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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第14章 マリオネットは糸切れてーMechanical Dystopiaー
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第183話 ファインド・マインド(1)

 

「『No.01』って……? それに、イオが原初のアンドロイドって」


「ま、いきなりそんなこと言ったってわかるわけねえか。とりあえず、日記の内容についての説明だな」


 いきなり告げられた話についていけず、首を傾げていた私達にルーザ達はすかさず指導者の日記から得たというもう一つの情報について説明し始める。


 黒い結晶に接触する少し前に書き込まれていた内容……孤独にさいなまれていたギデオンが、素の自分を曝け出せる友人を欲していたらしいこと。でも、指導者という立場から住人にも一定の距離を保たれていたギデオンは、虚しいことは自覚しつつも苦肉の策としてアンドロイドを作るに至ったらしい。そしてそのアンドロイドこそ、『No.01』だそうだ。

 ギデオンの日記によると、その『No.01』には「他人の役に立つこと」と、生き物とは何か、心とは何かを理解すること」という命令が与えられていたとのこと。アンドロイドの行動原理となっているものは命令、それはイオからも既に説明されていたけれど……


「でも、それだけじゃイオがその『No.01』って証明にはならないような……」


「まあな。それっぽい頭の文字と、行動原理が似てるってだけだし、証拠としては弱い。オマケに当の本人の記憶が飛んでるんじゃ、今はどうしても可能性の域を出ない。だが、それもギデオン本人に見せればいいだけの話だ」


「まあ、そうかもしれねえけどよ。でも、もしイオが本当に『No.01』ってやつだったとして、なんか変わるってのか? 確かにその『No.01』ってやつはギデオンにとっては大事なやつかもだけどよ、『滅び』が絡んでるんじゃ意味ねえだろ。ほら、フェリアス王国の時だって」


「うん。『滅び』に取り憑かれたアルヴィスさん、僕達がいくら説得しても聞く耳持たなかったし、ベアトリクス様の言葉ですら届いてなかったよね。仮に予想が当たっていたとしても、問題解決に効果があるとはちょっと思いにくいかな」


 説明を聞いても、確固たる証拠が無い状況では当然だけど半信半疑だった。それが何になるんだと言わざるを得ない。前回のフェリアス王国での件もあって、イオがもし本当にその『No.01』だったとしても、特に効果は期待できそうにないのが本心だ。

 でもそれは、ルーザ達だってわかっている筈。それを承知で、何か理由があってイオをギデオンの元へ連れて行こうとしているのだと思うから。


「説得のためじゃないんでしょ? わたしがそれ提案した時、オスクさんに却下されちゃったし」


「ああ。効果が無いのをわかっていて実行する馬鹿はいないだろ」


「じゃあ、何のためだってんだ?」


「……成る程ね、後始末ってか」


「ああ、そうだ」


「ええっと……?」


 どうやら、オスクはいち早くルーザの目的を理解したらしい。後始末……それが一体何を意味するのか、考え込もうとする私達を見兼ねて、今度はオスクが「つまりさ」と説明を始める。


「説得は無意味、それは間違いないだろうさ。でも、精霊王サマのとこの忠犬は、『滅び』を引き剥がした後どうなった?」


「アルヴィスさんの時? えっと確か……私達と、主君であるベアトリクスさんにまで刃を向けたことを後悔して、自暴自棄になって……あっ!」


「そう、そういうこと」


 ハッとする私に、オスクは満足気にうなずく。後始末……それが何を意味するのか、やっとわかった。

 日記の内容によれば、ギデオンが狂ったのはそもそも指導者という立場からの孤独と、あまりにも重い責任に押し潰されていたのが原因だ。『滅び』は精神的に弱っていたところを付け込んだに過ぎない。取り憑いた『滅び』を引き剥がせてもギデオンの心までは救われない……根本的な解決には至らないんだ。


 アルヴィスさんはベアトリクスさんの説得があったからこそ、立ち直ることが出来た。私も同じような状況に陥った時、ルーザや姉さん、それにみんながいてくれたから再び前を向くことができた。

 でも、孤独なギデオンには寄り添ってくれる相手が今はいない。寄りかかれる相手もおらず、本心をさらけ出すこともできないまま。元々指導者として、責任感だって高かったことだろう。そんな人物がその状態で『滅び』の支配から解放されても、良心の呵責(かしゃく)に耐えられる筈が無い。そうなった者が辿る道は……きっととても残酷なものになる。

 そこでギデオンが友人として製作した『No.01』が必要なんだと、ルーザはそう言っているのだろう。


「理解したっぽいな。憑いた『滅び』を引っ剥がして、結晶を浄化するのは力尽くでもなんとかなるだろうさ。でも、その指導者サマをそのまま放置しようものなら、ロクな結果にならないこと間違い無しだ。同じことを繰り返すのはまだいい。最悪、罪悪感に押し潰されて自ら破滅を選ぶ可能性もあるわけだし」


「……っ」


「幸い、ヤツが最も欲してるものはわかってるし、それっぽいやつもお前らが捕まえてたんだ。少なくともすぐさま身投げすることは避けられると思うけど」


「え。でもギデオンさんが精神的に弱ったのって、寂しかったのと一緒に他の国の関係もあったわよね? それもなんとかしなくちゃいけないんじゃないかしら」


「バーカ。そんな一から十まで面倒見られるかっての。そんなの所詮は他人事、僕らには関係ない。大体、その指導者サマは何でもかんでも自分で背負い込みすぎ。それで心を病んだんなら自業自得じゃん」


「む、むぅ……」


 カーミラさんはそれじゃまだ足りないと主張するけど、オスクにそれ以上は無理だと突っぱねられてしまった。

 でも、オスクの言うことは正しい。言い方は冷たく聞こえてしまうかもしれないけれど、部外者である私達ができることは少ない。会ったこともない私達がギデオンに寄り添うのは難しいし、ましてや外交のことに口出しするわけにもいかない。いつかは自分で動かなければならない時は必ずやってくる。

 私達がやれるのは、スタートラインに立つ手助けをするところまでだ。


「そういう訳でイオ、お前にギデオンの心を救ってほしいんだ。他でもない、やつが友人として生み出して、自分の子供のように思っていたお前に」


「……難しいと思うな。ボクには、その時の記憶はない。ボクが本当に『No.01』だったとしても、覚えていないのでは効果は低いんじゃないかな。それに、ボクはアンドロイドだ。機械の人形だ。ボクには心がない……感情表現だって、模倣して取り繕った作り物だ。心がないボクが心を救えるとは思えないよ」


「そんなの、やってみなきゃ分かんねえじゃねえか! やる前からできないって決めつけるのはダメだろ!」


「そうですよ、イオ君。可能性はゼロではない筈です。ほんの僅かでも希望があるなら、それに賭けてみるべきです」


「キミ達は……強いね。ボクは、命令されていても行動する前にどうしても計算してしまう。どの方法が効率がいいか、確率は高いか、順番に並べて最適だと思われるものを選んで、他は破棄してしまう。無理だろうと判断したら、怖くて実行できないんだ」


「イオ……」


「でも、そこまで言われるとやるしかないね。ボクは誰かの役に立つことが一番の喜びだ。ボクが動くことで、救われる可能性があるならやってみよう。そもそも、ボクがルージュ達に同行したのは貧民街の暮らしを改善するためだからね。その目的を達成するには自分から行動するべきだ。それはこれまでのルージュ達の在り方から学ばせてもらったことだからね」


「……そうか、恩に着るぜ」


「お礼はまだ早いよ。ボクはまだ何もしていない。それはボクが行動に移して、良い結果を得られた時に取っておいてくれるかな」


「ああ、そうだな。礼を言うのは全部終わってからだ」


「うん。先を急ごう!」


 私達は頷き合い、それまで止めていた歩みを再び進める。一刻も早く、カルディアに浸食している『滅び』を退け、ギデオンの心を救わなければと。


 ────その最中、最後尾にいるイオはふと足を止めた。


「ボクも、見つけたいな。誰かのために動ける、寄り添おうとする、みんなのような温かくて強い心を。それを得る方法を」


 イオは自分の金属でできた手をじっと見つめ……強く握りしめる。


「『生き物とは、心とは何かを理解すること』……その答えが、この先で得られるといいな」


 そう、静かに呟いた後……イオは一行の後を追うべく、急いで駆け出した。

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