを見届けるとオスクは3人組に背を向けてから、観客達に見せつけるように大剣をクルクルと回して遊んでから虚空へと納め。
「チェックメイトだ」
あっという間に勝負がついたことに呆気に取られていた観客達に対してそう静かに、それでもはっきりと宣言した。
結局、オスクには一度も攻撃が届かないまま試合は勝敗が決した。圧倒的な実力差に声も上げられず、アリーナ内はシンと静まり返る。
「く、くっそぉ……!」
「……っ、アイツ!」
「オスク、後ろっ!」
この結果がよっぽど不服だったのか、3人組の内の一人が不意に起き上がって最後の悪足掻きとばかりに攻撃しようとしてくる。
観客席から見下ろしているためにそれにすぐ気付いたルーザと声を上げるものの、間に合わない。オスクの背後に刃がすぐそこまで迫り────




