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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第3章 夢幻の邂逅
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第20話 光の元に集う(2)

 

 中でみんなに追いついてから、全員で職員室へと向かってアルス先生に挨拶しに行った。先生はすごく喜んでルーザ達を歓迎してくれた。

 ここの学校は学年ごとのクラスも一つと少ない。当然人数もそこまで多くないから、クラスの仲間が増えるのは先生も嬉しいのがよくわかった。もちろん私とエメラ、イアも同様だ。

 クラスメート達には授業が始まる前に紹介するとのことで、ルーザ達は時間になるまで職員室で待機することに。ちなみにオスクは厳密には学生ではないから、授業を受けることもしないらしい。外で様子を見たり、気が向いたら参加したりという感じで過ごすようだ。


 一旦ルーザ達と別れた私達は一足先に教室へと向かい、いつものように授業を受ける支度を済ませて、授業まで適当に時間を潰す。やがて始業を知らせるベルが学校に鳴り響き、それと同時に先生とルーザ達が入って来た。

 見慣れぬ生徒の登場に、クラスメート達も少々興奮している様子だった。


「じゃあ、3人とも。自己紹介を頼む」


 アルス先生は挨拶の後に、3人にそう指示を出す。まずはルーザの番だ。


「ルヴェルザ。得意なのは実技だ」


「じゃあ次は僕だね。僕はドラク、案内妖精だよ」


「えっと……フリード、です。雪妖精です」


「よし、ありがとう。この3人はダイヤモンドミラーで繋がっている異世界、影の世界から来たんだ。だからと言って、普通の妖精には変わらない。仲良くしてやってくれ」


 先生の言葉を聞いて、みんな驚いたり、信じられないというような反応をしたり。

 今では馴染みが少なくなってしまったから、そういう気持ちになるのはわかった。けど、逆にそれが興味をより示す要素になり、話しかけたそうな眼差しをルーザ達に向けている。


 交流をするなら、最初はこの学校みたいなこじんまりした場所が最適だったかもしれない。普通の学校だと異世界の捉え方も様々になるだろうから、ルーザ達をよく思わない妖精だっている可能性がある。だけどこの学校は人数が少ない分、変わったところから来た妖精も快く受け入れてくれる。私が馴染めた理由もそれにあるだろう。

 ホームルームが終わると、当然というべきかルーザ達は一斉にクラスメート達に囲まれた。


「すげーな、あの人気っぷり」


「わたし達も近づけないね〜」


「でもその方が良いよ。私達はいつも会ってたし、話すのなら後にしよう」


 新しい仲間が増えたことを、みんなも喜んでくれているんだろう。私が転校してきた時と同じ、自分達と打ち解けることでルーザ達が早く学校に馴染めるよう、クラスメート達の方から行動しに来てくれている。その間に私は他にやるべきことをしようと、イアとエメラとで次の授業の準備を進めていく。

 次の科目は魔法薬作りの実習授業だ。学校の周りにある森には薬草も多く生えていて、私達生徒はいつもその自生した薬草を使っているんだ。

 間に挟む休憩時間の後、私達は授業のために校舎の外に出る。今回は各自で集めた薬草を使って、自由に薬を作ることになった。


「学校の周囲に薬草が生えているなんてすごいですね」


「うん。採れたて新鮮が使えるんだよ」


 エメラはそう言ったものの、それが結構難しい。自生したものだから肥料をあげたり、間引いたりという管理はしていないものだから育ち具合や質がバラバラで、目的の薬草を使っても想像した出来にならなかったりと調整するのが大変。だからいかに質のいい薬草を見つけられるかが薬の出来の良さを左右されることになる。

 私達も早速あちこちを見て回って、自分が作る薬の材料を探していく。なるべく自分が思い描く出来になるよう、良い育ち具合のものを探しながら。


「ねえねえ、ルージュは何作るの?」


 薬草を選んでいる時、参考にするためかエメラがそう聞いてきた。

 エメラもエメラで作る薬を決めたようで、その手には数本の薬草が握られている。私も集めたことで、いくつか良さそうなものが溜まってきたところだ。


「うーん……、疲れが取れる薬かな」


「え、何のために?」


「あ、いや。この先必要かな、って思って」


「ふーん?」


 ……さっきのルーザがオスクにしていた仕打ちを見て、そういう薬を無性に作りたくなってしまったんだ。目的をぼかして説明したために、エメラは不思議そうに首を傾げていたけれど。

 学校にあるだけの材料じゃ、そこまで効果のいいものは作れないけど、ちょっとしたリラックス効果くらいの効能は付けられるかな。


「それで、エメラは何の薬を作ろうとしてるの?」


「ふっふーん。かけたら食べ物が甘くなる薬だよ! これでより美味しいお菓子作りたくて!」


「あ、そう……なんだ」


 ……薬とは言っているけど、使い道も効果もまんま砂糖だ。でも本人は作るのには楽しそうだし……水を差したくないから何も言わないことにした。

 その後もエメラと一緒に薬草を摘みつつ、他のみんなの様子も見てみることに。


「ねえねえ、フリードは何を作ってるの?」


「はい。えーと……環境に適応出来る薬です。暑い場所でも普通に過ごせるように作ろうかな、って。……自分用なんですけどね」


「あ……やっぱり雪妖精にはまだ暑いの?」


「そこまで辛くはないですよ。汗が少しにじむ程度ですから」


 フリードはそう言って恥ずかしそうに笑った。

 ミラーアイランドは常夏の島国だから、涼しいとは言っていたけれどやはりシャドーラルに比べるとかなり気温が高い。以前、シャドーラルに初めて訪れた時にエメラとイアが凍えかけていたように、急な気温の変化に身体はすぐ適応するのは無理な筈。フリードも言葉ではああ言っていたけど、実は少し無茶をしていたのかもしれない。


 みんなに喜んでもらうために招待しているのに、我慢しながらでは楽しめるのも楽しめない。後でフリードのために、冷却の効果が付いている魔法具を用意しておかないと。


「おーい、ルーザは何作るんだ?」


 イアも目的の薬草を摘み終わって、様子を見に行っていた。

 ルーザはイアに聞かれて、茂みの中でかがんでいた身体を起こす。その手には紫や青の怪しげな薬草がたっぷりと。……なんだか嫌な予感しかしない。


「あん? 毒草集めて毒作るところだが?」


「なに率直に物騒なもの作ってんだ⁉︎」


 ルーザの作っている薬の効果を聞いてイアは驚いて叫ぶ。みんなも唖然としているけど……ルーザと距離があるからか、私にはよく聞こえなかった。


「ねえ、ルーザの薬がどうかしたの?」


「え、えーっと……知らないことがある方がいいこともあるよ」


「……?」


「とにかく変えろ! その薬は駄目だ!」


「チッ」


 何だかよくわからないけど、ルーザはイアに止められて他の薬を作ることにしたようだ。

 結局、ルーザが作ろうとしていた薬のことはよく教えてはもらえなかったけれど……。


 やがて全員薬草を集め終わり、教室に戻った。次の手順はその薬草で調合をすることだ。

 学校にある調合用の壺で正しい手順で混ぜていく。私も出来るだけ良い薬が作れるよう、壺の中身と魔法書を交互に見ながら慎重に材料を混ぜていく。


 薬の出来は薬草の状態もあってみんな成功したり、満足には至らなかったものもあったけど、いつもより楽しんでやれていたようだ。

 私達もそれぞれの薬の出来を確認し、効果を少し試しながらみんなで笑いあった。





 ……しばらくして今日の授業も終わり、学校の周りをふらふらしていたオスクと一緒に帰って行った。今日はルーザ達四人は私の屋敷で泊まることになっている。いつもより賑やかになりそうで楽しみだ。


「いつもの授業より賑やかになったね、ルージュ」


「うん。人数が増えるのもいいね」


「僕らはいいことばっかりじゃないよ……。報告のためにレポートを書けって言われちゃって」


 そう言ってドラクはその提出するための紙を見せてくれた。

 ……ざっと見ただけでも10枚はある。終わってからも大変そうだ。


「おいおい、これって結構キツいな。一日で書けってか?」


「流石にそこまでは言われませんけど。でもこれも交流のためなら断る訳にもいきません」


「街の様子も書いてこいだとよ。多分、こいつを資料にしたいんだろ」


 レポートを全部書くのは大変だろうけど、3人共書かないとは言わなかった。

 私達も影の世界に行った時に書くことになるだろうけど、姉さんが望んでいるように、また二つの世界が交わるためにもそのことが距離を縮める手助けになる。私達も頑張らないと。


「妖精は大変だな〜。こんな縛られた生活しなきゃならないなんて」


「うっさい。お前はふわふわしていただけだろ。そんなだらけた生活するくらいなら縛られた方がマシだな」


「だらけたとは心外だな。これでも仕事してきたんだけど?」


 オスクはそう言いながら得意げにニヤッと笑って見せる。

 でまかせから言えることではないだろう。私達が授業を受けている間、オスクは私達とは別行動を取っていたらしい。確かに思い返してみれば、ホームルームの後からはあまり姿を見かけていなかった。

 でも、一体何をしてきたというのだろう?


「シルヴァートに話をつけてきた。あいつも明日に『こっち』に来るぞ」


「えっ。でも氷河山と霧の立て直しがあるんじゃ……」


「大精霊のことを話すなら、大精霊の数も多い方がいいっしょ? そう言ったら流石の堅物も文句はなかったぞ」


 オスクも『滅び』の対抗のために協力的だ。面倒くさそうにしているけど、大精霊としての仕事もしっかりやっているし、結構オスクは真面目だ。今朝、私が言ったことに対してちゃんと考えていてくれたみたいで、嬉しかった。

 みんなのお礼も兼ねて、今度国の色々な場所を案内してあげよう。


「ほら。単にサボっていた訳じゃないんだぞ、鬼畜妖精?」


「……わかったから、目の前で飛ぶのはやめろ。うっとおしい」


 そんな風にルーザとオスクはお互いを小突き合いながらさっさと屋敷へと歩いて行き、距離がすっかり空いてしまった。

 私達も二人のそんな様子に笑いながら後を追いかけた。

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