第187話 三位一閃(3)
「イオ、隣失礼する」
「えっ。ちょっ、ちょっと、ローナ⁉︎」
頭を抱えていたその時、イオの右隣へと入り込んでくる影が一つ。それまで私達と一緒に前線に出ていたローナが武器を収めて、イオに代わってデバイスの操作を始めていた。
同じアンドロイドだからか、ローナもどう動かせばいいかは分かっているようだけど、いきなりのことにイオも理解が追いついていない様子だった。戸惑い、固まっているイオにローナはすかさずその口を開く。
「ワタシはアナタの後継機、舐めないでいただきたい。ワタシは戦闘に特化するよう造られたタイプ故、情報処理能力はアナタに劣るだろう。しかし、原初であるアナタのものから改良を加えられているコンピュータが搭載されているため、単純なスペックとしてはこちらが上。アナタのサポートをすることは造作もない」
「だけど、今更2人で立ち向かったところで……。あの防壁プログラム、ボクじゃ全然歯が立たなかったのに」
「確かに、アナタ1人では敵わなかった。相手はマスター、我々アンドロイドの生みの親たるその能力を超えることは非常に困難。だがワタシとアナタ、2人で協力した場合はまだ未検証。試してみる価値はあると思われるのだが」
「そうかもしれないけど……でも、あれを破るのは」
余程あの防壁プログラムとやらが強固なものだったのだろう。そう提案されてもまだ不安が拭いきれていないらしいイオのそんな弱気な言葉に、ローナはうっすらとぎこちなく微笑んで見せる。
「生き物というのは窮地に直面した時、互いに協力し合い、支え合いながら困難を乗り越えていく。一人では成し得ないことも、2人以上の複数人で立ち向かうことで望んだ結果を勝ち取っていく。アナタはこの者達と共に行動したことで、それを見てきた筈」
「う、うん」
「今までにもワタシを含む我々アンドロイドから妨害を受けて、ここに来ることは決して容易いことではなかっただろう。しかし、この者達とアナタ達はマスターの元へ辿り着いた。どんなに高い壁が立ちはだかろうと、打ち破り続けた。それはきっと、ここに立つ者が1人でも欠けていたら実現は出来なかっただろう」
「……うん。みんなで連携して、これまでの戦いも勝ち続けてこれていた。一人一人の力は小さくても、集まることですごく強くなって、無限にあるようにすら思えた。どんなものだって二つ以上あるから初めて意味を為せるって、ルージュにも教わったな。それによって生まれたのが『絆』ということも、そこで知ったんだ」
「他者より認識されることで、『個』を自覚することが可能となる……ならば我らも、そうするべきだろう。1人よりも2人で、互いの足りない部分を補い、マスターを救い出すという目的を果たす。あの者達が、今までそうしてきたように」
「そうだね……うん、そのためにボクは今までルージュ達から学ばせてもらったんだ」
「……ようやく、理解したようだ。ではまず、アナタは外れた腕の修復を。完全に弾かれないよう、ワタシが抵抗しておくのでその隙に」
「りょ、了解!」
ローナの説得によって立ち直ったイオは指示された通り、足元に落ちていた右腕を拾い上げて右肩にくっ付ける。そして肩を回して接合部が外れないか具合を確認している横で、ローナが次は私達に向かって続けた。
「独断で前線を退いたことを詫びる。その代わり、イオと共にプログラム及び、システムの破壊に全力で当たる」
「あ、ああ。任せたぞ!」
「とにかくやってみるよ。みんなは引き続き腕の破壊に集中して!」
「わかった!」
そうして、腕を直したイオはローナと一緒にデバイスの操作を再開する。残りの私達は各々の武器を構え直し、腕を破壊すべくまた攻撃を繰り出していった。
イオとローナ、2人がかりでどこまでギデオンに対抗できるかはまだ分からないけど、単純に戦力は2倍になり、デバイスで機械に命令するスピードも増した。協力することで、イオ1人では不可能だったことも可能になるかもしれない。
2人なら必ずギデオンの防壁を打ち破ってくれる。そう信じて私達は攻撃を続けるだけだ。
『1体加わったところでなんだと言うのだ。所詮、お前達は私が作り出したアンドロイドの内の2体に過ぎん。私のプログラムを破るなど不可能だ』
「お言葉ですがマスター、成功に直結するものは何事も挑戦することです。我々アンドロイドもイオを、『No.01』を完成させるまでに起動実験から始まり、それ以降も幾度にも渡るテストを繰り返していた筈。その過程で、失敗も少なからずあったことでしょう」
「でも、あなたは諦めなかった。一度や二度の失敗では挫けずに、必ず完成させると決めてボク達を作り出してくれた。ボク達はあなたがかつてしていたことと同じことをしようとしてるだけだ。さっきは気持ちで負けちゃいそうになったけど、ローナのおかげで目が覚めた。みんなが頑張ってくれてるのに、ボクだけ諦めちゃうわけにはいかない!」
『……人形の分際で口答えなど覚えおって。いいだろう、何度だって捻り潰すまで』
イオもローナも、ギデオンの言葉をやってみないとわからないと突っぱねる。どれだけ無理だと、無謀だと言われようがそれらを意に介すことなく、デバイスの操作に集中する。
カタカタ、カタカタと凄まじいスピードで複数のボタンを押していく2人。右側をローナが、左側をイオがそれぞれ分担しながら操作していき、防壁を崩す突破口を探していった。その間、私達も本体の弱体化を狙うのと一緒に、ギデオンの注意を2人にばかり向けさせないようにするため、腕への攻撃をさらに執拗なものにしていく。
もちろん、『神』も大人しく攻撃を受けるばかりではいない。私達を叩き潰そうと腕を振り回して応戦してきて、そこからさらに追い討ちをかけるように光線を次々と放ってくる。攻撃方法はさっきと変化はないけど、一撃一撃がさらに重く、光線での弾幕の密度はさらに濃いものとなっている。ギデオンが本気で私達を倒しにかかってきている、それが嫌でも思い知らされた。
それでも、攻撃が激しくなったからといって挫けるみんなではなかった。そっちがその気ならと、こちらも負けじと武器を力一杯振るっていった。




