第214話 灯火の元へ(2)
「俺が君達に望むのは、君達がどれほどの力を持つのか見てみたいのだ。世界を蝕む災いは対峙したことで身をもって知っているだろうが、とてつもなく強大だ。それを退けるには相応の実力が必要となる。そこでだ、闘技場に出場者としてエントリーし、勝ち上がって俺と勝負してもらえないだろうか⁉︎」
「……やっぱりかよ。流石期待を裏切らないというか、予想通りすぎて感心する」
「ははは、君が俺の思考回路を理解してくれているとは光栄だ!」
「ワンパターンすぎるだけだっつの……」
ヘリオスさんが提示してきた条件は、戦い好きな彼らしく直接対決ということだった。ただ、ヘリオスさん自身を相手にするのはもちろん、様々な相手とどうやって立ち回るのかも見てみたいのか、闘技場で勝ち上がるという注文付きで。
闘技場に入り浸っていたことといい、ヘリオスさんのどこまでも戦い一筋なところに、オスクはやれやれとばかりに肩をすくめている。
「うんとさ、それってエントリーするのはルージュかルーザのどっちかじゃねえとダメだったりするんスか?」
「いいや、何もこの2人だけに限定するわけではないぞ。君達は2人の友人だろうか?」
「うん。ルージュもルーザも、わたし達の大切な友達です!」
「そうか。その結束力、良い友人を持ったのだな。聞けば、君達も災いに立ち向かってくれているそうじゃないか。まだ若く、妖精の身であるが故に大精霊には見劣りしてしまうが、それを言い訳にせず鍛錬に励み、臆することなく侵攻を食い止めようとしてくれているとか。その姿勢、その勇気、俺はとても感動した! まだまだ伸び代はあるだろうが、戦士の心構えとしては申し分ない。我こそはと思う者こそ俺に挑戦しに来てほしいのだ! もちろん、オスク殿やニニアン殿、フユキ殿でも構わないぞ」
「お前、それを言い分にして戦場に僕を引きずり込みたいだけだろ……」
「ええと……わ、私はその、勝ち上がれる自信がないです……。あ、あとあと、そういった場所に対して苦手意識があるといいますか……」
「あはは、大精霊様からご指名いただくのは光栄だけど、俺は情報屋である前に雪の妖だからね。それに、ヘリオス様相手では分が悪いし、ここは申し訳ないけど御免こうむらせていただきたいかな」
「ううむ、それは残念だ!」
ヘリオスさんは3人にもエントリーすることを持ち掛けるものの、あからさまに面倒くさそうな顔をしたオスクからはあっさり切り捨てられ、他の2人からも遠慮したいと断られてしまった。それでもヘリオスさんは特に気にした様子もなく、残念だとは口にしていても明るい笑い声を上げていた。
エレメントを託してもらうにとはヘリオスさんから預けても大丈夫だという信頼を得なくてはならないのだけど、カグヤさんの時とは違ってここにいる誰か一人でもその力を試せればそれでいいようだ。一応、ここにいる全員に挑戦権はあるみたいだけど……問題は誰がエントリーするか。
誰が出るべきか考えようとした時、ふとヘリオスさんの視線がアレウスへと向けられる。
「むむ? 一人、君達と歳が離れている者がいるな。闘技場には年齢制限もある故、君が参加するのは厳しいか。しかし、随分と複雑な魔法で守られているようだが、何か理由があるのだろうか」
「あ、その。彼……アレウス君はとある理由で僕達と同行しているんです。『滅び』のことも伝えたのはつい昨日ですから、アレウス君には見学をお願いしようかと」
「そうか。他者の立ち回りを見ることも良い経験になるからな。それもまた鍛錬の一つだ! ふむ、だがそのアレウスという名……どこかで聞いた覚えがあるような」
「はい。まだ幼いんですが、アレウスはアルマドゥラの皇帝なんです」
「なんと、それは本当か⁉︎」
「ちょっ、声でけぇよ……!」
フードにかけられている阻害の魔法もあるとはいえ、これには流石のヘリオスさんも寝耳に水だったようで、驚きのあまり大きな声を出してしまう。
おかげで周囲にいたカジノの利用客からなんだなんだとばかりに注目を集めてしまい。これはまずいと、騒ぎにならないよう一番身長が近いオスクが(といっても20センチくらいの差があるのだけど)咄嗟にヘリオスさんの口を塞いで事なきを得た。
「……ぷはっ! す、すまない。まさか皇帝がこのような場所に、しかも君達と行動を共にしているとは思わなくてな。だが、パレードで目にしていた姿とは随分とその……小さい気がするのだが」
「うん……ぼくはまだ子どもだから、レクト……あ、ぼくの先生みたいな精霊からバカにされないようにって、外に出る時は大人用のよろいを着るよう言われてるんだ。今はこそこそしてるから、こういうかっこしてるの」
「成る程。この帝国は激しい戦乱の後に建国されたのであったな。身の安全を考えれば、それが最善であろう。ここの闘技場の参加者は粗暴な者が多いが、手強い優秀な戦士も僅かだが存在している。彼らの戦法も参考になること間違いなしだ。そして君が目指す道とは異なるかもしれんが、俺の動きも君の糧になれば嬉しいぞ!」
「う、うん! 大精霊さまの戦い方見られるの、ぼく楽しみにしてます!」
「うむ、良い返事だ!」
アレウスの素直な反応に満足そうにうなずくヘリオスさん。
それから彼は次の試合の時間が迫っているとかで、一度私達から離れて闘技場があるらしき方向へと去っていった。「君達が俺の元に辿り着く時を心待ちにしている!」という、力強い言葉を残しながら。
ヘリオスさんと一旦別れた後、私達はこれからどうするか相談するべくその場で輪になった。何をすべきかは定まったものの、わからないことはまだ多い。
「ふう。火の大精霊っていうだけあって、何かと熱いヒトだったわね」
「そうか? オレはあのテンション若干うざく思ったがな」
「……お前とは変なとこで気が合うよな、ホント。あいつ、条件とか言っておいて、結局自分の趣味優先してるわけだし、さぁ?」
「まあまあ、オスク様。とりあえずは闘技場に出場できるか確かめておくべきだと思いますよ。俺がそこまで調べられていないというのもあるけど、闘技場はこのカジノでも特に大きな稼ぎ場所だ。数多くいるお客を、店側がそう簡単に戦士として登録してくれるかはわからないですからね」
「あ、そうだね。そうすんなりとはいかなさそう」
フユキの言う通り、入場料とは別途で料金がかかったり、参加資格のようなものが必要になってきそうだ。まず最初にそれを確認しなくては闘技場にエントリーするどころじゃない。
店も利用客も、隙あらばこちらの所持金を取ろうとしてくる場所だけど……流石に説明を聞くくらいなら大金を搾り取られる心配はないだろう。ここで不安がって立ち止まっていても仕方がない。早く先に進んでしまおうと、私達は目の前にあった受付へと向かっていった。




