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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
番外編 灰まみれの王女と出来損ないの勇者
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Ex0.Dans les coulisses(6)

 

 ……私達が武器を向けても、ダークハウンドはいきなり飛びかかってくるでもなく、こちらをじっと観察して出方を伺っているようだった。警戒しながら威嚇いかくし、こちらの動き方次第で自分がどう行動するかを判断するためのその行動……魔物でも知能が高い種類であることが察せた。

 敵の行動がわかってない今、接近戦は危険だと判断してイアと2人で遠距離から魔法を放って攻撃する。一人で攻撃しても当てられなかったものの、隙を狙いつつ2人で連携することで命中させられた。

 この調子でいければ……と思ったけれど、敵はそう簡単にやられてくれるような相手ではなかった。数発被弾しながらも私達の動きを把握してきたようで、魔法を放つ瞬間を狙ってダークハウンドは私達に向かって飛び掛かりながらその鋭い爪を容赦なく突き立ててくる。


「うわっ⁉︎」


「くっ……!」


 魔物の知能は、予想以上だった。この短時間で私達の動き方の癖を見極めてきて、尚且なおかつ僅かな隙まで見つけ始めている。

 ただがむしゃらに攻撃するだけでは駄目だ。こちらも、敵の動きを読んでいかないと。


「どーすんだよ! このままじゃジリ貧だぞ、大丈夫なのかよ……⁉︎」


「……大丈夫だよ。私達はまだ破れたわけじゃない。膝をついているのならまだしも、立てている今ならこれからどうにでもできる」


「んなこと言われても……」


「焦ってばかりじゃ、かえって思考が鈍って勝てるものも勝てなくなっちゃう。冷静に、相手の動きをよく見るの。向こうがしてきたように、敵の動きをよく見て隙を見つけられれば勝機はある」


「そ、そんなことオレ上手くできる自信ねえよ」


「私が指示を出すから、その通りに動いて。それならどう?」


「う……わ、わかった」


 自分の動きが見切られていることにイアは狼狽うろたえていたけど、まだ終わってしまったわけではない。こちらも敵の攻撃を把握してしまえば、勝率は格段に上がる。そのためにイアには決定的な隙が見つけられるまで、とにかくダークハウンドの攻撃を避けることに専念してもらおうと判断した。

 無茶な頼みだと承知の上での申し出だった。断られてもおかしくなかったけれど、イアはうなずいてくれた。私が指示をするなら、そこまで言ってくれるならと、不安そうにしながらも拒否する素振りは一切見せずに。


 それからイアは私の指示に従ってダークハウンドの攻撃をとにかく避けて、敵の動きを見切ることに集中する。突然の提案ということに加えて、慣れない動き方をすることに最初は避けることだけで精一杯のようだった。

 それでも、イアは負けじと食らいつく。足がもつれて一瞬よろけてしまってもその場で踏ん張ることでこらえ、タイミングがずれて敵の攻撃を浴びてしまってもエメラが咄嗟とっさに治癒魔法をかけることによって素早く体勢を立て直す。

 実技でトップの成績を取れているだけはある。家がスポーツジムで幼い頃から鍛えるのが好きだったというのもあるのだろう、彼の身体能力は私を軽く上回っていた。それに……


「……大地属性が得意なの?」


「えっ? あ、うん。大地属性がっていうか、治癒魔法がね」


「攻撃系の魔法は使える?」


「使えないことはないけど、イアほど強くないよ。わたし、攻撃はからっきしだもん」


「ううん、それで充分。使えるなら問題ない」


「え、えっ? 何の話?」


 良かった。敵に決定的な一撃を与えられる手段は整っている。敵が動けないところをエメラの魔法を使って、その次は────


 問題は、その状況にどうやって持ち込んでいくか。徐々にイアも自身で判断して避けれるようになってきているけど、それで大きなダメージを与えられたとしても、消滅させられるまでにはいかない筈。それに、敵だってされるがままではいてくれないだろう。

 それからしばらく経たない内に決定的な隙を見つけたらしいイアが斧を振り上げ、ダークハウンドに手痛い一撃を浴びせる。それによって体勢を崩したダークハウンドを見てイアは追い打ちをかけるべく突撃していくものの、射程内に届く前にダークハウンドは地面に……自分の影の中に飛び込むようにして姿を消してしまった。


「うえっ、どこいきやがった⁉︎」


「も、もしかして逃げたんじゃないの? イアの攻撃にビビっちゃって!」


「……違う、避けてっ!」


「え? ……きゃあっ⁉︎」


 回避するよう指示を出すけど、間に合わない。唐突に自分の足元に落ちていた影から姿を現したダークハウンドの攻撃をまともに食らってしまったエメラは、受け身を取ることもままならずに尻もちをついた。

 以前に読んだ図鑑では闇に身を潜める能力があるとは記載されていたけど、それとは次元が違う。影と同化し、また離れた影にも自由に飛び移れる程の力。不可視というわけではないけれど、文字通り物陰に身を潜められるその能力は、私達を焦らせるには充分だった。

 ダークハウンドが飛び込んだ時や、エメラに攻撃を浴びせた時に影が揺らめいているのが確認できたけど、影が真っ直ぐに落ちているせいで影の大きさも小さく、敵の居場所が瞬時に把握するのが難しい。防御もまともにできないまま、不意打ちを受け続けることは体力、精神力共に大きく削られていく。


「何か、道は……」


 2人も、一方的に攻撃を浴びせられるこの状況にどんどん弱気になっている。なんとか敵を影から引きずり出せればいいのだけど……私の魔法で照らすだけでは、影を濃くするだけで大した効果が見込めない。

 それに、『リュミエーラ』は生成した光の球を弾けさせて目眩しに使う魔法だ。弾けさせること前提だから、光球のままを維持するのは断続的に魔力を注ぎ込んで留める必要がある。当然、魔力の消費も激しい上に、そう長くは持たない。だから、外から光球を抑え込む必要があるのだけど……

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