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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第15章 暁星秀麗シンデレラ─ Unembellished Princess─
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第192話 重ねて、励んで、確実に(1)

 

 授業を受けて、放課後には署名活動に励み、それがない時はレオンの特訓に精を出して。そんなちょっと普通とは言い難い、それでも充実した日常を送る私達。忙しなく動き回ってはいるけれど、先日のカルディアの時と比べたら全然穏やかな日々だった。

 そして今日も、影の世界の学校で私達は廃校になるのを阻止するべく、絶賛活動中だ。


「……っと、この辺りは大分綺麗になったかな」


「落ち葉もないし、雑草も取り除いたし、あとは草の間に隠れていたゴミを拾うだけね。あともう一息、頑張りましょ」


「うん」


 周囲を見渡して、カーミラさんとこれまでの成果を確認し終えた私は一旦止めていた手を再び動かしていく。


 現在、私達がやっているのは風紀委員会主催の清掃活動のボランティア。以前に、ルーザにまとまった署名を集めるために参加してみるのも一つの手段だと、紹介されたそれだ。

 生徒会の協力は得られたけれど、目標の数に達するためには呼びかけだけではまだまだ足りない。そもそも、署名活動の主体である私達のことを知ってもらわなければ集まるものも集まらない。だからこうして慈善活動を積極的に行うことは、ここの生徒との繋がりが浅い私でも、手っ取り早く信用を獲得できる絶好のチャンスなんだ。


「ルーザ、そっちは終わった?」


「ああ、大分片付いたぞ。こっちも残すところゴミ拾いだけだ」


「あーあ。なんで大精霊たる僕が、こんな誰が放り捨てたのかも知らないガラクタの後始末しなきゃなんないのさ」


「今日は暇してたんだし、別にいいだろ。オレらの保護者として光の世界(あっち)の学校を助ける意味でも、少しは手助けしてくれ」


「ハイハイ。わかりましたよ〜、っと」


 私とカーミラさんと一緒に清掃活動に参加してくれているルーザとオスクが担当している場所もあらかた終わったようだ。ルーザに半ば無理矢理連行されてきたオスクはぶつぶつと文句を垂れていたけれど、渋々ながらも付き合ってくれている。

 そんななんだかんだで優しいオスクにクスッと笑みをこぼしつつ、私は発見したゴミを手早く袋に放り込んでいった。


「紙くずは捨てて……あ、これ魔法薬の空き瓶かしら?」


「汚れてはいるけど、ヒビも入ってないし、まだ使えそう。洗って再利用できないか、あとで聞いてみようか」


「そうね、使えるものはちゃんと使わないとダメよね。すぐにゴミにしちゃうのはもったいないもの」


「他人の尻拭い同然の仕事をして、(なお)つ拾ったものの活用方法を見出しながらとはね。ご苦労様なこった」


「そういうの含めてのボランティアだよ。ゴミだってなるべく少ない方がいいだろうが」


 ゴミを分別しながら集めていく私達に、オスクはどこか呆れたような眼差しを向けてくる。すかさずルーザがそんなオスクをたしなめるけど、オスクは納得いかない様子で口を尖らせた。


「それが気に入らないって言ってんじゃん。ここに落ちてるもののほとんどが誰かの横着で溜まりに溜まったわけっしょ? ゴミ箱なんてちょっと歩けばすぐに辿り着くってのに、なんでわざわざ外に放り投げるのやら」


「……お前、そういうところはホント真面目だよな」


「別に、当たり前のことじゃん。一時楽できる道選択したって、後からその精算しなきゃなんないんだし。だったら最初の内に損しておいた方がいい。少なくとも、後から膨れ上がったそれに潰されることは回避できる」


「そこが真面目だって言ってんだが……まあいい。続けるぞ」


 どうやら、オスクはただ単に面倒だから文句を言っているのではなく、見ず知らずの誰かの非常識な行動の後片付けをするのが気に食わないようだ。実力はあるからと、昔から受ける筈のなかった仕事を仕方なく引き受けていた……というよりは無理矢理押し付けられていたために、余計にその気持ちが大きいのだろう。

 異端者なんて散々言われているオスクだけど、こういうところがあるから信頼されているんだろうな。今まで会ってきた大精霊達も、行方をくらましていたことを心配してくれていたのが何よりの証拠。ルーザもオスクの言い分を聞いてそれを悟ったらしく、それ以上は何も言わなかった。


 そうして、ゴミを拾い続けて数分後。


「うん、これでお終い!」


「すっかり綺麗になったわね。やっぱりお掃除するとスッキリするわ」


「んじゃ、主催者に報告しに行くか」


 すっかりパンパンに膨れたゴミ袋と、落ち葉と雑草をまとめた袋も一緒に持ち上げて、風紀委員が待機している場所へと歩き出す。風紀委員である女子生徒も私達に気付いてくれたようで、向こうから駆け寄ってきた。


「お疲れ様でした。わ、こんなにたくさん……ありがとうございます、すごく助かります」


「いいのよ。あたし達がやりたくてやってるわけだし。そういうイベントでしょ、これって?」


「あはは、それもそうですね。では、集めたゴミはこっちで回収します。処理も委員がやるので、これでみなさんのお仕事も終了です」


 言われるがままに私達はゴミ袋を女子生徒に手渡していった。もちろん、さっき拾った魔法薬の空き瓶などの再利用できそうなものも忘れずに預けて。

 そして全てを渡し終えた後、その女子生徒は何かを思い出したようにふところをゴソゴソとまさぐり始める。


「確か、先輩達って署名を集めてたんですよね? 風紀委員会でも協力しようって言ってて、委員全員分と、両親達の分を集めておいたんです。生徒会に預けようかと思ってたんですけど、直接会えて良かった。今渡しちゃいますね」


「え、本当に⁉︎ あ、ありがとう……!」


「いえ、こっちも清掃活動に協力してもらいましたし。やっぱりこういうのって、やってくれる生徒って少なくて。そのお礼も兼ねて、です。ワガママな貴族になんて負けないでください!」


 そんな激励の言葉と共に、女子生徒から風紀委員会で集めてくれたという署名を受け取った。

 今回、得られたのは94人分……これで合計は2369人分だ。少しずつだけど、これまでの活動が報われてきていることを日に日に増加している数字で実感する。


 でも、目標にはまだまだだ。一日も早く目標に手が届くように更なる努力を重ねていかなければと、私達は女子生徒に改めてお礼を言いながら別れを告げて、その場を後にした。

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