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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第2章 影の輪唱
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第18話 幻想の氷河山・後(4)

 

 ……。

 …………。

 ……やった、のか?

 いきなりの決着にまだ理解が追いついておらず、オレは呆然と正面を見つめていた。そこにはあの怪物も、結晶も、今はどこにも無いせいで証明するものもないために。


「やったー‼︎ わたし達、勝ったんだー‼︎」


 ……だが、その不安はエメラの言葉によって消しとばされる。その叫びを合図に、仲間に笑みが広がった。


「……っ、はは」


 オレもようやく実感すると、自然と笑いがこぼれた。それと同時に、今更登山と戦闘の疲れがどっときてその場にへたり込む。

 魔物と考えてはいたものの、未知の敵との戦いは予想以上に体力を使っていたようだ。くたくたで足腰には力が入らず、しばらくは満足に動けそうになかった。


「ルーザ、大丈夫?」


 一番近くにいたルージュがすぐにオレの元に駆け寄り、その紅い瞳で心配そうにオレの顔を覗き込んでくる。


「なんとか、な。お前こそ平気なのかよ?」


「うん、大丈夫。昔から傷の治りは早いから」


「そう、か。まあ無理すんなよ」


 オレはルージュの手を借りながら立ち上がり、辺りを見回してみる。

 他の四人も心身共にボロボロで、満身創痍なのが見てすぐに分かった。大精霊でさえ手こずった敵を相手にしたのだから当然の結果だろうが……それでも全員、その表情に暗いものは一切無かった。


 しばらくした後で、オレらは元の広間へと戻って元凶である結晶がどうなったのかを見に行った。

 ……オスクが破壊したであろう、結晶は広間の奥でその形を失って粉々に散っていた。砕けて力を失った結晶は、ドス黒かったさっきまでのが嘘のように透明で澄み切っている。同じ石とは信じがたいくらいだ。


「元はあんなに綺麗だったなんて……」


「ああ。結局、あの結晶がなんなのか分からず仕舞いだしな」


 どうして氷河山に入ってきたのか。どうして霧を深めていたのか。どうしてこの国を脅かそうとしていたのか。……何一つ分からない。

 オスクとシルヴァートにも聞いてみたが、やはり話は聞かされていただけであまり知らないとのことだった。


「さてと、やることはやったんだ。今はこれでいいっしょ」


「そうだな。……お前達には感謝する。お前達の助太刀があったからこそ、この場を凌ぐことが出来た」


「い、いえ、僕らなんて少しのことしかしてません。結局トドメを刺したのはシルヴァートさんですし……」


「なーに言ってんだよ! みんなで掴み取った大勝利じゃねえか!」


「そうそう! 胸を張ったっていいんじゃない?」


「そう……かもね。うん、これはみんなで頑張ったからこその結果だよね」


 なんて、全員勝利の喜びでテンションが急上昇している。敵から解放されたせいか、余計騒がしくなっているし……疲れているのは確かだろうが、この様子じゃこいつらは全く気にしてないのだろう。

 と、呑気にそう思っていたが……


 ────パキン。

 不意に何がが割れる音が懐から聞こえてきた。その瞬間、


「げっ⁉︎ なんか急に寒くなったんだけど!」


「時間経ってたし……もしかして」


 急にオレらに尋常じゃない冷気が襲いかかる。隣で寒さに悶えているイアを見て、ルージュは咄嗟に懐を弄り、あるものを取り出した。

 ……効果が切れて真っ二つに割れている魔法具だった。魔法具の力が底をついたことによって寒さが直に襲いかかってきたのだろう。ちなみにオレもじっとしてると凍りつきそうな寒さを感じている。ちんたらしていたら、凍えるどころじゃ済まない。


「軟弱なこったな。このくらいの寒さで動揺するなんて」


「……お前も左腕が既に凍っているぞ、オスク」


「……ッ⁉︎ は、早く言えよ!」


「まったく……」


 シルヴァートは呆れながら指をパチンと鳴らす。するとオレらの視界が光に包まれて……次の瞬間には氷河山のふもとの景色が写っていた。

 どうやらシルヴァートが全員テレポートさせてくれたようだ。登ったのは苦労したのに、一瞬だった。氷河山のようなゴツゴツとした複雑な地形じゃ転移術なんてかなり高度な筈なのだが、そこは流石大精霊といったところか。一瞬でこの決して少なくないであろう人数を移動させてしまった。


「よし、オスクさんの凍った腕、溶かせたぜ」


「ありがと。さて、後はこいつをどうするかだけど」


 イアに凍った腕を溶かしてもらいながら、オスクはその逆の右腕に抱えていた砕けた結晶の残骸を見据える。残骸とはいったものの、元が大きいから破片でもそこそこの大きさがある。


「私の元でも詳しく調べてみるとしよう。それだけであれば一欠片で充分だ」


「あっそ。なら他は……お前のとこに入れといてよ」


「えっ、私の?」


「そのカバン、色々入るんじゃないの?」


「そうだけど……大丈夫かな?」


 ルージュは急に指名され、当然のことながら戸惑う。それでも他に入れ場所も無い、ルージュは欠けらを仕方なく受け取って不安気にしまった。

 浄化されたとはいえ、元々はあんなドス黒い結晶だったものだ。今は綺麗になって触れても問題がないとはいえ、得体の知れないものを懐に入れるのは心配な筈。


 見たところ問題無いようだが……調べを付けて早く正体を掴みたいところだ。

 この結晶は、あのバケモノは、氷河山を脅かしていたものは、……一体なんだったのかを。

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