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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第15章 暁星秀麗シンデレラ─ Unembellished Princess─
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第199話 12時の鐘の音が鳴り響くまでに(3)

 

「『セインレイ』!」


 詠唱をすると共に引き金を引いた瞬間、銃から光弾が打ち出される。いつもしているようにそれを連発することで弾幕を張り、退路を狭めることで確実に命中させていく。


「や、やってくれたわね! お返しよ!」


 痛みに顔をしかめながらも、取り巻き2人組もやられっぱなしのままではいられないらしく、シアは炎を、ゼラは花吹雪を放ってくる。それも同じ方向から放ってくるのではなく、2人が私を間に入れるようにして向かい合い、私を挟み撃ちにする形で魔法を当てにくる。

 確かに、これならばただ正面から攻撃してくるよりは避けにくい。前からはともかく、それを防ぐだけでは背後からの攻撃が防げない。……でも、それだってもちろん織り込み済みだ。そのための二丁拳銃なんだから。


「『フィンブルヴェト』、『ラデン』!」


 2つの魔法と同時に詠唱し、片方で冷気をシアの炎に向かって、もう片方で火炎をゼラの花吹雪に向かって撃ち込み、2人の魔法を相殺する。

 自分達の魔法を両方打ち消されたという事態を飲み込みきれず、唖然とする取り巻き2人組。私はそんな2人に対して見せつけるように銃口に残っていた火をふっ、と吹き消して、


「……この程度?」


「────ッ‼︎」


 そう挑発すると、2人の顔は怒りでみるみるうちに真っ赤に染まる。私に押されつつあることが分かったようで、あれだけ私を嘲笑っていたベルメール達プラエステンティアの生徒も、今ではすっかりその顔から笑みが消えて頬が引きつっている。

 それとは対照的に、イア達を始めとするクラスメートのみんなは私が優勢であることに盛り上がっていた。そしてそれは、後方で待機しているルーザ達も同様で。


「あーあ、あんなにあおっちゃってさ。これからさらに遠慮も手加減も無くなるんじゃないの? これからどうする気なんだか」


「それ、お前が言えたクチかよ? 常日頃から他人を挑発するわ、笑い飛ばすわ散々してる癖して」


「ハハッ、それもそうだ!」


 ルーザの指摘に、オスクは愉快そうにケラケラと笑い声を上げる。ルーザはそんなオスクにやれやれとばかりに肩をすくめつつため息をついてから、まだ立ち尽くしている2人にニヤッと不敵な笑みを浮かべて見せる。


「そっちが今手の内をどれくらい晒してるのか知ったことじゃないが、ルージュは本気の一割程度しか出してないぞ。今でさえ、翻弄ほんろうされるばかりで動揺を隠し切れてないとか、すぐに黙らせるって大口叩いた割に大したことないな」


「な、なんですって?」


「言わなきゃ分かんない? 1対1の個人戦のところに2人がかりで挑みに来てる時点で、お前らが雑魚だって自分から宣言してるようなものじゃん。貧乏貴族とか好き勝手言ってた相手一人に、束にならなきゃまともにやり合えないほど怖いんだ?」


「こっ……この、言わせておけば! 待ってなさい、この無礼者を打ち倒した後、あなた達もすぐに叩きのめして差し上げますわ!」


「やれるものならやってみろよ。その前にお前らが地に伏せなければの話だがな。言っておくが、そいつの本当に恐ろしいところは単純な力じゃない。それを精々その足りない頭に刻んでおけ」


 なんて、ルーザとオスクが一緒になって2人をさらに挑発するものだから、2人の顔がさらに険しさを増していく。内に収まりきらない怒りが、身体をプルプルと小刻みに震わせてもう爆発寸前だ。

 もう、いくら私の因縁の相手の取り巻きとはいえ、ルーザもオスクも相手を少し刺激しすぎなんじゃないかな……。その飛び火をもろに受けるのは私だっていうのに。


 それでも怒らせるのも大事な戦略の一つだから、ルーザとオスクの言葉は全くの無意味というわけじゃない。今のシアとゼラは私を叩きのめすことだけに頭がいっぱいで、複雑な戦略を考えることが難しくなっている。それだけ動きも単調になるから、攻撃だって避けやすくなる筈だ。


「もう容赦しませんわ! 無礼者が、わたくし達が直々に罰を下して差し上げましてよ!」


 激昂(げきこう)したゼラが地表からツタを出現させて私を捕らえようと迫り、そこへ畳み掛けるようにしてシアがさっきまでとは比較にならない煉獄の如き強力な火炎を放つ。

 あのツタに捕まったら確実に炎が直撃して、一撃だけでも威力は馬鹿にならないだろう。剣があればツタを引き裂けるけど……生憎あいにくその剣が突き刺さっているのは場外。取りに行くことは不可能だ。なら、


「『ミーティアライト』!」


 高威力の魔法で2つとも吹き飛ばすまで……!

 魔力を込めた二丁の銃を同時に撃つことで巨大な光の球を発射する。光の球はツタと業火に直撃すると爆発を起こし、それによって2人の魔法を掻き消した。


「隙ありよッ!」


「……っ!」


 その爆発を掻い潜って、シアが槍での突きを繰り出そうと突撃してくる。防がれることをわかっていたからこそ取れる行動……始めからこれが狙いか。

 今、私が手にしている武器が銃という遠距離向けであることから、懐に入ってしまえばいけると思ったのだろう。……でも残念。私は左手の銃を収めると、


「『ランス・ルミナスレイ』!」


「なっ⁉︎」


 素早く光の手槍を生み出して、シアの攻撃を受け止める。いきなりのことに固まるシアを私は勢いに任せて槍で振り払い、そのまま背後から迫っていたゼラにも振り向き様に右手にある銃で光弾を浴びせ、2人を同時に突き放した。


「死角に潜り込めさえすれば勝てるとでも? そんなの、始めから警戒してるに決まってるでしょう」


「て、底辺の貧乏貴族の分際でっ……たった一撃防いだ程度で勝ったつもりになるなんて、思い上がりが過ぎるにも程がありましてよ! わたくし達があなた如きに負けるなんてあり得ないわ!」


「それこそ思い上がりじゃないの。いつだって上流階級を打ち倒してきたのは下々の者達。上に立つ優越感に浸るばかりじゃ、いつか寝首を掻かれても文句は言えない」


 それを今から身をもって思い知らせてやる。私は光の手槍を持つ手を大きく振りかぶり、狙いを定めた。


「当たれっ!」


 立ち尽くしているシアに向かって手槍は真っ直ぐに飛んでいき、それは綺麗に命中。倒れ込むシアに気を取られているゼラにも、すかさず『リュミエーラ』で攻撃すると同時に目を眩ませる。2人が反射的に目をつぶっている隙に私は一気に間合いを詰めて、


「くっ……⁉︎」


 シアの首筋に新たに作り出した手槍の穂先を、ゼラの眉間に銃口をそれぞれ突き付ける。少しでも動けば次の一手を繰り出すことを知らしめるべく、キッと鋭い睨みを利かせながら。

 それが本気だと思い知ったらしい。2人とも、その姿勢のままピクリとも動かなかった。


「そっ……そこまで! この勝負、ルジェリアの勝利です!」


 それを見た審判が、すかさず判定を下す。勝った……私が手槍を消失させて銃を下ろしたことを合図にこの場にいる全員がそれを理解し、背後からわっと歓声が沸き起こった。


「しゃあっ! これで2点ゲット、一気に逆転だぜ!」


「はい。完全勝利の希望も見えてきましたね!」


 みんな、これで逆転できたことに盛り上がっている。それもそうだろう。貴族相手に、それも負け無しだと思うくらいの名門学校の生徒を2人同時に撃破したのだから。

 喜んでいる私達とは相反して、プラエステンティアの生徒を包み込む空気はますます重くなっていっている。特にベルメールは私に負けた2人に対して、これ以上ないというくらいに激怒していた。


「なんてことですの⁉︎ あんな貧乏貴族如きに遅れを取るなんて、恥晒はじさらしにも程がありますわ!」


「も、申し訳ありません、ベルメール様……!」


「油断していたわたくし達の責任です……。しかしあの無礼者、相当な手練れでして」


「言い訳なんて結構! しばらく視界に入らないでちょうだい! まあいいですわ……まだこちらが完全に敗北したわけではありませんもの。今度こそ完膚かんぷなきまでに叩きのめして差し上げなさい!」


 取り巻き2人組を怒鳴りつけた後、すぐそばにいる男子生徒3人に向かってそう指示を飛ばす。……さっき、作戦会議をしていた時にもベルメールの近くにいた生徒達だ。恐らくあの男子生徒が次の対戦相手だろう。

 初戦から2人がかりで挑んできたベルメールのことだ。次の戦いではきっと……


「今度は3人がかりで来るつもりでしょ? 私は構わないから、全力で来てよ。それでも、負けるつもりはないけど」


 突き出した銃をクイと手前に寄せて見せると、ベルメールはさらに目を鋭く釣り上げる。


 さっきよりもさらに厳しい状況になるのは承知だ。それでもここで退く気は一切無いし、策も全て出し切ってもいない。次も必ず勝って、追い詰められて尚もまだ他人任せで口だけは達者な独裁者をステージの上から引きずり下ろしてやるんだ。廃校を食い止めるためにも……因縁を完全に断ち切るためにも。

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