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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
番外編 灰まみれの王女と出来損ないの勇者
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Ex7.Unfinished Fairy tale(5)

 

 3人でお互いの背を守るようにして立ちながら、周囲に警戒を払う。いつ、どこから飛び出してきても対応できるように、すぐ攻撃を放てる姿勢を整えて。

 その間、オレ達は一切喋らないままだった。さっきの取り乱していた時とは打って変わって静かになったこの場所で、草や木の葉がさわさわと揺れる音だけがやけに大きく響いた。


 姿は見えない。足音も聞こえない。気配が感じ取れず、本当にこの近くに潜んでいることさえ怪しいというのに、恐怖だけは確かににじり寄ってくる。どこから攻撃されるかわからない、そんな恐怖が。高まってくる緊張から、頬に汗が伝うのを感じた。


「……っ、後ろ!」


「うわっと!」


 その沈黙は突如として破られる。魔物が再び影から飛び出してきたのを察知したルジェリアがどの方向から来たのかを知らせてくれて、オレは咄嗟とっさに斧を振るう。

 攻撃自体は相殺できて無傷で済んだが、魔物は再び影の中へと身を潜めてしまって反撃の機会を逃した。飛び込んだ直後は影が揺らいでいたのが見えたが、それもすぐに収まってしまい。またしても魔物を完全に見失った。


「くっそ。ルジェリア、アイツの姿見えたか?」


「ううん。どこにいるかわからないから、あちこち見回してるせいですぐに異変を感じ取れない……」


「うう、この戦いホントに勝てるの……?」


「弱気になるなよ! ぜってぇチャンスはあるはずだ!」


 とは言ったものの、どうしたらいいのか。影の中に身を潜めているのはわかっていても、どの影なのかが全くわからない。影の中をどれくらいのスピードで動いているのかを知らないのもあるんだが……

 そうあれこれ考えている内に、またしても突然飛び出してきた魔物にルジェリアが爪で引っ掻かれてしまった。


「いっ……!」


「ルジェリアっ!」


「だ、大丈夫。かすっただけだから」


「影がそもそも小さすぎるんだよ! それに、足元に落ちてるからそこから攻められたら防ぎようがないよ!」


 エメラがそう弱音を吐くのも無理はない。常夏のミラーアイランドでは昼過ぎの時間帯でも太陽が高い位置にある。今でも太陽はほぼ真上でオレ達を照らしているから、影も真下に、足元近くに落ちている。

 少しでも傾いていたら影も長く伸びていたんだろうが、それが全くない状態。アイツの居場所を探ろうにも、隠れ場所のサイズが小さすぎてすぐに見破るのが難しすぎるんだ。周りの木の影なら距離が多少離れているから、突然飛び出してきても避けるか相殺するかできるけど、足元から奇襲されたらそうもいかない。敵もそれがわかっているのか、オレ達の近くから姿を現す回数が多かった。


 せめて日が傾くまで待てれば……駄目だ、少なくとも一時間くらいは確実にかかる。それまで持ち堪えるのは無謀すぎるし、何より現実的じゃない。オレの魔法を低い位置で放つのも、火が揺らめくのと一緒に影も動いて紛らわしくさせるだけ。

 何か良い手はないのか……⁉︎


「日が傾く……夕日……うん、それならなんとかなるかもしれない」


「えっ。なんとかって、なんか良いアイデアでも思い付いたのか?」


「うん。無いなら、自分達の手で作り出すまでだよ」


「太陽を⁉︎」


 ルジェリアのそんな突拍子もない提案にオレは思わず叫んでしまい、エメラも目を見開いたままポカンとしている。

 だって、無茶苦茶にも程がある。太陽を作るって、そんな一体どうやってやるっていうんだ。オレ達は持っていないけど、天候を操る魔法だって精々雲を吹き飛ばして太陽を露わにするか、雨雲を呼び寄せて雨を降らせる程度で精一杯なのに。

 だけど、ルジェリアは至って真剣だった。またしても突然飛び出してきた魔物の攻撃を剣で防ぎながら、オレ達の方へと向き直る。


「私一人じゃできないから、2人の力が必要なの。協力してくれる?」


「いや、それは全然構わないけどよ。どうするつもりなんだ?」


「作り出すのは私とイアで、エメラには居場所を見破って、その上で魔物に攻撃して影から引きずり出すことを任せたい。私が合図を送るから、その通りに動いてほしいの」


「え。でも、わたし」


「相手はさっきから一方的に攻撃できているから、少なからず調子に乗っていると思う。こっちの攻撃が届かない場所にいるから、知能の高い魔物でも警戒心が薄れてる可能性は充分にある。威力が低くくても、一発だけでも当てられればかなり動揺させられるはず。苦手なのはわかってるけど、私達じゃできる余裕がないから……お願いしたい」


「わ、わかった。自信ないけど……頑張る! やってみる!」


 ルジェリアの頼みに、エメラは力強く頷く。

 表情はまだ不安そうに少し強張っていたものの、攻めるのオレ達に任せっぱなしだったことと、ルジェリアから頼られたこととあって、エメラなりに覚悟を決めたんだろう。いつでも大丈夫だと言葉にする代わりに、杖を握りしめて意気込んで見せる。


「それで、オレはどう動けばいいんだ?」


「私が魔法を放った後に、続けて魔法を撃ってほしいの。どう撃てばいいかは、その時指示するから」


「わ、わかった!」


 口ではそう言ったが、ルジェリアがどうやって太陽を作ろうとしているのかはさっぱりだ。でも、ルジェリアが本気なのは最初からわかっていることだ。作戦も考えついてないオレができることは、ルジェリアの思う通りに動いてやるだけなんだから。


「『リュミエーラ』!」


 話し合いを終えてすぐに、ルジェリアは魔法を発動する。

 模擬戦でオレも食らったことがある、光の球を弾けさせて閃光を浴びせる魔法だ。普通に攻撃する他に、目眩しにも使ってたのを覚えてるけど……今回は何故か破裂させずに、球のままの形を維持していた。それも、影が落ちる角度とはまるっきり逆の方向……魔物が潜んでいる場所とは正反対の空中に。


「光の球を炎で包んで!」


「お、おう!」


 オレが動く時は予想以上に早くやってきた。ルジェリアの狙いは全然掴めないままだが、迷っていても仕方ない。光の球が弾けない内に、オレはすぐさま詠唱を始める。


「『エルフレイム』!」


 そうして生まれた火炎を、ルジェリアの指示通り光の球に向かって飛ばす。光の球を炎で相殺してしまわないよう、威力も抑えながら。そのまま炎を操って光の球の表面を覆い、包み込んだ。

 すると……ルジェリアの光をオレの炎がその場に閉じ込めて、一つの大きなエネルギーの塊として存在していた。光と炎、2つの輝きは合わさって一つになり、辺りを明るく照らし、オレンジ色に染め上げる。それはまるで、夕焼けのように。


「太陽だ……!」


 それを目にした瞬間、オレは思わずそう漏らしていた。

 本当に、太陽を作っちまった。無茶だと、無謀だと思っていたのに、オレ達が持ってる力だけでそんな奇跡みたいなことを実現させちまった。

 本物に比べたら遥かに小さくて弱いものだけど、オレ達の周囲を照らすには充分すぎるものだった。低い位置で生み出された小さな太陽のおかげで、今まで真下に落ちていた影がギュンッと一気に伸びる。


「今っ、影が揺らいでいる場所を探して!」


「う、うん!」


 指示を飛ばされ、エメラは素早く影へと視線を落とす。ほんのちょっとの異変も見逃さないよう、鋭く睨みつけながら。そして、


「見つけた────‼︎」


 10秒も経たない内に、何か発見したエメラは杖を振り上げて地面を思いっきり殴りつける。土だけを叩いたはずの杖はぼすっと鈍い音を立てて……


『ギャンッ⁉︎』


 その中に潜んでいた、魔物を見事に表へ引きずり出した。


「や……やった、やった! 上手くいったよ!」


「しゃあっ! また影の中に逃げられちゃたまんねぇ、早くトドメ刺すぞ!」


 オレの言葉に2人も反対しなかった。まだ体勢を立て直せないでいる魔物に、オレ達はそれぞれの武器を振り上げる。


「『セインレイ』!」


 まずはルジェリアが、魔物を逃がさないようにその周囲に光弾を張り巡らせる。光弾の雨で逃げ道を塞がれた魔物は、身動きもロクにできないままその場に閉じ込められた。


「光弾をなぞって、大地の魔法を放って!」


「あっ、わかった! えっと、『リーフィジア』!」


 またしてもエメラに指示を出すルジェリア。エメラが攻撃に参加するのはあれっきりだと思っていたが、何かまだ考えがあるらしい。突然のことに最初は戸惑ったものの、エメラはすぐに切り替えて杖を高く掲げる。

 杖から放たれた光に呼応するように生まれた大量の草花を、エメラはルジェリアの指示通りルジェリアが放った光弾に重ねるようにして纏わり付かせた。やがて草花は光弾を完全に包み込んで、魔物の周りは緑色に染まる。


「最後、持てる力の限りの炎をぶつけて!」


「……そういうことか!」


 ここに来て、やっとルジェリアの狙いがわかった。エメラに直接攻撃するよう言わなかったのは、仕上げとなるオレの魔法の威力を底上げするための下準備。さっきエメラが大地属性の魔法が得意なことを確かめた理由も、今完全に理解した。

 草花に覆われた今の状態は、炎が燃え上がるのにはうってつけだ。この絶好のチャンス、絶対逃してやるもんか。


「『エクスプロージョン』‼︎」


『エルフレイム』より威力のある魔法を、草花の檻に向かって力一杯ぶつける。

 エメラの魔法が着火剤の役割を果たし、オレが飛ばした火球は着弾すると大きく燃え広がって大爆発を起こした。その中にいた魔物も当然吹き飛ばされ……弱々しいうめき声を上げると同時に消滅した。

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