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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第15章 暁星秀麗シンデレラ─ Unembellished Princess─
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第200話 暁星秀麗シンデレラ(1)

 

 男子生徒達が校庭中央へと出てくると、顔を合わせてすぐに審判から構えるように指示を出された。

 休む暇ももらえないようだ。取り巻き2人組との戦いではそう苦戦しなかったといっても、疲労は若干ではあるけど溜まっている。そんな私とは相反して、相手は万全の状態。人数の差もあるし、戦いが長引いた分だけこちらが不利になる。短時間で決着を付けるしかない。


「ルージュ、受け取れ!」


「わっ!」


 次の試合の準備をしようと動き始めたその時、場外に突き刺さってた私の剣をルーザが引き抜いて投げてよこしてくる。

 咄嗟(とっさ)に腕を伸ばし、飛んできた剣を受け止める。パシッと音を立てながら、私の手に戻ってきた大切なお守りでもある自分の得物。剣が手を離れることも予想していたとはいえ、自分の手の中にあるのとないのとではやはり安心感が違う。そんな私の心を反映したかのように、柄に結びつけてある包帯がふわりと優しげに揺れた。


「お前のお守りだろうが、そんな大事なものいつまでも手放してんじゃねえよ。それに銃よりも槍よりも、使い慣れたそれの方が勝率も上がるだろ?」


「ふふっ……うん、そうだね。ありがとう、ルーザ」


「礼には及ばねえよ。その代わり、あのクズの前で(ひざ)を折るなんて無様な姿、さらしてくれんなよ。次も必ず勝って、お前に絡み付いてる因縁の鎖を引きちぎってこい」


「もちろん!」


 ルーザの言葉に、私は強く頷いて見せる。そして受け取ったばかりの剣を手に今度こそ準備を整えた。


 次勝てば、ベルメールを始めとするプラエステンティア学園の生徒やその関係者である貴族達に大きな打撃を与えられる。この合同実技試験でプラエステンティアに勝利したという実績を得られれば、廃校にする案を押し通すことは不可能になる。そして、実力を証明することでベルメールもこれまでのように威張り散らすことも出来なくなる筈だ。

 私のような思いをする被害者を、もう出さないためにも。絶対に負けられない……!


「────それでは第二試合、開始!」


「『セインレイ』!」


 試合の開幕を告げられてすぐに、私は先制攻撃を繰り出す。さっきの試合の時と同様に、狙いを付けやすくするために弾幕の檻の中へ3人を閉じ込めるべく光弾を連発して放つ。


「ふん、そう何度も同じ戦法が通用すると思わないことだな!」


 だけど、この男子生徒達にも試合での私の戦法を見ていたからか、弾幕の檻にも全くひるまなかった。3人が各々の武器を振り上げ、自分達の周囲を囲う光弾をそれを駆使して弾いてしまった。

『セインレイ』は連発が容易い代わりに、一発ごとの威力が低いことを見破られている。放った無数の光弾は全て叩き落とされるようにして相殺された。


「くっ……!」


 私も、こうなることは予想の内だ。知能が低い魔物を相手にするのとは違う、さらした分の手の内だけ相手に知れ渡ることになるのも。

 悔しがって見せたのはえてのことだ。こういった演技だって戦略の一つ。案の定、男子生徒達はそんな私にニヤリと意地の悪そうな笑みを向けながら、今度はこっちの番だと言わんばかりに突撃してくる。


「……っ、『リュミエーラ』!」


「甘いんだよっ!」


 間合いを詰められる前に牽制けんせいしようと光の球を放つものの、それも想定内だったようでその内の1人が光の球が破裂する前に風の刃によって切り裂いてしまった。

 目眩しも駄目か……。この分じゃ、さっき見せた戦い方は全て対策されていると思っておいた方がいいかもしれない。そしてそれは、恐らく『これ』も同様だろう。


「『ランス・ルミナスレイ』!」


「その手槍もお見通しだ!」


 やはり、光の手槍で貫こうとしたら着弾する直前で地面をえぐりながら生み出された岩の壁によって阻まれる。

 手槍はただ光弾を放つのに比べて、より正確に標的を狙えることに加えて速度も増すから威力が上がる。けれど光弾を掴んで狙いを改めて定め、それを投げつけるなど動きも多くなるから、その分隙が大きくなる。だからこうして防がれると、体勢を立て直す前に一気に距離を縮められてしまうことに繋がってしまい。


「食らえっ!」


 この間に近くまで迫ってきていた2人から容赦なく斬りつけられる。

 咄嗟とっさに剣を駆使して防御するものの、男子相手に、しかも2人同時に攻撃されるのは抑え込むのにも限界があった。まだ深くには入っていないものの、執拗しつように繰り出される斬撃に私はジリジリと後退していく。さらにそこからもう1人加わって攻撃してくるものだから、全てをさばききれずに何度か刃を受けることになってしまった。


「ま、まずいよ! どんどん押されてしまってる!」


「流石のルージュさんでも、あれじゃあ対応しきれませんよ……! 本当に大丈夫なんでしょうか……」


「ふふん、やはり先程の勝利はまぐれだったようですわね。そのまま徹底的に叩き潰しておやりなさいな!」


 そんなされるがままの私を見て、みんなの不安も高まってきているようでそんな声が背後から聞こえてくる。さっきまでとは打って変わって、クラスメートのみんなを包み込む空気が緊張感を増していく一方で、プラエステンティアの生徒達はもう既に勝利を確信したように盛り上がっている。

 ……でも、それは不意に発されたオスクの「うるっさいな」という声によってストップがかけられた。


「後ろでザワザワ騒ぐなっての。なーんで実際にドンパチしてるルージュよか、待機してるお前らが先に諦めてんのさ。状況の好転を祈るぐらいなら最初から勝利を信じなよ。いっつも型にはまらない戦略で意表を突いてくるあの策士が、このままやられっぱなしなままでいるとでも? 攻撃もまだ剣とさっき見せた魔法使ってるだけなんだし」


「じゃ、じゃあまだ何かルージュには秘策があるってこと?」


「さてね。それはこれからのお楽しみっしょ」


 疑問をこぼすカーミラさんに対してオスクはそれだけ言うと、もう話すことはないとばかりに待機してるみんなとの会話を切り上げる。みんなの不安そうな雰囲気はそのままだったけど、オスクの話ももっともだと思ったのかそれ以上後ろ向きな言葉を発することはなくなり、その代わりに私を応援してくれる声が強まった。


「ルージュ、頑張れー‼︎」


「大丈夫だ、オレ達も付いてるから!」


「……っ!」


 ふとイアがかけてくれたその言葉にハッとする。

 そうだ、戦ってるのは私1人だけじゃない。廃校を阻止したいという気持ちはみんな同じ。そのために今まで署名活動に励んでいたのだから。

 ……力負けしそうになっているこの状況、剣だけではこの男子生徒達に太刀打ち出来ない。なら、『あの策』をそろそろ使うべきか。こんな時に、出し惜しみしてる場合じゃないもの……!


 それにはまず、この押されっぱなしの状況から脱さなければ。こんな至近距離じゃ私まで巻き添えになることは必至だけど、覚悟の上だ。


「『ミーティアライト』!」


「なっ⁉︎」


 3人が同時に攻撃してくる瞬間を狙い、巨大な光の球を正面に叩きつける。爆発を起こすその魔法によって3人は当然ながら吹き飛ばされ、自分の足元に着弾させたことによって私もそのあおりを食らうこととなった。

 でも、おかげで3人との距離を取ることが出来た。今の内に……!


「『セインレイ』!」


「くっ、今のは予想外だったが……何度やろうと同じことだ!」


 奇襲を受けてうずくまっている3人の隙を突いて、再び光弾の雨を浴びせる。それを見て、さっきと同様に光弾を防ぐべく岩の壁で自分達の周囲をおおった。

 やっぱりこうきたか。それなら!


「ルーザ!」


「ああ。ほらよっ!」


「な、何っ⁉︎」


 私は振り向いて後方で待機しているルーザに合図を送り、それに頷いて見せると同時にルーザは自分の鎌を私に向かって放り投げる。

 くるくると回転して飛んでいった後に、グサリと地面に突き刺さるルーザの鎌。私は剣をさやに収めてから、それを素早く引き抜いて岩の壁に向かって走っていき、


「はあっ!」


 岩の壁に向かって受け取ったばかりの鎌を力いっぱいに振るった。

 大きく切り裂かれた壁はその形を維持できなくなり、ガラガラと崩れていく。光弾にはびくともしなかったその魔法も、私の身の丈くらいはあるこの大きな刃には敵わなかったらしい。

 流石はルーザの鎌、切れ味抜群だ。


「た、待機してるメンバーから武器を借り受ける、だと……⁉︎」


「それを禁止するルールも無いもの。別に構わないでしょ?」


 まだ体勢を崩している3人に、私は鎌を突きつけた。ギラリと鈍く光る、命すらいとも容易く刈り取ってしまうんじゃないかと思わせる巨大な刃を向けられるのはさぞ威圧感があることだろう。

 ルーザみたいに、片手で振るえるわけではないけれど。過去に私も使ったことはあったし、何よりルーザがこれを扱う様をずっと隣で見続けていた。経験こそ少ない私でも、どう使えばいいのかは充分すぎるくらいハッキリとイメージできる。


「さっきの勝利がまぐれじゃないこと、思い知らせてあげる!」


 そうして、私はルーザがいつもそうしているように鎌を大きく振りかぶった……!

とうとう200話到達です(*^^*)

完結の目処は未だに立っておりませんが、これからもよろしくお願いします!

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