表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第1章 光の旋律
6/708

第2話 出会い(3)

 

「なっ……⁉︎」


 私は『そいつ』を見た途端、言葉を失う。


 ……『そいつ』は確かに私に似ていた。いや、似ているといっても薄い灰色で青い眼、垂れ下がった耳は少しとがっていて若干の差異はあるけれど、ほぼ瓜二つだ。

 姉妹でもないのにこんなに似ているのが信じられなかった。エメラも、イアも『そいつ』を見たまま固まる。『そいつ』もまた同様。私のことを凝視したまま、言葉を失って呆気に取られている。

 ……だけど、その沈黙はしばらくして破られた。自分の置かれている状況を飲み込んだのか、そいつは私のことを睨みつけて不機嫌そうに表情を歪めた。


「……テメェ、一体何者だ?」


「そ、そっちこそ!」


「似てるけど、口悪いね……」


 相手のあんまりな言いように、堪らずエメラがそう零す。

 確かに初対面なのにもかかわらず、第一声がテメェ呼ばわりだ。でも今はそんな場合じゃない。

 そいつも何故か似ている私をかなり警戒しているようで、距離がある今でもすぐ分かってしまうほどに強い殺気を放っている。下手に動けば、速攻で攻撃を加えると言わんばかりに。


「フン、誰だか知らねぇが鏡を見ているみたいで気持ち悪いな」


 ……そいつは言うが早いか、大きな鎌を出した。白くはあるけれど、まるで悪魔の翼を模ったような鈍く輝く巨大な刃を。

 どう見ても友好的な感じじゃない。戦う気満々だ。


「それはこっちのセリフだよ!」


 そんな相手の態度と言いようにムッとした私も負けじと剣を構える。

 傷つけるつもりはないけれど、こっちだって聞きたいことは山ほどある。ここで引き下がるわけにはいかない。


「ちょ、ちょっとルージュ!」


「そうだよ、いきなり戦うことねぇだろ!」

 

 刃傷沙汰はマズいと思ったのか、エメラは慌てて私達を止めようとする。だけど、私だってあの妖精を倒そうと思って武器を構えた訳じゃない。


「頭冷やしてもらうだけだよ。今のままじゃ話が通じそうにないし、少しは抵抗しないとこっちがやられちゃう」


「う……そっか」


 ここはエメラとイアにも手伝ってもらった方がいいかも。相手も女子とはいえ、あの大きな鎌だ。一対一で勝てる自信がない。


 2人にも武器を出すよう頼もうとしたけど……相手は待ってくれる程親切じゃなかった。先手必勝と思ったのか、そいつが一気に間合いを詰めてきた。


「……っ⁉︎」


 躊躇なく、そいつは鎌を振りかざしながら私のもとへ真っ直ぐ向かってくる。この一瞬で、相手はもう攻撃が当てられるほどまでに迫っていた。

 迷ってる暇はない。剣柄だけはしっかり握りしめ、それを当たらせまいと私も剣を振り上げた。


「そらっ!」


「はっ!」


 ────ガツンッ‼︎

 武器をぶつけ合わせ、大きな金属音が鳴る。


「ぐっ……!」


 歯を食いしばり、鎌で押されながらもなんとか耐える。

 武器が大きい分、力がすごい。踏ん張っていないとすぐに吹き飛ばされてしまいそうだ。この状態も長時間持ちそうにないし、一撃だけだというのに手がもう小刻みに震えてる。

 ……でも、手数で押し切れば!


「『セインレイ』!」


 相殺をなんとか振りはらって、相手に向かって光弾を放つ。

 急にこちらの体勢を変えたこともあり、そいつは目に見えて戸惑う。


「うわっ⁉︎」


 よし、体勢を崩せた。この調子で隙をついていけば勝機はある。そう思って剣を握り直そうとした……その時だった。


「……っ⁉︎」


 不意に、背後から複数の気配を感じた。相手も感じたようで標的を私からその気配へとずらす。そして私も相手も、その気配がした方向へと向けて各々の得物を振り上げ、


「「邪魔だっ‼︎」」


 ザシュッ! と鋭い音を響かせながら、私と『そいつ』は同時にいつの間にか互いの背後に近づいてきた魔物を斬りつける。私達の攻撃を浴びた魔物は耐えきれずにその場で消滅していく。

 そいつらは火の玉のような魔物だった。運が悪いことに群だったようで今消滅した二体とは別の魔物が数体わらわらと集まってきて、あっという間に周りを囲まれてしまった。


「わわっ、魔物が⁉︎」


「うげっ、いつの間にこんなに来てたんだよ⁉︎」


「……チッ、シャクだが一人じゃ無理だな。手を貸せ、やるぞ」


「わかった、一時休戦だね」


 魔物を倒すため、一旦『そいつ』と共闘することになった。魔物が集まってきてしまった以上、ここで争ったままなのは互いに傷を増やすだけで利益はない。

 ケンカっ早いけどどうやら物分かりは良いようで、私に向けていた刃をすぐに魔物へと切り替えてくれた。


「『エルフレイム』!」


「『リーフィジア』!」


 イアとエメラがそれぞれの魔法を浴びせ、魔物達は攻撃を受けて仰け反る。体勢を崩した今がチャンス、隙を逃すまいと私達も続く。


「『セインレイ』!」


「『ダークスラッシュ』!」


 魔物の群れは攻撃を浴びるとすぐに消滅していく。

 大して強くはないけど、数が多い。全てを倒すのは少々時間がかかりそうだ。

 ……でもここで片付けないと。ここで逃げて、余計な被害を増やしたくはない。そう思いながら、そのまま4人で協力して確実に仕留めていった。


 そして……時間がかかったものの、なんとか倒しきることが出来た。魔物が全滅したことを確認して、私とエメラ、イアはそれぞれ武器を収めた。


「ふう、急だったけどなんとかなったね」


「フン……お前、なかなかやるんだな」


「あなたもね」


「うんうん、凄い数だったけどもう倒せちゃってびっくり。協力してくれてありがと!」


「おう、助かったぜ!」


「あ、ああ」


 この妖精が誰かはわからなかったけど、今のアクシデントを通して実力があるのはいつの間にか認めていた。

 イアもエメラも、協力したことでその妖精への警戒を解いて、笑みを向けるようになっている。急に距離を詰める2人に、その妖精は戸惑いつつもお礼を言われるのは悪い気はしないようで、さっきまで緊張で強張っていた表情が緩んでいた。

 ……今ならもう大丈夫かな。さっきは仕方なかったとはいえ、剣を向ける気持ちも理由も私の中に残っていない。その気持ちを示すべく、私はその妖精に向き直った。

 

「名前言ってなかったよね。私、ルジェリア。2人からはルージュって呼ばれてるんだけど」


 名乗ることで、私にもう敵意がないことを示す。それが伝わったのか、その妖精もこれ以上争っても無駄と思ってくれたらしく、鎌を収めてくれた。


「……ルヴェルザだ」


「そっか。よろしく、ルヴェルザ」


「なんか長い名前だな。いっそのことルージュみたくルーザって呼んだらどうだ?」


「なっ、他人の名前を勝手に略すなよ!」


「いいじゃねえか、呼びやすくて」


「テメエふざけやがって!」


 イアが急にそんなことをいうものだから、ルヴェルザ……いや、ルーザの目はみるみるうちに怒りで吊り上がった。勢いのまま、イアの胸ぐらを掴みそうになったところを「まあまあ」となんとかなだめる。

 いきなり呼び名を付けられて戸惑うのは分かるけど、確かに「ルーザ」の方が呼びやすいと思ってしまったのは本人には内緒かな……。


 でも、ルヴェルザというのは学校では聞かない名前だ。服装だって青の法衣の上に、白い厚手のマントを羽織ったものというかなりの厚着。常夏のこの国でこんな格好をしている辺り、この国出身じゃないことは確かなんだけど……一体、どこから来たんだろう。


「ねえ、ルーザってこの辺りでは今まで見かけたことなかったけど、どこに住んでるの?」


「え。あ、いや……オレはここに住んでないし、家自体ここにはないが」


「え、じゃあ昨日とかどこで寝たの⁉︎」


「そりゃ野宿だ。……って、なんでいたの知ってんだよ?」


「まあ、そりゃオレがルーザのこと見かけてたわけだしな」


「見かけた、って……あっ、テメッ。どこかで見たことあると思ったら、昨日公園でオレのこと見て叫んできた奴か!」


「いや、オレだってびっくりしてよ。謝るから、その拳引っ込めてくれって!」


 どうやら昨日、イアがルーザのことを発見したのはいいけど、その時にかなり失礼なことをしでかしてしまっていたようだ。一度は収まった怒りが、またしても込み上げてきたらしいルーザがイアに殴りかかろうとするところを、2人の間に割って入ることでなんとか止める。

 それにしても、『ここ』には住んでいないってどういうことなんだろう? ここは島国。国外から来たとしても来るには船に乗る必要がある。野宿していることから、所持金も宿に泊まる分も、帰りの船に乗る分も無いようだし……一体どうして。


「家はあるんだよね。そこからどうやってこのミラーアイランドにまで来たの?」」


「……さあな」


「え?」


 ルーザは表情を曇らせ、深いため息をつく。

 さっきから明るい表情は見せてなかったけど、今の顔はさらに暗いものになっている。疲労と、戸惑いと、疑問と……それらがごちゃごちゃになって、自分でも訳が分からないというかのように。


「何か変なことはした覚えはない。いつの間にかここに居て……今まで当てもなく彷徨ってた。一つ、確信があるのは少なくともオレはここに住んではいない、ということだけだ」


 絞り出したようなその言い分は、とても嘘を言っているようには見えない。と、いうよりかは知れるものならこっちが知りたいといった感じだ。

 なんだかますます訳がわからなくなってきた。でもこのまま放っておけない。いくら常夏の国とはいっても夜には気温が下がって冷え込む。寒さを凌げる道具も衣服以外に大して持ち合わせていないようだし、そんな状況で野宿が続けば体調を崩しかねない。

 それに。私は見た目が似ていることもあって、ルーザに少し親近感も感じていた。自慢じゃないけど、この中で一番家が大きいのは私だし……よし。


「とにかく今日だけでもうちに来ない? 部屋はいくつか空いてるから、問題ないよ」


「いや、それは……無理だろ。知り合ったばかりの奴に、自分の家に上がらせるとか。それにオレからケンカ売っておいて、世話になるってのはちょっと、申し訳ない……というか」


 私がそう提案してもルーザは遠慮したそうに言う。確かに、会ったばかりで戸惑うのは分かるけど。


「行く場所もないんじゃ、元いた所に帰る方法だっていつまで経っても見つからないよ。方法を調べるためにも、無事に帰るためにも来たほうがいいと思うよ」


「ったく、わかったよ」


 そこまで言うとルーザはやっと納得して、とりあえず私の家に来ることになった。

 いきなり未知の場所に来たことと、野宿もあって疲れも溜まっている筈だ。早く休憩させてあげようと、私はイアとエメラと別れて、早速ルーザを屋敷まで案内することに。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ