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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第15章 暁星秀麗シンデレラ─ Unembellished Princess─
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第191話 アフタヌーン・デュエット(1)

 

「……って、思ってたのによぉ」


 イアの口から、不満げな声が漏れる。


 まだまだ眩しい日差しが照りつける昼下がり。辺りにはそよ風が吹き抜け、それが地面の草をさわさわと揺らす。そんな絶好の外出日和だという時に、聞こえてくるのはぼてぼてという足音と、ハッハッという少し荒めの息遣いで。


「なんでオレ達、走り込みなんかしてるんだ?」


「わたしだって分かんない。授業終わった途端に捕まっちゃったし」


「帰ろうとした瞬間に進路塞がれて『迷いの森の外周でランニングだ』、だったもんね……」


「おい、貴様ら。無駄口を叩く余裕があるのならさっさとノルマをこなせ」


「「はーい……」」


 横からこの走り込みの発案者であるレオンに叱られたことで、渋々ながら足と腕を動かしていくイアとエメラ。2人と一緒に走っている私とフリード、ドラクも苦笑いしながらそれに続く。


 一体どうしていきなりランニングをすることになったかといえば。もう二日前になるベアトリクスさんへの報告で、私達がカルロタワーの長い階段を登り続けてバテてしまったことがレオンは気になったらしく。そこでまずは基礎体力向上に努めるべきだと思い至ったようで、今日早速実行に移された、というわけだ。

 本来ならこの放課後はフレアとオーブランの様子を見に行ってから署名集めを再開しようと思っていたのだけど、レオンは光の世界(こっち)で集めるのは充分だと判断して。私達も学校周辺で呼びかけるのに限界を感じていたのは事実だし、今後のことを考えるともう少しスタミナは付けておきたいし……ということで、2体の無事を確認してお礼のフルーツを渡した後、素直にレオンの指示に従うことにしたんだ。


 まあでも、発案者である私達が主導でやっているというだけで、署名活動しているのが私達だけというわけじゃない。カルディアに遠出していた間、こっちの学校のクラスメートや先生達が自分達の両親や卒業生に協力を仰いでくれていたおかげで、今日も186人分の署名が得ることができた。

 これで合計は2275人分。目標にはまだまだ遠いけど、成果としては順調。だからその分、特訓にも精を出そうと頑張っているのだけど……


「はっ、はぁっ……やっぱりちょっとキツいかも……」


「単純な距離もだけど、この気温がね……。フリード、大丈夫かい?」


「な、なんとか……。このために、強めの魔法具も買っておいてあったから……暑さに弱いことを理由に、僕だけ手を抜くわけにはいかないよっ……」


「む、無理しないでね?」


 レオンから言い渡されたノルマは5周。今は4周目に入っているところだ。

 かなりの面積を誇る迷いの森は、外周の長さだってすごいもの。1周だけでもかなり疲れるというのに、5回も回れと言われた時は始まる前から全員揃ってげんなりしてしまった。これを継続していけばそれなりに力がつくことが分かっていても、やっぱり辛いものは辛い。


 雪妖精故に暑さにめっぽう弱いフリードは、距離よりもミラーアイランドの高い気温と、激しく動いたことで上昇した体温に参ってしまって、顔が既に真っ赤。元々足腰が強く、スタミナもあるドラクがサポートしてくれているけど、時間の経過と共に顔色はどんどん悪化していくばかり。

 でも、フリードは自分だけ特別扱いされるわけにもいかないと、必死になって頑張っている。私もそんなフリードに負けないよう、スピードは出なくとも少しでも身体を前に進めようと、大きく腕を振っていった。


「うぅ、はぁ……けほっ」


「エメラ、ふらふらになってるけど……平気なの?」


「だ、だいじょぶ、だいじょぶ。みんなみたいに前線にはあんまり出ないけど、わたしだって強くなりたいんだもん。役に立てるようにこれくらい頑張らなきゃっ……!」


 いつもは後方支援に回ってるエメラも、ゼェゼェと荒い呼吸になりながらも強くなるという目標のためにこの特訓に食らい付いている。いいペース、とは言い難いけれど残された距離は徐々に縮まっていき……


「残り1周だ。精々励むがいい」


「よ、よっしゃあ!」


 レオンからそんな知らせをもたらされたことで、私達のやる気も一気に上がる。直接体力が回復したわけではないけど、これが最後だと思うと憂鬱(ゆううつ)だった気分も吹き飛ぶというもの。私達はラストスパートとばかりに、イアを先頭に出来る限りスピードを上げていった。

 少しずつ、それでも確実に前へと進んでいく私達。この最後の周回もどんどん終わりに近づいてきて、視界の先にスタートラインで待機しているレオンの姿が見えてくる。


「はぁ、はぁ……も、もうすぐ終わりだね……」


「やっと休めるんですね……。頭がクラクラしてきましたけど、なんとか耐えなくては……」


 ゴールが見えてきたことにより、みんなも安堵感からホッと胸を撫で下ろす。

 後もう少し。……そう思って、気が抜けてしまったのだろう。


「なっげぇ階段登りまくった後に、これはねえよ……。しかも言い出しっぺがあんな涼しい顔でこっち眺めてんのが、なんかシャクっつうか……」


「い、イアッ!」


「ほお……。そのような口が叩けるとは、まだまだ余裕がありそうだな、蒼玉の」


「ゲッ、聞こえてた⁉︎」


 レオンへの不満をこぼすイアを咄嗟に止めようとしたのだけど、時既に遅し。イアとしてはボソッと呟いたつもりだったとしても、その言葉をレオンの耳はバッチリ拾ってしまったようだ。途端に慌て始めるイアを見てレオンはニヤッと怪しい笑みを浮かべながら、


「喜べ。貴様だけ3周追加だ!」


「いやだあああああぁぁぁ────ッ‼︎」


 ……そんな死刑宣告を下され、迷いの森にイアの絶叫が響き渡った。

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