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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第14章 マリオネットは糸切れてーMechanical Dystopiaー
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第187話 三位一閃(2)

 

 傷を癒してすぐに、私達は「神」の元へと走って向かった。

 吹っ飛ばされたことで距離を取られ、体勢を立て直すのにもかなりの時間を費やしたために、破壊したはずの6本の腕は全て修復してしまった後だった。破壊するのにもそれなりに苦労したために、それがまた一からとなると流石に嫌気がさして表情にもそれが出そうになるけど、ぐっと堪える。

 まだ負けてない以上、なんとでもなる。イオの作戦が上手くいくか分からないけど、せめて気を強く持たないと。


『再び向かってくるとはな。深手を負わせたように思えたのだが……それでもまた立ち塞がるのは無謀なのか、単に諦めが悪いのか。どちらにせよ理解に苦しむ。潔く私の理想を受け入れれば、(いたず)らに傷を作る必要もなくなるというのに』


「なんとでも。どれだけ傷付こうが、あなたの語る理想を受け入れるつもりはない。あなたがそうするように、私達もこっちの目的と使命を果たすために何度だって立ち上がって、抗い続けてやるって決めたから」


 諦めない私達に嘲笑うような言葉を向けてくるギデオンに、私も負けじと言い返す。

 こっちだって生半可な覚悟でここに立っているわけじゃないんだ。逃げ出せるならとっくにそうしてる。でも、そうしないのは世界が滅んでいく様を黙って見ているのが嫌で、最後まで立ち向かうとみんなで決めたから。いくら馬鹿にされても、この刃を下ろすことは絶対にしない。


『ふん、愚かしいことこの上ない。抵抗など、全てが無駄なのだ。貴様らのそのくだらん意思をへし折り、今度こそ徹底的に叩き潰してくれる』


「へっ。やれるもんならやってみやがれってん、だ!」


 イアは挑発するかのようにそう言い放つと、素早く「神」に向かって走っていき、斧で腕に殴りかかっていく。金属製の腕に刃は深く通らず、ガキンッと音を立てて弾かれてしまうけど、イアはへこたれることなくどんどん攻撃を浴びせていく。


 そうだ、何にせよ腕を早いとこ壊さなくちゃ。腕は「神」の魔法を防ぐ障壁を展開させている防御手段であると同時に、攻撃手段でもある。その長さからリーチもかなりある上に、殴りつけてくる他に光線を放ってくるなど手数も多い。光線は後方に下がっているイオにも当たってしまう可能性が高いし、作戦の要であるイオを守る意味でも腕を無くして、「神」を弱体化させないと。

 残っていた私達もイアに続いて腕への攻撃へと向かい、イオは再びデバイスへと駆け寄って早速操作を始める。そして私も、腕の側に来てすぐにまた剣を振り上げ、


「やあっ!」


 精一杯の力を込めて斬りつける。ただ刃を当てても効き目が薄いだろうからと、部品の結合部分が剥き出しの関節を狙って。すると腕は斬撃によって大きくしなり、私の狙い通り表面を傷付けるよりも大きなダメージを与えられたようだ。


『無駄な足掻きを。貴様らがどれだけ挑もうと、「神」には何の痛手にもならん』


「……っ」


 ギデオンのそんな呆れるようなセリフに合わせて、「神」の腕が私達を馬鹿にするように大きく揺れる。ギデオンのその反応を見て、私は内心でほくそ笑む。

 私達が攻撃を続けるもう一つの理由。腕を破壊するのは「神」の攻撃からイオを守る他に、前線の私達が派手に動くことでギデオンの注意をこちらに惹きつけて、イオの行動をギデオンに悟らせないためでもある。


 イオが魔力を吸収される仕組みを崩すのが手強いと言ったのは、単純に複雑だからという理由だけじゃない。恐らく、ギデオンに気付かれて抵抗されてしまえば、システムを壊すのが一気に難しくなってしまうからだろう。

 イオ達アンドロイドや、都市に使われている機械の生みの親であるギデオンはその道のエキスパート。機械に関しての知識や能力では右に出る者はいない筈。そんな相手に真っ向勝負を挑んだところで、返り討ちに遭うのがオチだ。だから私達オトリ役も、作戦の成功のためには重要なんだ。

 さっきのセリフからして、ギデオンはまだイオの行動に気付いていない様子だ。このままいけば……!


「『ルミナスレイ』!」


 光弾を放ち、腕にさらにダメージを与えていく。魔法が命中した腕はそこからうっすらとだけど、黒煙を上げ始める。

 あともう少しでこの腕は破壊できそうだ。……そう思った時だった。


『……む? なんだ、これは。システムが正常に作動していない……何かいじられたか』


「……っ、マズい!」


 気付かれた────! イオのその反応に、私達も一瞬でそのことを悟った。

 イオの行動が、私達の作戦がギデオンに勘付かれてしまった。そうなればもう、オトリ役も意味を成さない。イオはそれでもめげずにデバイスの操作を続行するけれど、ギデオンはそんな必死になっているイオを『フン』と鼻で笑う。


『成る程、小賢しい真似をしてくれる。だがそれも……ここまでだ』


「なっ……これは!」


「どうしたの⁉︎」


「もう防壁プログラムが組まれた……! もうすぐ半分に到達しそうなところまで来ていたのに、入り口まで追い出されて締め出された……」


「嘘でしょ、この一瞬で……⁉︎」


 イオのその報告に、全員揃って絶句する。

 機械のことに疎い私達でも、それが只事ではないことは流石にわかる。それなりに時間をかけて、イオがようやく仕組みを壊す中間地点にまで来ていたのに、ほんの数秒でスタート地点にまで戻されてしまった、なんて。そこまで侵入を許していたのだから追い出すことだって簡単ではない筈なのに、ギデオンはそれを軽くやってのけてしまった。

 寄ってきた虫を手で払い除けるようにあっさりと。なんでもないことのように、圧倒的な実力で一切の敵を寄せ付けない。それはまるであの時の……ヴォイドの力を正面で見せ付けられた時のことと類似していた。


 手強い相手だと、理解していた。そう簡単にはいかないと覚悟していた。でも、これは予想の範疇(はんちゅう)を遥かに超えている。

 作戦が成功しなければ本体への魔法での攻撃は封じられ、物理で攻めるしかなくなる。でもそれではただの消耗戦、私達のスタミナが尽きるまでの見苦しい悪足掻きになってしまう。

 この戦い、勝てるの……? 苦しい状況を目の当たりにして、駄目だと自分に言い聞かせても弱気になってしまう。


「なんのっ、まだ負けてない! 追い出されたなら、もう一回突き破るだけだ!」


 でも、イオは諦めてなかった。もう一度デバイスに向き直って操作を再開する。真剣な表情で、それに取り付けられている輝く板をかじりつく勢いで凝視しながら複数のボタンを凄まじい速さで押していく。


『欠陥品が……何処までも私の邪魔をするというのか。そんなのは無駄だと、まだ分からんのか』


「無駄なもんか! どんなに些細なことでも糧になるって、小さな積み重ねが大業を成し遂げる鍵になるって、ルージュ達から学ばせてもらったんだ! あなただって、かつてはそうだった筈だ!」


『かつて、私がどうであったかなどどうでもいい。そんな過去など、今となっては足枷に過ぎん。「No.01」、お前も負の遺産同然だ。いい加減諦めるのだ』


「ぐっ……⁉︎」


 もう一度潜り込もうとしたイオだったけど、またギデオンによって一瞬にして弾かれてしまったらしい。その表情が、悔しさと苦痛で酷く歪んだ。

 それでもなんとかして壁を打ち破ろうとするイオだけど、今まで無理をし過ぎたのと、さっき私を殴り付けた時の衝撃の影響が残っていたのだろうか。外れ癖が付いている右腕の付け根が、ぐらぐらと揺れて不安定になり始め……


「あっ‼︎」


 右腕が外れて、ゴトリと音を立てて落下してしまった。


「そ、そんな……」


「お、おい。これマズいんじゃねえのか⁉︎」


 それを見たみんなが途端に焦り始める。それも当然だ。今までだって、イオは必死に操作してやっと応戦できていたくらいなのに。

 右腕が欠損し、片側の操作が不可能となったことで効率は格段に落ち、イオの表情もさらに酷いものとなる。イオの抵抗でなんとか平行線の状態を保てていたけど、これではギデオンによって完全に道が閉ざされてしまうのも時間の問題。


 終わり、なの? もう手は無いというの────?

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