第183話 ファインド・マインド(2)
情報共有を終えた私達はギデオンがいるであろう最上階を目指すべく、ルーザ達が既に見つけていたという上へと続いている非常用階段へと向かった。そうして、ルーザ達の案内でその階段の扉の前に来るまでは良かったのだけど。
「あ……そうだ、この扉のことすっかり忘れてたね」
「ここ見つけてからすぐに敵に取り囲まれたからな……。完全に頭からすっぽ抜けてた」
「えっと、どうしたの?」
何故だかみんな、扉を開けようとしない。先を急がなくてはならないのは全員承知のことなのだから、すぐに開ければいいのに。
そう怪訝に思う私達4人に、ルーザは「違うんだ」と首を振る。
「開けないんじゃなくて、開けられないんだよ。鍵がかかってやがんだ、この扉」
「それなのに鍵穴が見当たらないのよ。あるのはこの、溝のあるよくわからない機械だけだし」
説明しながら、カーミラさんは扉のすぐ隣に取り付けてある小さな機械を指差す。それは私達もついさっきまで全く用途がわからないものだったけど、イオの説明のおかげでどんな機械なのかはもう充分理解していた。そして、それをどう使えばいいのかも。
「よくわからない機械、って……ああ、なんだ。カードリーダーじゃねえか」
「かーどりーだー? 何それ」
「簡潔に言うと、これがこの扉の鍵穴ってところかな。それなら鍵の心配は無いよ」
ルーザ達にそう言って聞かせながら、懐から取り出したカードキーを手慣れた様子でカードリーダーに通すドラク。途端に、ガチャッと何かが外れるような音が辺りに響き回った。
これでちゃんと解錠されたことだろう。この一連の流れを、カードリーダーやカードキーが何なのかまだよくわかっていないルーザ達は呆気に取られたように眺めているばかりだったけれど。
「ね、ねえ、今何をしたの? 鍵が開いたのはわかったけど……」
「カードリーダーにこのカードキーを通したんだよ。ここでの施錠って、ほとんどこのカードリーダーでしてるみたいなんだ」
「ふーん。とにかくそれがここの鍵ってわけ。その人形から情報色々得られたとはいえ、お前らよくそんなもの手に入れてたな?」
「ああ。ホント、運良く手に入れたんだ。な?」
「う、うん」
……オスクにそう返しながら、ジロっと何か言いたそうな視線を向けてくるイア。イアが何を言おうとしているのか察しがつく私は、いたたまれなくなって思わず目を背ける。
まさか、警備員を殴って気絶させてから強奪したなんて言えないし……。しかもその発案者が私なのだから尚更。それを知らないルーザ達は、そんな私とイアの態度に不思議そうに首を傾げていた。
「よくわからんが……とりあえず扉は開いたんだし、先に進むぞ」
「う、うん」
「先の襲撃でも言ったけど、この先の警備システムは解除できてない。それに加えて見取り図も入手してないから、間取りも不明だ。いつ敵と鉢合わせするかわからない。いつでも迎え撃てるよう、最大限の警戒を払っておくことをオススメするよ」
「おう。アドバイスありがとな、イオ」
「どういたしまして。戦闘に参加できない分、ボクも全力でキミ達のサポートに当たるよ」
「うん、頼りにしてるよ。じゃあ、開けるね」
ドラクのその言葉を合図に、キイと軋む音を響かせながら開かれる扉。その奥にあったのは、さっきと同じような長い螺旋階段だった。
この階段が最上階に続いているかはわからないけど、もうかなり上の階に来ているし、しかもわざわざ施錠までされていた非常用階段だ。エレベーターは使用するのにカードキーが必要だったけど、非常用階段は用途が用途だけに今まで鍵がかけられているなんてことは無かったのに。
きっとこれを上り切れば辿り着ける筈……そう信じよう。
「うわ。これまたすっごく長い階段ね……。もう、ここに来てから階段ばっかりでやんなっちゃう」
「先程から足を酷使してばかりですもんね。筋肉痛になるのは覚悟しておいた方がいいかもしれません」
「なーに後ろ向きになってんのさ。疲れんのが嫌なら飛べばいいっしょ?」
「無茶言うなよ。こんな狭いところで羽なんか広げられるか。つっかえるのがオチだろ」
「まあ今まで通り、自力で頑張って上るしかないね」
私もさっきから階段での移動続きなことに嫌気が差していないと言えば嘘になるけど、これが最後の階段になるかもしれないと思えば認識も変わってくる。もう少しの辛抱だ、そう自分に言い聞かせながら私達は階段を駆け上り始めた。
階段を上っている最中は特に敵との遭遇は無く、足音も聞こえてこないことから迫っている気配も無かった。
立ち止まる必要が無いから今のところスムーズに進めているけど……でも、上り切ったところで待ち伏せされている可能性も大いにある。さっき取り囲まれたのがそのいい例だ。最後まで一瞬たりとも気を抜けない。
そうして数分ほど上り続けていくと……やがて終着点である扉が見えてきた。
「あっ、出口が!」
「ゴールに辿り着いたのはいいけど、さっきと同じパターンは勘弁願いたいぜ……」
「不自然なくらいに敵と会わなかったものね……。でも、ここで怖がってても仕方ないわ。先を急ぎましょう」
カーミラさんのその言葉に反対する者はいなかった。いつでも応戦できるように、全員武器を構えたところで先頭にいたドラクがドアノブに手をかけ、ゆっくりと扉を開く。
「ここは……?」
その先にあったのは、またしても開けた場所だった。とはいっても、その広さはさっきまでいた25階の半分程度。しかも壁一面がガラス張りで見晴らしが良かった25階とは対照的に、ここはいかにも分厚そうな金属製の壁に囲われている。その面積も相まって、少しばかり圧迫感を感じ得ない。それでも、さっきのように大量の敵が待ち伏せしていることはなかったために、緊張から解放されてホッと息をつく。
装飾や機械類も他の階と比べて少ないけど……ただ一つ、他にはないものがここにはあった。
「なんだろ。このアーチみたいなの」
「これも何かの機械なんでしょうか? 例にもよって、用途はさっぱりわかりませんが……」
そう。エメラとフリードのその言葉通り、この広間の奥には大きな金属製のアーチが設置されていた。ただ、そのアーチの奥に何かあるかと思いきや、ただ奥の壁が覗いているのみ。何か意味があるとは思うのだけど、またしても今まで見たこともない機械の登場に、私達はどうすればいいのか全く見当が付かない。
「なあ、イオ。どうすりゃいいかわかるか?」
「うーん、そうだね……あっ。アーチの隣にデバイスがある。調べてみようか?」
「あっ、うん。お願い」
「了解。じゃあ少しいじってみるよ」
私の頼みに頷いて見せてから、アーチのすぐ近くに設置されている、小さめの機械に駆け寄るイオ。そしてその前に立ってすぐに、その機械に取り付けられているおびただしい数のボタンを、警備システムを止めた時と同様にカチカチと素早く操作していく。
「……成る程、この機械は何かの転移装置みたいだ。起動させられればどこか別のフロアに行けるようだけど、この装置を通じてでしか行けないなんて、かなり重要な場所なんじゃないかな」
「じゃあ、もしかしたらそこが最上階……ギデオンがいる場所かも……!」
「あり得るな。確かに、見た感じじゃもう上へ行ける階段も無いようだし、先に進めそうなものっていったらこれしかないだろ。それで、起動させられればって言ってたが……できそうか?」
「うーん……白状すると、かなり手強いかな。とびっきり強固なセキュリティで守られている。今少しいじってみたけれど、隙を見つけて入り込もうとしても修復するスピードが凄まじく早くて。頑張れば突破できそうではあるけれど、それなりの時間を頂戴したいな」
「起動させられるんならそれでいいさ。多少時間がかかってもいいから、そのアーチを使えるようにすることだけに集中しなよ」
「わかった。やってみるよ」
オスクの指示に頷きつつ、イオはいつになく真剣な表情でその機械に向き直って操作を再開する。模倣したもの故に、感情表現が乏しいアンドロイドでもそんな顔をするなんて……この機械に施されているセキュリティとやらがそれほどまでに手強いものだというのが、機械に疎い私達にもすぐわかった。
それでも、後はイオを信じて待つだけ……そう思っていたのだけど、現実はやはりそう上手くはいかないものだ。
「……侵入者、発見」
「命令に従い、排除する」
「ゲッ⁉︎ どっから湧いてきやがったんだよ、こいつら!」
「ハッ、この分じゃこの機械に足止めされることを狙ってやがったってことじゃん。随分とまあ策士なことで」
イオが機械と格闘している最中、わらわらと集まってくるアンドロイド達。その数十体ほど。
オスクの言う通り、アーチが起動してないことからここでしばらく立ち止まることを見越した上で近くに潜んでいたのだろう。すぐに出てこなかったのは、敵がいないと思わせて油断を誘うために。
「命令により、これより侵入者を殲滅する」
「敵は、排除。絶対、殲滅……」
「ね、ねえ、さっきまでと言ってることが違くない?」
「ああ、捕縛から殲滅になってやがる。とうとう遠慮が無くなったな」
「ここまで来たら、もう命はないってことかも……」
でも、それが自信にもなる。それは即ち、敵が焦っている証拠。追い詰められて後が無くなってきていることを指し示しているのだから。
ただ、ここは25階に比べて大分狭い。この人数では大きく動き回ることはあまりできないし、今回はイオの防衛が絶対となる。さっきの、水を生成してからドラクの魔法を叩き込むという作戦はイオにも電流が当たってしまう可能性があるから、実行は不可能。別の手で攻めていくしかないんだ。
「あと数分でセキュリティを突破できると思う。それまでなんとか持ち堪えて!」
「わかった!」
イオの言葉に返事をしつつ、武器を構える。
剣を使おうかと思ったけど……物理があまり効かないアンドロイド相手では、使い慣れたものといえど大したダメージは期待できない。数回使ったことで大分慣れてきたし、私は急所を狙いやすい二丁拳銃をそのまま使うことにした。
みんなもそれぞれの得物を構えて、顔を見合わせて頷く。
……ここまで来て負ける訳にはいかない。その気持ちを互いに確認し合い、行手を阻もうとする敵に立ち向かっていった。




