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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第3章 夢幻の邂逅
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第19話 彼方への探求(3)

 

「まったくもう……今日は大事な話があるってあれだけ言っておいたのに」


「ごめんなさい……」


 城に着いて姉さんを解放した後、姉さんはいつもの正装に着替えて縮こまっている。

 結局、私に引きずられたまま城へと戻った姉さんは晒し者になったことでようやく反省して今に至る。エルトさんも姉さんの無断外出なために今回はフォローできず、苦笑いするばかり。


「ま、まあまあ姫様。陛下も羽を伸ばしたいと思われる時があるのでしょう」


「姉さんは伸ばしすぎです!」


「誠に申し訳ございませんでした……」


 私が声を張り上げると姉さんは背中を丸めてしゅんとして見せる。

 ……これだけ反省すれば充分か。姉さんの個室でエルトさんにお茶を入れてもらってから、ようやく本来の目的に入った。


「とにかく、本当に重要な話があって今日は来たの」


「ええ。あなたの力になれるならなんでもしますよ」


「……ありがとう、姉さん」


 いい加減なところがあるとはいえ、それでも家族だ。ずっと前から本音を言える相手は姉さんしかいないから、ああは言ってもやっぱり信頼していることに変わりない。姉さんが私にとことん甘いように、私も姉さんには甘いのかもしれないけれど。

 そうして、姉さんにも3人で協力しながら先生に相談した時と同じ内容説明をしていく。私達も知らないことが多すぎるために大分支離滅裂だろうけど、姉さんも最後まで落ち着いた様子で聞いてくれた。

 そして最後に、資料として私が昨日持ってきていた結晶の欠けらも手渡す。


「……成る程、そんなことが。この結晶が原因だという訳ですね」


「うん。だから過去の事例で似たものがあったか聞きたくて」


 王城であれば、他では持っていないような特別な情報があるかもしれない。そう思って姉さんに尋ねてみたけれど……私達の気持ちに反して、姉さんはうーんと首を捻った。


「聞き覚えはありませんね……。資料を探せばあるかもしれませんが、古文書はあまり読んだ試しもありませんし、調べるとなると少々時間を貰いたいですね。量も多いので関連するものを見つけるとなれば特に」


「そっか……」


「ルージュでも読んだこと無いんだよな。そこまで貴重なのか?」


「まあ、それなりにね」


「ええ、それもありますが。古いものなので扱いが難しいのです。ところどころ傷んでいるので」


「ああ……なんか取り扱い自体、難しいって前にぼやいていたね」


『滅び』についての資料があるかはまだわからないけれど、姉さんが調べてくれるなら心強い。古文書は姉さんに任せよう。

 後は何か聞くことあったかな。


「そうだ、ルージュ。大精霊のこと!」


「……! そうだった」


「あら、大精霊様に興味があるんですか?」


「興味……とはまた違うけど」


 実は昨日、ルーザの家に帰ってからオスクに言われたことがあった。


 ────昨日の結晶は自分一人でもなんとかなったけど、力が強くなれば破壊も難しくなる。それに対抗するには、他の大精霊に協力してもらうしかない……と。


「大精霊なら資料がありましたね。すぐに取ってきましょう」


 どうやら大精霊にまつわる資料には心当たりがあったらしい。姉さんは一旦席を外して、しばらくしない内に一冊の本を手にして戻ってきた。

 姉さんが持ってきた本はそこそこ厚く、これも古びているようで紙は茶色に薄汚れていて、姉さんがページをめくる度にぱりぱりと音がする程の代物。どれだけ古いのかは確認するまでもない。


「あ、ここですね。見てください」


 姉さんに言われるままに本を覗き込むと、大精霊の挿絵と説明がページいっぱいに書かれている。今見ているページには六人の大精霊の情報が載っていた。


「ええっと、火・水・大地・風・光・闇の大精霊ね」


「これだけでも結構いるね……」


「ええ。次の2ページ分にも記載がありますよ」


 その言葉通り、次のページには満月、新月、星の大精霊の記載があった。

 昨日のオスクの話だと、あの異変の元凶となるもの……『滅び』と呼ばれているらしいそれに対抗するには、この大精霊達にも会う必要があるようだけど……最終的には全員に会わなくてはいけないのだろうか?


「そうなると先が見えねえな……」


「う、うん。オスクとシルヴァートさんはたまたま近くにいたけど、他はそうもいかなさそうじゃない? わたし達だけでどうにかできるのかな……」


 どんな大精霊がいるのか情報を得られたのはよかったけど、イアとエメラと同じく不安もふくれ上がってしまったようだ。それにオスクもシルヴァートさんも地下の診断や山の頂上などわかりにくかったり、辿り着くのが難しかったり。大精霊という立場故か、どちらもそう簡単に会えるような場所ではなった。

 他の大精霊も同じだとしたら、そこへ行くだけでも骨が折れそうだ。オスクに相談してみたら、何か解決策を出してくれるかな?


「ん? オスクさんの挿絵、本人と全然違うぞ」


「ほんとだ、正確じゃないの? 困るなぁ……」


 2人が言うように、オスクの挿絵は服装も顔つきから、髪型まで本人とはかけ離れている。それと同様に、シルヴァートさんの挿絵もやはり全然違う。本人を写した訳じゃなさそうだ。


「あらあら。お会いするのが難しいことは、身をもって知ったことでしょう? 筆者の方もそれは同様でしょうし、こうして情報を提供してくださるだけ、有難いことです」


「へえ、姉さんが珍しくまともなこと言った」


「……普段はまともじゃないのですか? 私は」


「別にそこまでは言ってないけど。この本っていつ書かれたの?」


 私がそう尋ねると、すかさず姉さんはまた本をパラパラとめくっていく。やがて本の情報が書かれているらしい、後ろのページで手を止めた。


「ありました。ざっと500年前ですね」


「ご、500年⁉︎」


「想像つかねぇな……」


 そんな昔の本だったなんて、私もびっくりだ。私はまだ15歳だし、イアとエメラも16歳。桁が違いすぎる。図書館にもそれと同年代に記された資料はあったけど、この本はどう見てもそのさらに昔に記されたものに見える。


 それにしても……と私は本を改めて見てみる。絵は違うけれど、闇の大精霊の説明欄にはちゃんと『オスク』と名前が載っている。オスクも今はあんなだけど、500年前から大精霊として生きていたんだ……。

 ……ん? あんなっていうのは失礼だったか。昨日はちゃんと助けて貰ったし。


「でもよ、それだけ年が経っているんなら役目が変わっている大精霊もいるんじゃないのか?」


「そうね……。どの程度の頻度かはわからないけど、大精霊だって交代するだろうし」


「でしたら、もう少し新しい本も持ってきましょう。しばらく待っていてください」


 姉さんは再びたちあがり、またしばらくしてさっきとは別の本を持ってきてくれた。

 今度はさっきのものよりも紙は白に近くて、革で作られている表紙も傷が少ない。古さは感じさせるけど、さっきの本程ではない。


「これでも100年程前のものですが、変化はある筈ですよ」


 その言葉通り、さっきの本とは挿絵も全然違う。オスクとシルヴァートさんの姿もほぼ正確に描かれている。

 よかった、これならより正確な情報が掴めそうだ。さっきの本があまり頼りにならなかっただけに、ホッとして胸を撫で下ろす。


「あれ? 大精霊が2人、増えてるんだけど」


「え?」


 エメラが覗き込んでいるページは満月、新月、星の大精霊が載っているその次だった。そこには確かにさっきの本には載っていなかった2人の、髪の長い女性と思われる大精霊がページいっぱいに描かれている。

 その2人は手を取り合って背にある翼を広げている……という感じのポーズで描かれている。他の大精霊よりも神々しい感じだ。


「命と……死の大精霊?」


「なんか他とは違う気がするな。なんつーか、雰囲気が」


「姉さん、この大精霊って最近存在がわかったの?」


 私がそう尋ねたけど……姉さんは聞こえていないのか反応しない。

 その大精霊の絵を難しい表情で見つめている。書類仕事で考えこんでいる時だって、あんな顔しなかったのに。


「姉さん……?」


「え! あ、あら。ごめんなさい……」


「この2人の大精霊のこと、やけに気にしているみたいだけど……何かあるの?」


「い、いえ。あまりにも絵が美しいので魅入ってただけですよ」


「……そう」


 ……嘘だ。

 姉さんは嘘を言う時、必ず落ち着きがなくなって瞬きが早くなる。今は離れていても、昔からその癖を知っているんだから、私にはすぐにわかる。

 ……でも、その本当のことを聞いちゃいけない気がした。何故かはわからないけど……。


「確かに綺麗だよね〜、この絵! この大精霊にも会えるのかな⁉︎」


「オスクさんとかなら知ってんじゃねえか? 今度聞いてみようぜ!」


 でも、イアとエメラの2人はそんな姉さんの様子は特に気にしていないようだった。綺麗な挿絵をみて楽しそうに話している。

 なんだか引っかかることはあるものの、今調べられることにも限界がある。後のことは姉さんがしてくれるだろうし。


 姉さんとエルトさんにそろそろ帰ることを伝えて、一旦話を切り上げた。その話の後、2人も見送ってくれるようで城門まで一緒に来てくれることに。


「女王様、さようなら!」


「ええ、さようなら。また遊びに来てください」


「姉さんも程々にね。たまにならいいけど、頻度が多すぎるんだから」


「ぜ、善処します……」


「はは……。姫様、それに君達も気をつけて!」


「はーい!」


「じゃ、行こうぜ!」


 2人に手を振った後、夕暮れで鮮やかなオレンジに染まった通りを3人で並んで歩いていく。

 いつも通りの時間だ。滅びの不安はあるけど……、それでも今すぐって訳じゃないんだから、今は疲れを取るためにもこの時間を楽しまなければ。


 3人でさっきのことや、全然関係のないくだらない話をしながらそれぞれ帰途についた。

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