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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
番外編 灰まみれの王女と出来損ないの勇者
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Ex2.まっかなめ(1)

 

 ルジェリアが転校してきた翌日の朝。オレはいつものようにエメラと登校して、自分の席で授業の準備を進めていた。

 登校してきた生徒が続々と教室に入ってきてそれぞれ自分の席に着いていってるんだが、オレの後ろにあるルジェリアの席はまだ空っぽだった。机の周りに荷物も見当たらないし、まだ登校してないらしい。


「ルジェリア……まだ来てないね」


「転校してきたばっかだしな。道とか、まだ慣れてねえんじゃねえの?」


「あ、そっか、それもあるよね。うう、昨日のこと、怒ってないといいなぁ……」


 エメラはまだ昨日質問でルジェリアの機嫌を損ねてしまったことを気にしてるようだ。オレが見た限りじゃ質問した時こそ殺気を向けられたがその後は落ち着いていたし、今も怒ってる可能性は低いと思うんだが……


「あっ」


 その時、ガチャリと音を立てて扉が開かれ、またしても教室に生徒が入ってくる。……噂をすればってやつか、たった今登校してきたのは話題のルジェリアだった。

 昨日と変わらず、黒のローブに黒いブーツ姿。そして、警戒心たっぷりの鋭い眼光。まだ友達もつくっていないルジェリアはクラスメート達に声をかけることもなく、つかつかと自分の席へと向かってくる。


「ん、おはよう」


 ならこっちだけでも歩み寄る姿勢を見せようと、ルジェリアが席に着いた瞬間を見計らって声をかけた。エメラもそんなオレを見て、同じく「おはよ!」と挨拶する。


「……」


 それを見たルジェリアは、昨日と同じく小さく頷いて見せるのみ。とりあえずエメラの質問を気にしてる様子はなかったが、それっきりだ。返ってくる反応は本当にギリギリなもので、それ以上のコミニュケーションを拒否するかのような姿勢を貫いてる。嫌われない程度に、だが近づかせまいと遠ざけるように。

 ……やっぱ異常だ。そりゃあ誰にだって言いたくない秘密の一つや二つあるだろうし、自分の隅から隅まで知られるのも気分があまり良くないのはわかるんだが、ルジェリアの場合は自分の表面までしか触れさせない。仲を深めようとする素振りすら見せないその態度は、自分っていう殻に閉じこもっているかのようだった。


 前にいた学校じゃ、そうでもしないとやってけなかったってことなのか……?


「席に着けー。授業を始めるぞー!」


「わわわっ、じゃあ後でね!」


「おう」


 始業を告げるベルが鳴り響くと同時に先生が教室に入ってきて、エメラは慌てて自分の席へと戻る。オレも先生に怒られるなんてことがないよう、椅子に座って授業を受ける体勢を整える。


 ……そういや、今日は護身術の授業があったな。

 言葉通り、魔法や武器の扱いを学ぶための授業。実技的な授業は魔法薬とか飛行術とか色々あるんだが、実技というと主に護身術のことを指す。

 1年では魔法の属性と武器の種類を覚えて、2年は自分が得意とする属性と武器を見つけて、先生の手本を見ながら動き方を教わる。3年からは先生を相手に立ち回りなんかを実戦形式で身に付けて、4年……つまりはオレ達、最高学年になってようやく生徒同士で模擬戦が行われるんだ。


 ルジェリアも昨日、得意科目が実技って言ってたっけ。あいつはどんな魔法と武器を使うんだろう。もしかしたら、模擬戦で当たる可能性もある。

 やっとルジェリアのまだ知らない一面を知れるチャンスかもしれない。そんな期待に胸を膨らませながら、オレは先生の話に集中した。


 ……そして授業がいくつか終わり、次がいよいよ護身術の授業の時間となった。


「よし。次は護身術だから、各自武器を持って外に出てくれ」


 先生にそう指示を出されて、全員それぞれ自分の得物を手にして外に出ていく。オレの後ろにいたルジェリアといえば、またしても一人でスタスタ出て行ってしまい、教室の中にもうその姿はなかった。


「イア、準備できた……って、あれ。ルジェリアは?」


「もう出てっちまったぜ。一人でサッサとな」


「えー! もう、イア近くにいるんだから止めてよ!」


「無茶言うなよ。素直に聞いてくれるかもわかんねえのに」


「ぶぅ。お喋りして憂鬱ゆううつな気分紛らわしたかったのにぃ」


 エメラがブーブー文句垂れる理由は、ルジェリアを誘えなかったことだけじゃない。護身術の授業はエメラの苦手科目だからだ。

 オレほど運動が好きでもなく、得意でもないっていうのもあるんだろうが、フレンドリーな性格が影響してるのかエメラの適正は大地属性、それも治癒魔法を得意としてる。だから攻め込むことに関しては滅法弱くて、筆記では良い成績を取れてるエメラだけど実技だけはずっと低いまま。たまに魔物と遭遇した時も、キャーキャー悲鳴を上げて騒ぐばっかりで撃退するのはもっぱらオレの役割だった。


 ルジェリアと一緒に校庭に行けなかったことを落ち込むエメラだったが、いきなり距離を縮めるのは難しいこともわかっているのだろう。すぐに気持ちを切り替えて、いつも通りオレと一緒に校庭へと向かった。


「今日も前回と同じく一対一での模擬戦を行う予定だったが、ルジェリアが来たからな。せっかくだし、ルジェリアの実力をこの機会に測っておこう。イア、いきなりで悪いがルジェリアの相手を頼めるか?」


「えっ、オレ?」


「この授業に限ってはお前が成績トップだからな。苦手な生徒よりかは、得意な生徒に任せた方が測定もしやすくなる」


「『この授業に限っては』って、わざわざ強調しなくてもいいじゃないっスかー」


「事実だからしょうがないだろう」


「ちぇっ」


 言い返せないことに軽く舌打ちしつつも、断る理由もないから素直に先生の指示に従い、クラスメートの集団から抜けて校庭の中央へと出る。ルジェリアも、話を聞いて察したのかオレに続いて歩いていく。その最中、ルジェリアにチラッと目をやると……あいつはさやに収めた剣を手にしていた。

 つーことは、ルジェリアは剣を使うのか。オレは片手斧だけど、リーチが短いからちっと分が悪そうだ。なら力押しで……とは思ったが、あいつの立ち回り次第じゃ難しいかもしれない。


「合図をしたら始めてくれ。ただし、今回はあくまでルジェリアの実力の測定だから決着をつける必要はない。お互いに、無理はしない程度に留めるよう努めてくれ」


「うっす」


「はい」


 オレとルジェリアは返事をしながら、互いに相手と向かい合うようにして立つ。そして、いつでも始められるよう2人同時に武器を構えた。

 鞘から引き抜かれたルジェリアの剣は、三日月の形をしたつばに紅い宝石と金の細かい装飾が添えられた、細身なものだった。レイピアにも見えたけど……いや、そこまで細くはないか。とにかくいかにも女が使いそうな、繊細な見た目をしていた。


「よっしゃ。どっからでもかかってこい!」


「……」


 オレが挑発するのと一緒に意気込んで見せると、ルジェリアも集中するかのように目を少し細める。

 どれほどの実力があるのか楽しみだ。わくわくとはやる気持ちから、斧を持つ手にグッと力がこもるのを感じた。

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