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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
番外編 灰まみれの王女と出来損ないの勇者
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Ex7.Unfinished Fairy tale(4)

 

「相手の動きをよく見て。目線や足の動き方でどこに向かおうとしてるか、どこを狙っているかは大体わかる。でも、相手の武器である牙と爪に気を取られすぎないように。全体を見渡すことが疎かになって、不意打ちとかが対処しづらくなる」


「りょ、了解!」


 ルジェリアに言われた通り、オレは魔物がどう動くかを見極めることに集中する。牙と爪が危ないからってそればっか見ることに集中しちまってたけど、確かにそれじゃあ攻撃以外の行動のクセがわからないままで、翻弄されちまうだけだ。

 距離の詰め方とか、攻撃する直前、その直後まで、全体をしっかりと。反撃する前に、アイツの動きを見切って攻撃を全部避けられるようにするのが優先だ。


「半歩下がって、次は左。……今度はしゃがんで!」


「おう!」


 どう避ければいいかはルジェリアが全部指示を出してくれたから、オレは他のことに気を取られずに済んだ。左右にかわすのはもちろん、後ろに飛び退いたり、しゃがんだり、ジャンプしたりとあらゆる方法で魔物の攻撃を避けまくる。

 攻撃が当たりそうなギリギリのタイミングを狙って、魔物の爪と牙がオレの身体スレスレに通り過ぎるくらいの距離で。これはまさに、授業の模擬戦でルジェリアがオレ相手に実践していた避け方だった。

 魔物も、あとちょっとで当たりそうで当たらないこの避け方に戸惑い、だんだん焦ってきているのが見ててわかった。オレが実際にやられて散々振り回されただけはある。


「す、すごいよ、イア! 全部ちゃんと避けれてる!」


「つってもよ、これ結構キッツイぜ……⁉︎」


 今のところ無傷なことをエメラが興奮しながら褒めてくれるものの、喜んでいる余裕はなかった。

 避けるのに精一杯ってこともあるんだが、いくらルジェリアが指示を出してくれてるといっても当たらないギリギリを見極めるのはオレ自身で、そこを攻め続けるのはそれなりにヒヤッとする。慣れないことにいきなり手を出しているのも合わさって、じわじわと疲労が溜まっていくのを感じた。

 さっきから攻撃してないのもあったんだろう。魔物はさらに攻撃の手を強めてくる。なんとか動きを目で追って避け続けていたけど……


「いッ……⁉︎」


 ほんのちょっとタイミングがズレたところを突かれ、魔物の鋭い爪がオレの腕の掠めることとなってしまった。

 かすり傷程度だけど、鋭いものが擦れるのはやっぱり痛いものだ。受けた傷から、鈍い痛みが腕全体へじんわりと広がってきて思わず顔が歪む。


「い、イアッ! え、えっとえっと、『グラスヒール』!」


 それにすぐ気付いたエメラが杖を掲げながら詠唱する。途端に柔らかな光がオレを包み込んで……あっという間に腕の傷が塞がった。


「うんうん、バッチリ効いたね! よかった〜」


「おうよ! サンキュな、エメラ!」


 エメラのおかげですぐに持ち直せたオレは、素早く体勢を立て直して再び魔物に向かっていく。

 攻撃を食らってしまったことは確かだけどまだ一発だけだ、ここから反撃のチャンスを掴める可能性だって充分にある。そう自分を奮い立たせて、また魔物の動きを見切ることに集中する。


「……大地属性が得意なの?」


「えっ? あ、うん。大地属性がっていうか、治癒魔法がね」


「攻撃系の魔法は使える?」


「使えないことはないけど、イアほど強くないよ。わたし、攻撃はからっきしだもん」


「ううん、それで充分。使えるなら問題ない」


「え、えっ? 何の話?」


 その最中、エメラが魔法を使うところを見て、攻撃もできないことはないのを知ったルジェリアは一人納得したように頷く。質問の意図とその理由がわからないエメラは戸惑うばかり。

 オレもなんでルジェリアがそんなことを聞いたのか疑問に思ったが、あんまり余所見しているとまた魔物の攻撃を食らっちまうことになる。今はとにかく目の前に集中だ。

 動きを観察して、避けまくって。すぐに攻撃に転じることなく、機会をじっと伺う。オレに出せる最大限の一撃を、絶好のタイミングで繰り出すために。そして、


「……ここだあっ!」


 ようやく決定的な隙を見つけて、オレは斧を力一杯振り下ろす。

 オレが繰り出した斬撃は見事命中。攻撃するばっかりで防御のことを考えてなかった魔物は『ギャウッ⁉︎』と悲鳴を上げながら派手に吹っ飛ばされた。

 ダメージが大きいようで、魔物はすぐ立ち上がれそうにない様子だ。追い打ちをかけるにはまたとないチャンス。今の内に距離を詰めてもっと有利な流れを作ってやる!


 ところが次の瞬間、予想外の事態が発生。魔物は若干ふらつきながらも立ち上がったかと思うと、ヒュヒュッと自分の影の中に飛び込むようにして姿を消してしまったんだ。


「うえっ、どこいきやがった⁉︎」


「も、もしかして逃げたんじゃないの? イアの攻撃にビビっちゃって!」


「……違う、避けてっ!」


「え? ……きゃあっ⁉︎」


 深手を負ったことで恐れをなしたのかと油断していたら、ふとエメラの足元に落ちる影が怪しげに揺らめく。その直後、逃げたと思っていた魔物が影の中から飛び出してきて、エメラに引っ掻き攻撃を浴びせた。

 ルジェリアが回避するよう指示を出したが、間に合わない。突然のことに理解が追いつかず、エメラは受け身を取れずに尻もちをついた。


「いったぁ……何が起こったの?」


「地面から、飛び出してきやがった。影と自分をくっつけて隠れてるみたいな感じだった……」


 見た目はそれほど変わりはないんだが、単に穴を掘って地面に潜るのとはまた次元が違う。影とまるっきり同化してるような……文字通り影に身を潜めているように感じた。

 一発だけじゃ済まなかった。エメラに攻撃した後、またしても魔物は影の中へと身を隠して今度はルジェリアに牙を突き立ててきた。姿が見えない上にどこから来るかもわからないせいで、流石のルジェリアも気配を感じ取るのは難しかったようで攻撃をモロに浴びてしまった。


「くっそ、こんなの一方的じゃねえか! ルジェリア、光の魔法であぶり出すとかできねぇか⁉︎」


「駄目。光を放っても影が濃くなるだけで根本的な解決にはならない。それに、あれは目眩しに使う魔法だから無闇に撃ってもこっちの視界が遮られるだけだから……」


「影をそもそも落とさないような状況を作れればいいんだけど……天候を操る魔法なんて持ってないし」


 エメラの言う通り、太陽を雲で覆い隠して陽の光が射さない状態にすれば魔物の能力を無効化できるかもしれないけど、生憎オレ達2人は習得してなかった。ルジェリアも提案してこなかったということは、多分ルジェリアも使えないんだろう。

 魔法でこの状況を打破することは不可能。だとすると……


「正攻法で突破するしかない。周囲をよく見て、魔物が飛び出してくる場所を見極めるの」


「む、無理だよ! さっきの攻撃、2回とも全然わからなかったもん!」


「……いや、エメラに攻撃してきた時、足元の影がちょっとだけ揺れてたんだ。よく観察すれば無理ってことはないんじゃないか?」


「あ、あんなに素早いのに、できるわけないじゃん……!」


「オレでもなんとかアイツの動きに食らいつけたんだぜ? なんとかなるって。当たって砕けろだ!」


「砕けちゃダメでしょ!」


「とにかくやるだけやってみろってことだよ。どうにもならないような怪我したわけでもないんだしさ。散り散りにでもならにゃ大丈夫だって。どのみち、ここでブーブー言ってても敵は逃してくれねぇぜ?」


「う、うぅ〜……もう!」


 まだ何か言いたそうにしていたが、背を向けたらかえって危ないのはエメラもわかっているんだろう。観念したように杖をギュッと握りしめて身構えた。オレとルジェリアも、武器を構え直して足元の違和感を見逃さないよう、気を鎮めて目を凝らす。

 アイツの思う通りに踊ってなんかやるもんか、とばかりに。

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