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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第14章 マリオネットは糸切れてーMechanical Dystopiaー
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第186話 デウス・エクス・マキナは望まれない(2)

 

 イオがまず、ギデオンがさっきまで操作していた「神」を制御するデバイスとやらに駆け寄って、内側から何か妨害できないか早速操作を開始する。残りの私達は自分勝手な理想を押し倒そうとする、私達を邪魔な存在として排除せんとする「神」に直接抵抗するのが役目だ。


 私は先手必勝とばかりに「神」に向かって真っ直ぐ突っ込んでいく。「神」ももちろん、それを黙って見過ごす筈もなく。球体から伸びている6本の腕の内の1本を大きく振りかぶり、私を押し潰そうと迫ってきた。

 でも、その図体の大きさが災いしてか、そこまで素早い動きではない。動作をよく見て、確実に攻撃を避けられるルートを探り当てて、懐に飛び込んだところで剣を思い切り振り上げる。


「はあっ!」


 力一杯、本体であろう球体に向かって斬撃を浴びせる。

 だけど、やはり機械というせいか、斬った時にあまり手応えを感じなかった。ちゃんと命中はしたのだけど硬く、分厚い金属に剣の刃は深く通らず、あっさりと弾かれてしまう。今まで戦ってきたアンドロイドと同じく、物理はあまり効かないと見て良さそうだ。


「なら、これならどうですか! 『ヘイルザッシュ』!」


「『スカーレットレイ』!」


 それを見たフリードとカーミラさんがすかさず、球体に向かって魔法を浴びせる。

 これで少しでもダメージを与えられれば、と思ったのだけど……球体のリアクションはゼロ。それどころか、球体に命中する筈だった2つの魔法は壁に阻まれるようにして、完全に防がれてしまった。機械だから効いているかわからないんじゃない、当たる前に無効化されてしまっているんだ。


「ど、どういうことだよ! 効いてないって以前に、あのデカい機械に魔法が届いてねえぞ⁉︎」


「……障壁の存在を確認。それが球体の周囲を覆っている模様。除去しない限り、魔術等での損傷を与えるのは困難と推測される」


『ふん、気付いたようだな。「神」とは不可侵の存在。貴様らは「神」に傷一つ付けることも叶わん。何も成せないまま、貴様らは「神」が下す鉄槌てっついによって排除される運命なのだ』


 イアの疑問に、その原因を冷静に告げるローナ。物理が通らない上に、魔法での攻撃も防がれる……思った以上に置かれている状況が厳しいものだと知って、私達は一瞬動揺する。


「そんなことあるもんか! 何か、何かきっと方法がある筈……!」


 でも、イオは全くひるんでいなかった。ギデオンの言葉をすぐさま否定し、障壁を消滅させる手段を探そうとデバイスのボタンを素早く操作し始める。

 カチカチと凄まじい速さで複数のボタンを押していき……やがてそれが終わりを告げると共に、イオはガバッと勢いよく顔を上げる。


「解析完了! 球体から伸びている6本の腕、あれが障壁を作り出しているみたいだ!」


「あの腕が……!」


 障壁の発生源、それは「神」が起動した瞬間から出現していた腕だった。

 元々巨大なその存在をさらに大きく主張するかのように伸ばされているそれらは、言われてみれば本体である球体を守るように囲い、包み込んでいるようにも見えた。それはまるで母親が赤子を抱きかかえ、一切の外敵に触れさせまいとするかのようで。無骨な見た目に反して、その動きには慈しみが込められているようにすら感じさせる。あの腕が本体を守っているというのもなんだか納得がいった。


「今の6本出ている状態だと、障壁の強度は最高のものになっているみたいだ。だから一本でも破壊できれば、魔法でも多少ダメージが通るようになる……けど」


「けど、なんだ?」


「あの腕、自己修復機能があるみたいなんだ。一度壊してもまた復活してしまうってこと。復活しても壊せばいいだけかもしれないけど、機械と違ってルージュ達のスタミナは有限でしょ? あまり時間をかけていると、一方的な消耗戦になってしまうことは確実だ」


「つまり、効率良く腕を破壊して、短時間でいかに本体にダメージを与えられるかが勝敗の鍵ってこと。地味にタチの悪いことで。作ったヤツの性格が知れる」


 面倒だ、と言わんばかりに肩をすくめるオスク。確かに腕を破壊してまわる必要がある上に、時間がかかってしまった場合、何度も壊さなくてはならなくなる上に、さらに本体にも攻撃を当て続けなければいけないなんて、厄介としか言えない相手だ。

 しかも私達は今までタワーの階段を駆け上ってきた分の疲労と、その道中でのアンドロイドとの戦いで負ったダメージも完全に癒えてない、万全とは言い難い状態。ただでさえクタクタなのに、戦いが長引くようなことになれば、最悪敗北してしまうことだってあり得る。


「妖精……ルージュといったか。我々がマスターに確実に勝ると言える要素は、戦力の多さにある。腕一本につき、戦力を1人当てて破壊に回っても、本体への攻撃を担当する人数は確保できる。戦力を分散させる分、回復(リカバリー)の手間は増えることが予想されるが、効率を重視するなら分担してでの破壊をオススメする」


「そう、だね」


 ローナにそうアドバイスされて、ふと考え込む。

 今、前線に出て戦っているのは後方支援に回っているエメラとイオを除いた8人。6本の腕をそれぞれ1人ずつ破壊しにいき、2人が本体である球体へ攻撃を行う。単体で立ち向かうとなると、自分が破壊しに行く腕からの攻撃が自分に集中してダメージを負いやすくなるというリスクが伴うけど、効率は遥かにいい。一刻も早く決着を着けたいのだからそうするべきだ。


 問題は作戦の要となる本体への攻撃役だ。球体の機能を停止させなければ、そもそもの「神」の撃破はいつまで経っても叶わない。

 このメンバーの中で本体を確実に追い詰められるような、大ダメージを与えられるとしたら……思い当たるのは、やはりこの2人しかいない。


「ルーザ、オスク、本体への攻撃をお願いしてもいい⁉︎」


「ああ、任せておけ!」


「メインディッシュ担当とは悪くないじゃん。なら、そっちは精々壁に穴開けるの頑張りなよ。僕らが動くのはそれから」


「わかってる。それじゃあ、この6人で腕の破壊に行くわけだけど……みんな、いけそう?」


「もちろん、覚悟はできてる!」


「おうよ。腕一本1人で相手するくらい、どうってことないぜ!」


 ドラクとイアがそう意気込み、他のみんなも大丈夫だと頷く。状況は良いものでないのにもかかわらず、全員が希望を見失ってない。みんなで一緒に力を合わせて、諦めなければ必ず勝てると、そう信じている。

 それは私も同じ。今までの戦いだって決して楽勝とは言えないものばかりだったけど、乗り越えてこられたんだ。今回だってなんとかなる筈……そう思えるくらいに、みんなのことを信頼しているから。


「少しでも怪我しちゃったら教えて! すぐに治せるように、わたしも頑張るから!」


「ボクも、なんとかシステムに侵入して何か妨害出来ないか試してみるよ。すごく手強いけど、みんなが頑張っているんだ。ボクだってやって見せる!」


「うん、お願い!」


 エメラとイオは直接攻撃に参加するわけではないけど、敵に立ち向かっているのは2人だって同様のこと。頼もしい仲間であることには変わらない。張り切る2人に、私は頼りにしていると言葉にする代わりに頷いて見せた。


「よし、行くよ!」


 その声を合図に、それぞれが担当する場所にへと散る。指示通り、ルーザとオスクが本体への攻撃を。私とイア、フリードやドラクにカーミラさん、そしてローナがそれぞれ1本ずつ、腕の破壊に回る。


 ……移動を終えた私は、自分が標的とする腕をじっと見据える。相変わらずゆらゆらと(あざけ)るように揺れているその動きは、無機質な機械である筈なのに何処か挑発しているようにも見えた。やれるものならやってみろ、とでも言いたげに。

 なら、それに敢えて乗ってやろう。どうせ攻撃して破壊しなければ、ルーザ達がいくら攻撃しようとも本体にダメージが通らないんだ。あたかも檻のような、歪んだ理想に囚われているギデオンを解放するために、なんとしてでも打ち砕いてみせる。


 そんな私の意思を反映したかのように、手にした剣の刀身はギラッと鋭く輝く。私は剣を握り直し、振りかぶって魔力をたぎらせた。

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