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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第15章 暁星秀麗シンデレラ─ Unembellished Princess─
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第201話 もうひとりぼっちじゃない(4)

 

「きゃあああ⁉︎ あ、あなた達、大人数で寄ってたかってアイリーンちゃんをいじめるなんて、卑劣極まりないですわよ‼︎」


「ハン、それテメエが言うのかよ。今まで散々、大勢を数の暴力で潰してきて、挙句自分は絶対安全なところで高笑いしてたクセしてよ。報復を受けてるのがまだお前自身じゃないだけマシだろうが」


「ここまで来てまだペット任せで、自分では何もしないままなんだから……本当に、反吐が出る。これほどまでに忌まわしく思った相手なんて、お前以外未だかつて会ったことがない……!」


「ええ、ここでキツいお仕置きをしてしっかり反省してもらわなきゃよね! 今度はあたしの番よ、『トゥインクルゲイザー』!」


 カーミラさんが天に向かって手を掲げるのを合図に、結界の中を彩る星が輝きを増した。その一つ一つが流星となってこぼれ落ち、氷漬けから解放されてもまだ体勢を戻せずにいた魔物に向かって一斉に襲い掛かる。


『グギャッ⁉︎』


「うん、バッチリ! 次は闇ってことは……レオン、あなたの番よ!」


「フン。僕に指図するな、失格吸血鬼」


 言われなくとも分かっていると言葉にする代わりに、マントをなびかせながら大きく飛び上がるレオン。結界の中の月をバックに佇むその姿は、まさに夜の支配者に相応しいもので。


「『カース・レヴニール』!」


 魔力が込められた剣を振るい、放たれる衝撃波。命をも容易くえぐりそうなそれをレオンは容赦なく連発し、魔物に向かって雨のように降り注いでいく。

 もう暴れる力も残っていないらしい。魔物は目に見えて動きが鈍っていて、立ち上がるのもやっとの状態にまで弱っていた。


「次は光か。ならば精々励むがいい、ルージュ」


「分かってる!」


 レオンの言葉に強く頷いて見せてから、私も前に飛び出した。

 ……ずっとずっと引きずっていた。振り払おうにもくさびのように深く突き刺さり、脳裏によぎって、下ばかり見続けていた。みんなに心配かけて、腕を引いてもらうばかりで、最後の一歩を踏み出せずにいた。

 でもこれでようやくそんな日々と、惨めな自分に別れを告げることができる。


「こっ、この貧乏貴族が! わたくしを散々コケにして、後で後悔しますわよ!」


「後悔ってどんな? 今の今まで自分の力で戦う素振りすら見せなかったお前に、一体何ができるっていうの?」


「そ、それは……あなたなんか、お父様にかかれば爵位を剥奪することなんて容易いんですのよっ!」


「……結局それも、自分では何もしてないじゃないの。親が作り上げた土台に乗っているだけなのに、自分まで偉くなった気でいて。親と脅した妖精を盾にして、自分の手は汚そうとしないで。今なら、お前自身では何もできない空っぽの存在だってことがはっきりと分かる」


「な、なんですってっ……」


 私の言葉に怒りで目を吊り上げるベルメールだけど、その声は動揺で震えていた。その反応は、私の指摘が紛れもない事実だということをはっきりと示していて。

 そう……こうしてみると、ベルメールなんて取るに足らない相手だった。いつだって他力本願で、ちょっとでも自分の身に危険が迫ればサッサと逃げ出すだけの、空虚としか言いようのない存在。直接手を出してきたのはいつもその周囲を囲ってた取り巻き達で、ベルメール自身に何かすごい力があったわけでもなかったのに。


「私はもうひとりぼっちじゃない。姉の後ろに隠れるばかりの日陰者なんかじゃない。私がどんな身分だろうと、声を張り上げなくとも集まってくれる仲間がこんなにもいる! だからもう二度と、お前なんかに屈したりしない!」


 現実は厳しいと、それは今までの経験を通して嫌というほど思い知って、きっとこれからも記憶が薄れていく度に目の前にそのことを突きつけられるのだろう。でも、どんなに打ちのめされ、挫けることがあっても、またきっと立ち上がることができる。独りじゃないから、支え合って前に進める筈。もう下は見ないって、そう決めたから。

 ……過去の情け無い自分と、反省の兆しを見せない腐った独裁者に鉄槌を下すために。私は剣を振り上げ、ありったけの魔力をたぎらせる。


「『ルクス・ディエティティス』!」


 そして放つは裁きの光。魔物の足元へと力を集約させ、その身体を一気に打ち上げる。重量のある巨体だっただけに成功させられるかは正直賭けだったけれど、ベルメールへの怒りがさらなる原動力となったのか、思いの外上手くいってくれた。

 魔物の様子からして、次でトドメを刺せることだろう。光属性の魔法を食らった今、魔物の弱点は闇。引導を渡せると確信を持って任せられるのは、やはりこの2人しかいない。


「ルーザ、オスク、最後お願い!」


「ああ。ヘマすんじゃねえぞ、オスク!」


「ハッ、誰にもの言ってんのさ。この僕がこんな美味しいところ逃す筈がないだろ、っての!」


 私の頼みを聞くや否や、待ってましたとばかりに魔物に向かって突撃していく2人。相変わらずお互いを小突き合いながら、間合いを充分に詰めてから地面を蹴って飛び上がり、魔力が込められたそれぞれの得物を振り上げる。


「『ワールド・エクリプス』!」


「『カタクリズム』!」


 オスクが空間すら呑み込まんばかりの闇で魔物を捉えてから、ルーザが災厄の如き衝撃波を放って地面へ叩きつける。

 闇に沈められて退路を断たれたところに、破壊力抜群の魔法による連続攻撃。まともに食らえばタダでは済まなさそうなその連携に、今まで耐えてきた魔物にもついに限界にまで追い込まれたらしい。ズドンと派手な音を立てて打ち落とされた魔物はピクリとも動かなくなり、


 ────パリン。


「あっ……」


 ……決着がついたと同時に結界が解かれ、世界に夜明けが訪れた。

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