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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第16章 追い求めた果てに─ Spirit Collapse ─
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第213話 錆だらけの黄金郷(2)

 

 カジノの正面入口だと思しき大扉の前に着くと、その近くに立っていた見張り役であろういかにもガラの悪そうな男精霊がカードの確認のためだと言って近づいてきた。

 すかさずルーザがカードを見せるものの、受付担当が何故こんな子供にカードを渡したのかと訝しげに睨んできたためにオスクがルーザの前に出て「なんか文句ある?」と逆に威圧。漂わせている魔力でオスクが只者ではないことを悟ったのか、その精霊はすごすごと撤退していった。


「やれやれ。ちびっちゃい身体な上に女だと舐められやすいってのかね? 中身は凶暴だってのに、外見が伴ってないと色々損してるってこった」


「うるせーな……。いくら鍛錬重ねたところで急に体格が変わるわけないだろうが。だがまあ、今はお前に助けられたのも事実か。ありがと」


「言ったじゃん、ああいう輩から守るのも保護者役の務めってな。低級だけど、どっちが上か察せないほど落ちぶれてはなかったか」


「でもこれでとりあえずはカジノの中に入れるね」


 受付から杜撰(ずさん)な対応をされたものだから、カードを見せても追い返されてしまうかもしれないという不安が拭い切れていなかったけれど、ひとまずは次に進める安堵感からほっと胸を撫で下ろす。さて、色々あったけどスタートラインには立てたのだからここからが本番だ。


「ねえ、フユキ。カジノの中もそれなりに危険だったりする?」


「まあね。素直に賭け事でコツコツ稼いでいればいいものを、それが面倒だと手っ取り早く巨額の富を得たいと考えている輩ばかりでさ。それも勝負に勝つという方法じゃなくて、他の客から奪い取ろうとしてくるものだから、ただ歩いているだけでも気が抜けないのさ。そしてその標的に選ぶのはやっぱり力の弱そうな女子供なんじゃないかな」


「お金が無いと入り口で追い出されてるから、中に入ってるってことはお金持ちなのが確定しているからだよね。わたしも狙われやすかったりするのかなぁ……」


「腕っ節弱いエメラじゃ狙われやすいどころか、カツアゲの格好の的だろ。わかっちゃいたけどとことん腐ってる場所だよな、ホント。つーか、それじゃあアレウスとか尚更危なくね?」


「うーん。だったら、アレウス君は誰かと手を繋いでいた方がいいんじゃないかしら。周りを囲っていても、ほんの一瞬目を離した隙に……ってことも十分あり得るし、触れてさえいれば万が一はぐれてしまった時にもすぐ気付けるわ」


「あっ、うん。わかった!」


 イアの言葉を受けたカーミラさんにそうアドバイスされ、アレウスはそれに従いすぐ隣にいたフリードと手を繋いだ。

 近くにいたのと、背の高い精霊より同じ妖精の方が手が繋ぎやすいということもあるけど、フリードを選んだ理由は昨日の夜に打ち解けていたことが大きかったに違いない。自分を心配して、アドバイスをくれたフリードとなら緊張することもないと無意識にその手を取ったのだろう。


「あ。そうしているとなんか2人、兄弟みたいだね」


「は、はい! お2人とも同じ白色されてますから、遠目で見るとそっくりです」


「ん。じゃあ、お兄ちゃんってよんだ方がいい?」


「え! ええっと……そう面と向かって呼ばれると照れ臭いですね……」


「あはは。そうは言うけど、頬が緩んで満更でもなさそうじゃないか」


「か、からかわないでよ、ドラク……! 下の兄弟がいないから慣れてないだけで……」


 照れ臭さと恥ずかしさからほんのり赤らめながらも、ドラクの言う通りフリードの口元には笑みが浮かんでいた。フリードには兄であるグレイさんがいるけれど、弟はいないからアレウスにそう呼ばれたのが新鮮だったのだろう。


「あれ。フリードさん、もしかしていやだった?」


「う。嫌……ではないんですが、恥ずかしいので普通の呼び方でお願いします……」


「ハイハイ。和やかになっているところ悪いけど、いつまでこんなとこで立ち止まっているつもりさ。下ばっか見てないで前見ろ、前」


「ああっ! す、すみません」


 アレウスからの呼び方について動揺していたフリードだったけど、オスクにそう指摘されたことで今の状況を思い出したらしく、慌ててぺこりと頭を下げる。気持ちを切り替えたところで、早く先に進んでしまおうと私達はいよいよカジノの中へ踏み入れた。


「おお、すげ。やっぱ見た目は豪華だな」


 入り口をくぐり抜けた途端、イアが感心した様子でそう漏らした。

 純白の壁に星空が描かれている天井という内装の建物の内部にはたくさんのスロットマシンがズラリと並び、大きなルーレットが鎮座し、トランプやダイスゲームのためのテーブルがいくつも設置されているという、いかにもカジノらしい設備が揃っていた。そして、それらの設備は例によって金色に輝いていて、元々豪華な建物の中をより一層煌びやかに彩っていた。

 カジノの利用客は勝負に勝ったのか歓声を上げていたり、逆に負けてしまったのか見るからに落胆していたり。酷いものだと苛立ちからスロットマシンを蹴飛ばして八つ当たりしているのもあったりと……遠くからでも利用客がどんな状況にあるのかがわかりやすいものだった。


「多少乱暴なのもいるけど、パッと見ただけじゃそこまで悪者がのさばっているようには感じないような……」


「ほとんどのお客はゲームに夢中みたいだものね。そんなに稼げるようなものなのかしら、あれって」


「さあ? 俺はあくまで依頼のために調査しただけだから、そこまでは把握してないな。まあ、ほとんどの場合は自分の持ち金を搾り取られるだけだろうけど、ほんの僅かな確率、客の中でもほんの一握りが得られる幸運を掴むべくみんなして遊戯に勤しんでいるんじゃないかな」


「うーん? それじゃあ、普通のカジノと変わらなくない? 国が大掛かりな取り締まりに乗り出すくらい危ない場所、って言えなくなっちゃうような」


「そのほんの僅かな確率が正当なものだとはわからないだろう? 最初にある程度勝たせておいて、その余韻に浸っているところを好機とさらに大金を積ませて、それを根こそぎ搾り取るとかさ。絵札なら懐にいい絵札を忍ばせておいてすり替える、絵合わせや数字当ては当たった後にずらして外れたってことにするとか、いくらでもやりようはありそうだからね」


「あ、うう……確かに、ちゃんとゲームが成立しているかも怪しいね」


 フユキからの話を聞いて、エメラも渋い顔を浮かべる。

 受付から詐欺紛いな対応をされたし、施設内のゲームでもフユキが挙げたようなイカサマくらい当たり前にやっていそうだ。それでも利用客が懲りずにゲームに夢中になっているのはごくたまに大当たりが出ているんだろうけど……こんな場所だと、とてつもなく低い確率に違いない。


「それで負け続けたお客が、他のお客からお金を奪おうとしてくるということか。歩いているお客が全員、周りから金品を巻き上げようとしてくるわけじゃないとは思うけど、いつ手を出されるかわからない状況ですれ違うのも怖いよね……。ただでさえ、僕達子供だからって目を付けられやすそうだし」


「できるだけの対策は取ってあるにしても、なるべく他の客と距離を保ちながら進んでいかないとな。変に絡まれても面倒だ」


 幼いとはいえ仮にも皇帝であるアレウスの身に危険が及んだ時にすぐそれから脱せるよう、アレウスはレクトさんから厳重な装備を用意してもらっているけれど、やはりそれらを活用するようなことが起こらないに越したことはない。ドラクとルーザの言葉にうなずきつつ、遠回りにはなってしまうけど人目を避けるのを優先しようと壁に沿ってこそこそと歩くようにしてカジノの奥……火の大精霊が待つという闘技場を目指すことに。

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