第213話 錆だらけの黄金郷(1)
アレウスの連絡を受けて、レクトさんとオンラードさん率いる兵士達はすぐに駆け付けてくれた。これからの取り調べのために、今までの男とのやり取りをさっきオスクが見つけた料金表を見せながらレクトさんに説明すると、悪党というにはあまりにもお粗末な手法にレクトさんもやれやれとばかりに頭を抱える。
「まったく……こんな愚物に今まで手を焼いていたとは、帝国の恥晒しにも程がある。管理者としても、アレウスの教育係としても皆様に顔向けできないな」
「まあまあ、こうして今回のことで多額のお金をせしめていたこととその方法も明らかになったんだし、良かったです」
「ふぅむ。あまり楽観的にはなりたくないけれど、ここはそのように前向きに捉えるべきか。しかし、これは序の口。今しがた捕らえた此奴も罰せるべき低俗には変わらないが、ここを牛耳る頭にはこの程度大した損害にはならない。それこそ、己が逃げおおせるための身代わりにすら値しない、捨て駒程度の価値しかないだろう」
「とかげの尻尾切りってやつでしょうね。自分の身に危機が迫った時に取り締まりの手を向けられないよう、この男のような下の下の地位にいる者に注意を逸らしておいて、その間に自分はまんまと逃げおおせると。いかにも小心者の小悪党がやりそうなことだ」
フユキも、単純だけどだからこそ厄介な逃げ道に肩をすくめていた。
2人の言う通り、この男を捕まえたところであまり影響も出ないだろう。応対のための教育すら全くと言っていいほどされてない状態なんだ、レクトさんが締め上げても有益な情報が得られる可能性はゼロに等しい。やっぱり、上で取り仕切っている者をどうにかしない限りは万事解決とはいかないか……。
「我が帝国の問題に皆様の手を、ましてや他国の王女ともあろう方の力を借りるべきではないとは承知しているんだが、これがまたとない好機でね。そして取り締まりには兵士達を乗り込ませるのが本筋なのだけど……」
「レクトより自分の存在が足を引っ張ってしまうと宣告されてしまってな! いやはや、誠に申し訳ない‼︎」
「……こういう訳でね、理由はお察しいただけるだろう。先頭に立つべき存在が足枷にしかならないために、頼みの綱が皆様しかいないんだ」
「え、ええ。今のでよーく理解できたわ」
オンラードさんの大声に耳を塞ぎながら、自分達が直接取り締まりに乗り出せない理由を説明するレクトさん。声色こそ冷静さを保っているけれど、その瞼は苛立ちからかピクピクと小刻みに震えている。
確かに、オンラードさんに隠密行動をお願いするのは色々無理がありそうだからな……。2メートルはあるんじゃないかという大きな体格もそうだけど、こそこそ息を潜めなくてはいけない状況でもこの大声で自分から居場所を宣言してそうだし。
それに、皇帝の近衛騎士となれば帝国内でもかなり名の知れた存在のはずだから、皇帝が取り締まりに乗り出していることがすぐバレてしまうというのもあるのだろう。
「何はともあれ、どうせ向かう先は同じだしな。さっきみたいのをのさばらせたままなのはオレとしても気分悪いし、できる限りのことはするつもりだ。だが、あくまでこっちの目的のついでだから本丸まで辿り着けるかはわからないぞ?」
「お気になさらず。今まで手出ししようにもなかなかできなかったんだ、外堀を僅かでも埋められるだけでもこちらとしては大きな進歩となる。そして中が程よく引っ掻き回されたところで、この核弾頭を突撃させてさらに混乱を招くというのも悪くないだろう」
「……? うむ、最前線に出られないのは非常に残念だが、悪党を捕らえるためにも自分なりに全力を尽くそう!」
レクトさんに核弾頭呼ばわりされたオンラードさんは、首を傾げながらも堂々と胸を張る。今のレクトさんの言い方だと陽動として使われるも同然だというのに、オンラードさんはそのことに全く気が付いていない様子だ。
「あ、あの。オンラードさん、自分がオトリになるってことわかってないんじゃ……」
「脳筋には力技で解決させるのが一番だろう。ただでさえおつむが空っけつで、力とでかい図体しか取り柄がないんだ。精々皆様と私の防波堤になってくれなくてはね」
「あ、あはは……」
「それと、アレウス。帝国を治める者として、君が皆様を先導するのが在るべき姿だが、その役を引き受ける器には達せていない。それは仕方がないとしても、この程度の低俗どもに腰が引けていては先が思いやられる。正面から敵わないとしてもその貧相な体格ならば隙間に潜り込むこともできよう。逃げようものならどうなるか、結果は言わずともわかるだろう?」
「は、はーい……」
「あ。やっぱあの反省文うんぬんっての、冗談じゃなかったのな」
「何を当たり前のことを。このちんちくりんには帝国を背負うという使命がある。教育係である私が甘やかすはずがあるまいに」
レクトさんが情け容赦ない評価を下すのはアレウスだけでなく、オンラードさんに対しても同じのようだ。当然というべきか、その後アレウスに対してもきっちり釘をさしておくことも忘れずに。
そしてこの間に兵士達が男の拘束と、受付のカウンターの中にあったお金や料金表などの証拠になりそうな物品の押収を完了させたようで、これから取り調べに移るレクトさん達とはここで一旦お別れ。これで受付での後始末もお終いだ。
ならば私達も早く目的を果たしてしまおうと、オスクを先頭にカジノ入り口へと歩き出した。




