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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
番外編 灰まみれの王女と出来損ないの勇者
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Ex7.Unfinished Fairy tale(3)

 

 オレ達は緊張しつつ、目の前の魔物の動きをじっと観察する。相手は未知の魔物、どう動くのか全くわからない。ここで真正面から突っ込んでいって力押しするのは危険過ぎる。だからこそ、まずは敵の出方をうかがう……それをルジェリアとの模擬戦で学ばせてもらった。

 目の前の魔物も、オレ達に攻撃を仕掛けるわけでもなく、その鋭い牙を見せつけるようにして『グルル……』と唸りながら威嚇いかくしてくる。向こうもまずは様子見ってとこか。


「無鉄砲に突っ込んでこないで、こっちの出方を伺ってる……。魔物の中でも、知能が高い種類なのかも」


「うげ、それ大丈夫なのか? 賢い魔物って大抵手強いヤツばっかだぜ?」


「習ったことのない魔物だから、どういう攻撃するのかも全然わからないもんね……。まずはどうしたらいいんだろ」


「向こうが来ないなら、こっちから仕掛けるべきだと思う。最初は避けられたとしても連続で攻撃して反撃の隙を与えなければ、こっちがダメージを受ける可能性も高いだろうから」


「攻撃は最大の防御ってか。それなら任せとけ!」


 ガンガン攻めるのはオレの得意分野だ。このままじっとしてばかりじゃ何も始まらないし、あの魔物をいつまで経っても撃退できない。

 とはいえ、いきなり突っ込んでいくのは危険だということはオレでもわかってる。距離を詰める前に、まずは遠距離でどんな反応をするか確認だ。


「食らえっ、『エルフレイム』!」


 斧を振るい、オレが一番得意な火炎魔法を放つ。炎は魔物に向かって真っ直ぐに飛んでいくが……魔物はピョンッと横に飛び跳ねて炎をかわしてしまった。それなりにデカい図体してるけど、そこは獣型の魔物。身軽で、素早い動きはお手のものって感じだ。

 でもこれは正面からの攻撃だったし、これはまだ想定内だ。オレは諦めずにすぐさま斧を構え直す。


「もっかい! 『エルフレイム』!」


 さっきと同じ魔法を、さっきと同じように魔物の正面から撃ち込む。数秒前の光景から何も学んでいないようなオレの行動に、魔物は余裕をかましていたけど……


「『セインレイ』!」


 何もオレだけが攻撃を引き受けているというわけじゃない。オレが放った炎をかわした直後を狙って、ルジェリアは光弾を連続で放つ。

 オレの動きに気を取られていた上に、飛び退いてすぐには次の行動に移せないところを突いた攻撃には流石に対応しきれない。ロクに防御もできないまま魔物は光弾の雨を浴びることとなり、『ギャンッ⁉︎』と悲鳴を上げた。


「しゃあっ! すばしっこいけど、やっぱ複数から攻められたら避けきるのは無理っぽいな」


「うんうん! このまま2人が連携して攻撃していけば勝てるんじゃないかな⁉︎」


「油断はできないよ。向こうがどんな感じで攻撃してくるかはまだわかってないんだから」


「だったらこのまま休まず攻撃していって、仕返しするチャンスもくれてやらなければいいだけだ」


 オレとルジェリアが別々の方向から、もしくは連続して攻撃すれば有効ってことがさっきので証明されているんだから、それを繰り返せば勝ち目も見えてくるかもしれない。そのためにはこのいい流れを止めてやるもんかとばかりに、ルジェリアと一緒に協力しながら攻め込んでいく。何発かは避けられたけど、めげずに何度も何度も魔物に向かっていって、確実に体力を削っていった。

 ……でも、何発も食らう内にこっちの動きを把握してきたのか、だんだんオレ達の攻撃をかわされる回数が増えてきた。そして、オレとルジェリアが同時に魔法を放とうとした瞬間を狙って、魔物はオレ達に向かって飛びかかってくる。


「うわっ⁉︎」


「くっ……!」


 いきなりのことに理解が追いつかず、オレはその場で硬直してしまった。けど、ルジェリアが咄嗟とっさに剣を振るったことで魔物の攻撃を相殺してくれて、なんとかダメージを受けずに済む。その時に剣の刃と魔物の牙がぶつかったことで生まれたガキンッ! という鋭い金属音が、魔物の攻撃の重みを物語っていた。

 一発は防いだが、それだけでは終わらなかった。オレ達は今ので体勢を崩してしまい、それを見た魔物が今がチャンスとばかりに牙や爪を突き立てようとしてくる。最初は何とか武器で防御できてたけど、足元から攻めてきたり、後ろのエメラを狙ってきたりして、だんだんそれも難しくなってくる。

 や、やっぱコイツかなり賢い。こっちの動きについてきているどころか、少しずつだけど見極めてきてやがる……!


「ね、ねえ、なんかマズい流れになってきてない⁉︎」


「予想はしてたけど……ううん、予想以上。この短時間でここまで動きを把握してきてるなんて」


「どーすんだよ! このままじゃジリ貧だぞ、大丈夫なのかよ……⁉︎」


 さっきから防戦一方で、勝てる見込みが全然立たない。こんな魔物、本当にオレ達のような学生が立ち向かってよかったのか……そんな考えが浮かぼうとしたその時、それを遮るようにしてルジェリアは「大丈夫だよ」と静かにこぼす。


「私達はまだ敗れたわけじゃない。膝をついているのならまだしも、立てている今ならこれからどうにでもできる」


「んなこと言われても……」


「焦ってばかりじゃ、かえって思考が鈍って勝てるものも勝てなくなっちゃう。冷静に、相手の動きをよく見るの。向こうがしてきたように、敵の動きをよく見て隙を見つけられれば勝機はある」


「そ、そんなことオレ上手くできる自信ねえよ」


「私が指示を出すから、その通りに動いて。それならどう?」


「う……わ、わかった」


 そこまで言ってくれるルジェリアに嫌とは言えなかった。土壇場で不慣れなことを実践しても失敗する不安の方が大きかったが、指示を出してくれるなら多少は動ける……かもしれない。

 いや、こんな無茶な戦いをするって決めた時点で、覚悟だなんだって話は今更だ。逃げるなんて男が廃る。一か八か、やってやら……!

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