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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第15章 暁星秀麗シンデレラ─ Unembellished Princess─
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第198話 フロワ・アンド・エタンセル(2)

 

「いきます。『ダイヤモンド・グレイス』!」


 まずはフリードが、さっき2人が作った土の山の円の中央に向かって強い冷気を放つ。するとたちまち氷柱が形成されていき、それを中心にして氷が六方に枝分かれして、そこからさらに細い氷が開花するかのようにして広がっていく。

 そしてあっという間に、氷だけで作られた巨大なオブジェが完成した。


「ベースはこれで良さそうですね。イア君、次お願いします!」


「おっしゃ、任せとけ! 風で援護も頼んだぜ!」


 フリードの作業が終わると同時にイアに合図を送ってバトンタッチ。イアと一緒に風属性の魔法を得意とするクラスメートも前に出て、2人は顔を見合わせてうなずき合ってからお互いに早速詠唱を開始する。


「『エルフレイム』!」


 そして放たれる、イアが一番得意とする火炎魔法。揺らめく炎をイアは器用に操って、フリードが作った氷柱をあぶって部分的に溶かしていく。

 ただ、イアの力だけでは大きな氷全体に炎を行き渡らせるのには限界があったらしく、氷柱の上部分にまでは火が届いていなかった。そこでイアが操る炎に向かって、もう1人が生み出した風を送り込むことによってさらに炎を大きく膨れ上がらせる。

 2人が力を合わせることで炎は氷全体を包み込むように広がっていき、そのままの氷では出せなかった滑らかな曲線を描く作品へと変化を遂げていく。


 この一週間、練習に練習を重ねたのだろう。フリードとはともかく、そのクラスメートと連携して魔法を発動するなんて私が知る限りじゃほとんど無かったというのに、2人は息ぴったりで互いに手慣れているように見えるほど自然だった。

 でもそれだけじゃない。手際も見事だけどなによりも、


「みんな、楽しそう……!」


「うん、なんだか踊ってるみたい。勝ちにいくって目標の前に、みんなが競技を目一杯楽しんでる!」


 エメラの言う通り、一人一人が楽しみながら作品作りに励んでいた。さっき勝って流れを変えてみせるとは言ってたけど、それに決してこだわることなく、仲間と協力していく過程を大事にしているんだ。

 プラエステンティアが先に作品を完成させていることに動揺を見せることなく、各々がベストだと思うタイミングで魔法を放ってそれまでは何もなかった校庭を彩っていく。まるで、この作業も作品の一部に含まれていると言わんばかりに。


「────しゃあっ! これで終わりだ!」


 一際強い炎を燃え上がらせて、イアは魔法の使用をストップする。遮るものが無くなったことで風の魔法の威力が強まり、氷を溶かしたことで生まれた水がそれによって当たりに飛び散り、その飛沫しぶきは日の光を受けてキラキラと輝きながら散っていく。

 そこへ他2人がここぞとばかりに大地の魔法で木の葉を巻き上げる。木の葉は風と組み合わさることで空高く舞い上がり、やがて水と一緒になって氷の周りへふわりと降り注いでいった。


 作品も大分完成が見えてきた。恐らく、次で最後。6人の内、ここまでずっと待機していたメンバーの出番。


「そんじゃドラク、フィニッシュ任せた!」


「了解したよ!」


 イアの合図によって、後ろで控えていたドラクが前に飛び出す。その直後にドラクは作品の真上まで飛び上がり、頂点へと向かって手をかざし、


「『アイレトルエノ』!」


 頂点を貫くかのように雷を氷に向かって落とした。

 電流は氷の中心を貫くのと一緒に、氷の表面に残っていった水を伝って氷全体に広がっていき、やがて地面へと流れていった。氷の中に電流の光が宿り、また氷を伝いながら流れていくことでそれまで陽の光を反射するだけだった作品が、自らパチパチと火花を散らせるようにして不規則に瞬く。

 イアの炎でなだらかな質感になった氷に電流はスムーズに行き渡っていき、宝石とも違う不思議な輝きを生み出していた。


「綺麗……」


 私は思わずそうこぼしていた。私だけじゃない、エメラ達も、見学しに来ている妖精と精霊達も、揃って感嘆からため息を漏らす。

 冷たい筈の氷が、鋭くとどろく筈の雷が、組み合わさったことであまりにも暖かく光り輝いていたから。その周囲には今も残っているそよ風が木の葉を踊らせて、作品を、私達を優しく包み込む。作品を構成するものは全く別々のものだというのに、それは見事に一つにまとまり、存在をはっきりと主張していた。


「僕達の作品はこれで完成となります。評価の方をお願いします」


 ドラクが地面に着地すると同時に作品の完成を告げる。姉さんが返事する代わりにうなずいて見せて、他の審査員と一緒に出来上がったばかりの作品をじっくり見つめたり、プラエステンティアの作品と見比べたりしていった。

 良い線はいってる筈だ。どうかお願い……!


「……評価が終わりました。それではクリスタ様、審査員を代表して判定をお願い致します」


「はい。まずはプラエステンティア学園の作品ですが……あの短時間で、あれほどまでに美しい作品を作り上げた手腕、お見事の一言に尽きます。もちろん見栄えも素晴らしく、花を咲き乱れさせるだけでなく、風と水で彩りを与え、さらに華やかさを演出させるそのアイデア、とても素晴らしいです。まさに自然の煌めきというに相応しい作品でしょう」


 最初に、プラエステンティアの作品に対しての評価を述べていく姉さん。かなりの高評価のようだ、イア達は大丈夫かな……?


「そして氷のオブジェは、こちらもまた違った美しさです。冷たい氷を、相性があまり良くない筈の炎と組み合わせるアイデア、またそれを操る技術、氷単体では生み出せない曲線でのアーチ、どれを取っても優秀だと言わざるを得ません。雷や風、そして木の葉も、本来の特性を発揮しつつ、意外性溢れる用途ばかりで意表を突かれました」


 それに加えて、と姉さんはさらに続ける。


「みなさんが勝負ということに固執することなく、一人一人が楽しみながら作品を作り上げていったその過程が、何よりも賞賛するべき点です。手際がいいことはもちろん褒め称えるべき要素ではありますが、この試験はそもそも学生生活でつちかってきたきたことを発揮する場。友人との絆もそれに含まれています。私達はそれを何よりも評価し、こちらの作品がより優れていると判断致しました」


「……っ!」


 姉さんからそれを告げられた瞬間、私達は息を呑んだ。それはつまり……


「よっしゃあ! オレ達の勝ちだぁーーー‼︎」


 イアのそんな雄叫びによって私達はようやくその事実を確信して、わっと歓声が上がる。

 勝った、勝てたんだ、イア達みんなが。あのプラエステンティア学園に対して、一勝をもぎ取ったんだ。みんなも信じられない、でも事実だと盛り上がっていた。エメラとカーミラさんなんて、その場で抱き合ってしまってるくらいだ。


「こ、こんなの嘘よ……。な、何かの間違いですわっ!」


 ふと、プラエステンティアの生徒の待機場所から、ベルメールのそんな言葉が聞こえてきた。

 でも、一度下った判定は覆ることはない。姉さん達の評価はあくまで対等なもの、そこに私達に対しての身内の贔屓ひいきなんて一切無い。それはこれまでの競技の結果から明らかだ。いくら判定に抗議しようが、そんな意見は最初から通らない。

 見学しに来た貴族達もかなり動揺している。全勝が当たり前だとタカを括っていた分、余計にそれも大きいようだ。それでも、切り替えの早いこと。ベルメールも貴族達も、一勝くらいは譲ってやろうと負け惜しみを吐き捨てている。


 これで1対2……確かに、点数ではまだ負けている。でも、これだけの劣勢をひっくり返して掴み取ったこの一勝は大きいもの。大多数がプラエステンティアが圧勝すると踏んでいたにもかかわらず、その予想を見事に裏切ったのだから。

 それもプラエステンティアに近い有名校でもなんでもない、こんな辺境の地にある学校が。


「みんな、おめでとー! もう、わたしもすごくスッキリしちゃった。仇、ちゃんと取ってくれてありがとう!」


「あたしもすっかり見惚れちゃってたわ。本当に綺麗だったわよ、みんなの作品!」


 彫像部門担当のみんなが待機場所へと戻ってくるや否や、真っ先にエメラが祝福の言葉をかける。エメラだけに留まらず、カーミラさんやクラスメート達も6人を取り囲んで喜びを分かち合う。


「おうよ! まあ、ぶっちゃけ途中から勝負とか全然考えてなかったんだけどよ」


「僕も。自分達が納得できるものを作ろうって、それにこだわってるだけだったから」


「それが今回の評価に繋がったんだろ。クリスタも言ってただろ、対決である前に学校で積み上げてきたものを披露する場だって」


「ふふっ、そうですね。とにかく、目標通り場の空気も変えられたようで良かったです。残るは飛行術と護身術ですね。ルージュさん、最後は頑張ってください。僕達も精一杯応援してますから!」


「うん!」


 フリードの言葉に、私はもちろん大きくうなずく。

 出番はまだ後だけど、護身術は点数配分が5ポイントと責任重大だ。せっかくイア達が変えてくれたこの流れ、決して無駄にはしない……!

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