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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第15章 暁星秀麗シンデレラ─ Unembellished Princess─
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第200話 暁星秀麗シンデレラ(2)

 

「『ディザスター』!」


 魔力を込めつつ鎌を力いっぱい振り下ろすと、その拍子に衝撃波が放たれる。それを見た男子生徒達は咄嗟とっさに武器で防御の体勢を取るものの、それだけでは受けきれずに身体ごと吹っ飛ばされた。


「ぐっ……なんだ、この魔法はっ……⁉︎ さっきまでこのような魔法を使う素振りなど一度もっ」


「それはそうでしょう、私自身の魔法じゃないもの。この鎌の持ち主の魔法」


 目に見えて動揺する男子生徒達に、私は冷静にそう返した。

 戸惑うのも無理はないか。ルーザの使う魔法は単体では応用が利かないものがほとんどなのだけど、その分威力に特化したものが多い。それに対して私の魔法は汎用性はあるけど威力は低めという、ルーザの魔法とは特性がまるっきり真逆だ。

 これまで私の魔法だけしか見せてなかった分、正反対の性質であるルーザの魔法を使うことで相手をさらに翻弄ほんろうできるようになるだろうし、両方を組み合わせて使うことで新しい戦略を生み出せる。


 ……ベルメール達が貴族のプライドを投げ捨ててまで勝つためならばどんな手段もいとわないというのなら、私だって自分が使えるものは全て使って迎え撃つまでだ。あいつらの思い通りになんて絶対になってやるものか。


「平民の1人や2人の力が加わったところで、なんだというのだ。武器や魔法を借り受けたところで、戦場に立っているのはお前一人。この戦力差に、底辺の貧乏貴族なぞ敵うまい!」


 そんなセリフと共に、3人はそれぞれ水と風、大地の魔法を同時に放ってきた。

 セリフの内容からしても、ベルメールと同じく私を貧乏貴族だから大した力は無いと見下しているのが丸わかりだ。取り巻き2人組に勝てたのはあくまで偶然、運がたまたまこちらに回ってきたと思い込んでいる。つまり、相手はそれだけ油断しているということ。

 その慢心、これから後悔させてやろう。


「『ダークネスライン』!」


 今度は鎌を振るうのではなく、地面に刃を突き立てる。そこから流れ込んだ魔力は地表から大きなトゲを成して盾となり、私に襲い掛かろうとする魔法を受け止めてくれた。だけど使い慣れない魔法で、それも三方向からの攻撃を全ては防ぎきれず、トゲでは抑えきれなかった分を受けることとなってしまった。

 でも直撃するよりはずっとマシだ。男子生徒達は私が被弾したのを好機と見たようで、手にした武器を振りかざしながら間合いを詰めてくる。


「そらっ!」


 そうして流れるように繰り出された斬撃を、私は鎌で受け止め、そのまま鎌を大きく振るうことで男子生徒を振り払う。そこは再び別の生徒が向かってくるけれど、私は同じようにしてさっきのように押されっぱなしの状態にならないように距離を一定に保つ。

 やっぱり、身の丈くらいある大きな武器だけあって、一撃ごとの威力もかなりのものだった。剣では対応しきれなかった男子生徒達の攻撃を正面から受け止めてもびくともせず、勢いに任せて押し返すのだって容易いくらい。


 それを見てただ力押しするのは駄目だと思ったのか、間隔を開けない連続攻撃へと行動を切り替える男子生徒達。大きな武器故に、大振りで素早い攻撃が出来ない弱点を突こうというのだろう。

 ……そっちがその気なら、こっちも戦法を変更するだけだ。


「やっ!」


「な、なんだとっ!」


 私は鎌では受け切れない攻撃を、素早く抜いた剣で相殺する。

 剣は一時的にさやに収めただけで、使えないことはない。振るうことは出来ないにしても片手で鎌を構えつつ、空いた手で剣を引き抜くことくらいは可能だ。

 いきなり2つの武器を同時に使ったことに男子生徒達は驚いたものの、それも一瞬。だからどうしたと言わんばかりに、意地悪くフンと鼻を鳴らす。


「この程度で意表を突いたつもりか? 見ていれば、その鎌の扱いも不慣れなことはすぐ分かるし、今も支えるのに手一杯のようじゃないか。そんなずさんな戦略で我らに勝とうとは、流石底辺の貧乏貴族は発想も貧相なものだな!」


「……」


 ……その男子生徒の言葉は正しい。私はルーザほど腕力はないから、片手では鎌を支えるのが限界。今の体勢を維持するのだって楽ではないから、攻撃を防ぐ度に鎌を支える手の震えが酷くなっていく。

 でも、策はここで終わりじゃない。今まで温存してきたこの作戦で、今から戦況を一気に塗り替えて見せる。


 私は距離を取るために剣を大きく振るい、鎌を一旦収めた。そして、


「『セインレイ』!」


「くっ、今度は銃か!」


 懐から銃を引っ張り出して光弾を撃ち出す。弾幕から身を守ろうと3人が防御の体勢を取る。

 ……かかった!


「『ランス・ルミナスレイ』!」


「……なっ⁉︎」


 そこへすかさず、光の手槍をお見舞いしてやる。『セインレイ』よりもずっと強力な攻撃が直撃したことにより3人は体勢を保ちきれず、勢いよく吹っ飛ばされた。


「よ、4種の武器を同時に……⁉︎」


「馬鹿め。鎌が不慣れなことなど、そいつは百も承知なことだ。それに対して何の対策も取っていないとでも思ったのか? 他人の得物まで交えて武器を取っ替え引っ替えする、など常識外れな策を練るような奴が」


「じゃあ、これがルージュの秘策?」


 レオンの言葉にすぐ食いついたカーミラさんに対して、ルーザは頷いて見せる。


「ああ。あいつが使う武器の中で、慣れているのなんて剣しかないからな。まあ、その剣も扱いはほぼ自己流のようだが……銃を使い始めたのなんてつい先日だし、槍はそもそも魔法で、普通自分の得物に転用しようとするとか考えないだろ。両方とも、使用するに至ったきっかけは剣が使えなくなった時の代案だったらしいからな。誰かに指南を受けてるわけでもないから、正しい扱い方だってロクに会得してない。ただ単純に定めた狙いを撃ち抜いて、敵に対して力任せに振り回しているだけだ、って本人も」


 そのルーザの説明に、オスクが「だけど、」と続ける。


「ルージュはその『不慣れ』をえて利用したのさ。そんな滅茶苦茶な扱いしたら、敵は大なり小なり動揺する。それがその道に精通している者であれば尚更、ってな。でも、動きは単調だから見切られやすいのが欠点だ。時間が経つにつれてそのリスクも高まる。そこで……」


「そ、そっか! だから武器を何度も交換することで、その欠点を補うんだ!」


「そういうこと」


 私の策の全貌に気が付いたエメラに、オスクは満足そうな笑みを浮かべる。

 そう、それこそが私の作戦。ルーザの鎌まで交えて様々な武器を扱う本当の理由。目まぐるしく武器を取り替えることで、私のようにそれらの武器の扱いに慣れていなくても敵を翻弄できる策として見出したのがその方法だった。

 一つの武器の扱いが見破られそうになったところを見計らって次の武器を取り出し、その次が駄目そうになったらまたその次を……と何度も状況をリセットしにかかるループへと持ち運んでいく。そのループも効き目が薄くなったのなら、2種類の武器を同時に組み合わせながら使うだけ。選択肢が多い分、いくらでもやりようがある。


 ルーザが力で勝るというなら、私は手数の多さが自慢だ。道筋は一つだけじゃない。欠点だって使い方によっては強みになる。どう活かすかは、使い手次第だもの。


「『ラデン』、『ディザスター』!」


 銃で火炎を放った後に、鎌で炎に向かって衝撃波を送り込む。元々高威力の衝撃波が炎をまといながら着弾したことで、より強力な攻撃と化して男子生徒達に襲いかかることとなる。

 男子生徒達も、コロコロと変化し続けるこの戦法に追いつけず、反撃すら満足に出来なくなっていた。


「く、くそっ! 前の試合の勝利はまぐれだった筈じゃ……⁉︎」


「この期に及んで、まだ認めないの? 私の戦略にまんまとはまって、今じゃ防戦一方だっていうのに」


「うるさい! お前のような底辺の前で我らが膝をつくことになる訳がないんだ!」


「……だったら、今ここで実演してあげる」


 自分達が置かれている状況から目を逸らして、潔く手を引くこともなく悪足掻きの繰り返し。その挙句に相手に対して失礼な態度を改めようともしない、親の立場にすがり付いているだけの低劣なプライドをへし折ってやる。他でもない、私自身の実力を証明することで。


「『エル・フィンブルヴェト』!」


 より強力な冷気で3人の周囲を完全に包囲する。たちまち、3人は氷で形成された即席の檻に閉じ込められた。フリードみたいに冷気を上手くは操れないから形はいびつだけど、『セインレイ』での弾幕よりこっちの方が確実に退路を塞ぐことができる。

 さあ、トドメだ。私は地面を蹴って上に飛び上がり、剣を思い切り振り上げる。


「『ミーティアライト』、『カタストロフィ』────!」


 巨大な光の球を3人に向かって叩きつけ、追い討ちをかけるようにして光の球が爆発する前に衝撃波でそれを切り裂く。その瞬間、光の球に閉じ込められていた魔力が一気に溢れ出し、衝撃波が着弾すると同時に大爆発を起こした。


「ぐあっ……」


 今まで粘っていた3人だったけど、高威力の魔法による連続攻撃には耐え切れなかったらしい。全員揃ってその場に力無くへたり込んだ。

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